帯状疱疹ワクチン

医療全般

帯状疱疹とは何か

帯状疱疹(ヘルペス・ゾスター)という名前を聞くと、多くの方は「痛みを伴う発疹」として認識しているでしょう。早期に治療しないと、非常に辛いものです。しかも、発症部位によっては、特に顔面など、より辛い思いをします。
しかし、この疾患の背後には、もっと深刻で、そして見過ごされがちなリスクが潜んでいます。それが、帯状疱疹後神経痛(Postherpetic Neuralgia: PHN)です。これは帯状疱疹が治癒した後も数ヶ月から数年にわたり続く、耐えがたい痛みを伴う合併症です。帯状疱疹発症急性期が辛いだけでなく、発症後に残るこの痛みは、患者の生活の質を著しく低下させる要因となります。これらのリスクを減少させるために、帯状疱疹ワクチンの接種は非常に有益です。

帯状疱疹の原因とリスク

帯状疱疹は、かつて水痘(水ぼうそう)に感染した際のウイルスが脊髄後根神経節に潜伏し、免疫が弱ったときに再活性化することで発症します。このウイルスは神経に潜み、その再活性化は通常、50歳を過ぎた頃からリスクが急上昇します。日本国内のデータによれば、80歳までに約3人に1人が帯状疱疹を経験し、特に高齢者に多いことがわかっています。また、帯状疱疹後の神経痛に苦しむ人の割合は10%から50%にも及びます。しかも、加齢によってこのリスクは増加し、60歳以上の方々では一層深刻な問題となります。

帯状疱疹の治療と予防

帯状疱疹の治療には抗ウイルス薬が効果的であり、発疹が出現してから72時間以内に治療を開始すれば、症状の緩和や合併症の予防が可能です。しかし、何よりも重要なのは「予防」です。実際、予防接種は帯状疱疹の発症自体を減少させ、もし発症しても重症化するリスクを大幅に下げる効果があります。

生ワクチン(ZOSTAVAX®)

本邦で使用されている乾燥弱毒生水痘ワクチン 「ビケン」 は, ZOSTAVAX®と本質的に同じワクチンです。ZOSTAVAX®という帯状疱疹ワクチンの大規模研究によると、接種後に帯状疱疹の発症が51.3%減少し、PHNの発症が66.5%減少したと報告されています。このワクチンは弱毒化された生ウイルスを使用しており、特に健康な50歳以上の成人に対して推奨されます。しかし、その効果は加齢と共に減少し、高齢者に対する長期的な予防効果には限界があるとされています。

シングリックス(Shingrix®)

一方で、より新しい世代の不活化ワクチンであるシングリックス(Shingrix®)は、より高い予防効果を提供します。Shingrix®は2回の接種を必要とし、その有効性は50歳以上の成人において90%以上と非常に高いことが示されています。また、80歳以上の高齢者においてもその効果は持続し、帯状疱疹およびPHNの発症リスクを大幅に低減します。シングリックスは、弱毒生ワクチンとは異なり、不活化ワクチンであるため、免疫抑制状態にある方でも安全に接種できる点が大きな特徴です。

シングリックスの副反応としては、接種部位の痛み、発赤、腫れが一般的であり、全身的な副反応としては発熱、筋肉痛、倦怠感などが報告されていますが、これらは通常数日以内に解消します。これに対して、生ワクチンであるZOSTAVAX®も同様に局所的な反応が見られますが、シングリックスの方がより強い免疫反応を引き起こすため、一時的な不快感が生じやすいとされています。

当クリニックでは、帯状疱疹にどうしてもかかりたくない!という方にはシングリックスをお勧めしています。

ワクチン接種に対する不安と現実

では、なぜ多くの人が帯状疱疹ワクチンの接種に躊躇するのでしょうか?副反応が気になるからかもしれません。実際、帯状疱疹ワクチンの接種後には一時的な発赤、腫れ、疼痛などが起こることがありますが、それらは通常軽度で、すぐに治まります。一方で、帯状疱疹そのものやその後の神経痛が引き起こす痛みと日常生活への影響を考えると、ワクチンによる一時的な不快感は相対的に小さなリスクであると言えるでしょう。事実、帯状疱疹に関連した長期的な痛みは、睡眠障害や精神的な負担を引き起こし、患者のウェルビーイングを著しく低下させることが多いのです。

帯状疱疹のその他の合併症

さらに、帯状疱疹は他の合併症を引き起こすことがあります。例えば、Ramsay Hunt症候群では、顔面神経麻痺や聴覚障害が見られ、患者の日常生活に重大な影響を与えます。また、脳炎や髄膜炎、血管炎などの合併症も稀ではありますが報告されており、特に免疫機能が低下している人にとっては致命的となることもあります。

帯状疱疹ワクチンの価値

帯状疱疹ワクチンは、単に発疹を防ぐだけでなく、生活の質を守り、未来のリスクを大幅に減少させる手段です。迷っている方々にとって、ワクチン接種の決断は「今」を守るだけでなく、「未来」を守る行為です。たとえ副反応が気になるとしても、そのリスクを乗り越えて得られる安心感と、将来の健康への投資は計り知れない価値があります。

帯状疱疹は高齢者だけの問題ではない

帯状疱疹は、何も高齢者だけの問題ではありません。若い頃に水痘に感染した多くの方々が、年を重ねるごとにそのリスクと向き合うことになります。そして、そのリスクを低減するために私たちができる最善のことは、適切なタイミングでの予防接種です。各自治体から予防接種の助成が出ています。お住まいの自治体のホームページで確認してみて下さい。

例えば、目黒区はこちら。

「帯状疱疹予防接種費用助成」

https://www.city.meguro.tokyo.jp/kansenshou/kenkoufukushi/yobousesshu/taizyouhousin-hiyouzyosei.html

参考文献

・厚生労働省 帯状疱疹ワクチンファクトシート 第 2 版

・国立感染症研究所
新規帯状疱疹サブユニットワクチン
https://www.niid.go.jp/niid/ja/allarticles/surveillance/2433-iasr/related-articles/related-articles-462/8237-462r09.html

・目黒区「帯状疱疹予防接種費用助成」
https://www.city.meguro.tokyo.jp/kansenshou/kenkoufukushi/yobousesshu/taizyouhousin-hiyouzyosei.html

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