健康を左右する鍵、タンパク質
私たちの身体は、否が応でも日々歳を重ねていきます。年齢を重ねるにつれ、ある変化が私たちを待ち受けている可能性があります。それが、フレイルとサルコペニアです。
フレイルは、加齢によって身体の回復力が低下し、ちょっとしたストレスでも大きな健康問題につながる状態を指します。
サルコペニアは筋肉量と筋力が減少する状態で、フレイルの重要な原因とされています。
この問題は、単に「歳を取ること」の自然な一部ではありません。筋力が低下すると、転倒や骨折、最終的には介護が必要になるリスクが劇的に高まります。これを回避するために必要な対策は何でしょうか?科学は、その答えの1つが「タンパク質」です。
あなたの身体は、タンパク質不足かもしれません
現在、多くの人が食事から必要なタンパク質を摂取できていません。特に高齢者では、筋肉を維持するために若者よりも多くのタンパク質が必要です。しかし、現行の食事摂取基準(0.8 g/kg体重/日)は、筋肉を維持するには不十分である可能性が示唆されています。
研究によると、高齢者は1.0~1.5 g/kg体重/日のタンパク質を必要とすることが分かっています。タンパク質不足が続けば、筋肉の減少が進み、フレイルの入り口に立つことになるかもしれません。
タンパク質が十分でないとどうなるのか?それはまるで、身体が必要な資材(アミノ酸)を得られない建設現場のようなものです。筋肉は次第に解体され、エネルギー源として使われてしまいます。特に筋肉の重要な構成要素であるロイシンを含む必須アミノ酸が不足すると、筋肉の合成が著しく低下します。
動物性タンパク質と植物性タンパク質:どちらを選ぶべきか?
「プロテイン」と聞くと、すぐにサプリメントを思い浮かべるかもしれません。しかし、日常の食事から摂るタンパク質も極めて重要です。ここで一つの疑問が浮かびます:動物性タンパク質と植物性タンパク質、どちらが優れているのか?
動物性タンパク質(肉、魚、乳製品、卵)は、必須アミノ酸と分岐鎖アミノ酸(BCAA)が豊富で、筋肉合成を最も効率的に促進することがわかっています。例えば、ホエイプロテインは筋肉の合成を活性化するmTORシグナルを強力に刺激します。一方で、植物性タンパク質(大豆、豆類、ナッツ)は消化吸収効率が低いため、同じ量を摂取しても筋肉合成の効果は動物性ほど高くありません。
しかし、植物性タンパク質にはメリットもあります。食物繊維が豊富で、心血管疾患や肥満リスクの低下が期待される点です。そのため、動物性と植物性の両方をバランスよく摂取することが推奨されます。
フレイル予防の食事法:30 gのルール
最新の研究は、一度に多量のタンパク質を摂取する「一括型」よりも、1食当たり30 g程度のタンパク質を1日3回に分けて摂取する「分散型」のほうが、筋肉の維持に効果的であることを示しています。これは、身体が1回の食事で利用できるタンパク質量には限界があるためです。
体格により1回の摂取量は変わります。
1.0~1.5 g/kg体重/日のタンパク質を3回に分けて取るということです。
例えば、
体重60kgの人であれば、必要タンパク質量は60-90g/日であり、1食あたり20-30g摂取します。
体重40kgの人であれば、必要タンパク質量は40-60g/日であり、1食あたり14-20g摂取します。
不安を解消する未来の展望
「自分は十分なタンパク質を摂取できていないのでは?」と不安に感じた方もいるかもしれません。必要な知識を持ち、正しい食事やサプリメントを取り入れることで、将来の健康を守ることは可能です。
動物性と植物性タンパク質をバランスよく取り入れ、食事の中でタンパク質をしっかり摂取する習慣をつけ、さらに積極的な身体活動を心がけることで、フレイルやサルコペニアを遠ざけることができます。
参考文献
Coelho-Junior HJ, Marzetti E, Picca A, Cesari M, Uchida MC, Calvani R. Protein Intake and Frailty: A Matter of Quantity, Quality, and Timing. Nutrients. 2020 Sep 23;12(10):2915. doi: 10.3390/nu12102915. PMID: 32977714; PMCID: PMC7598653.