コントロールに難渋する高血圧(抵抗性高血圧)の評価と管理

血圧
  1. 抵抗性高血圧の定義と疫学的意義
  2. まずは「偽性抵抗性」を除外
  3. 血圧測定の最適化:診断の第一歩
      1. 自動診療室血圧測定(AOBP;Automated Office Blood Pressure)
      2. 家庭血圧測定(自己測定血圧)/SMBP(Self-Measured Blood Pressure)
  4. 血圧測定における誤差要因
      1. Empty bladder if needed(排尿を済ませる):最大 +10 mmHg
      2. Place cuff on bare arm(袖をめくらずに袖の上からカフを巻く):最大 +5~50 mmHg
      3. Select proper cuff size(適切なカフのサイズを選ぶ):+2~10 mmHg
      4. Arm supported with cuff at heart level(腕が心臓と同じ高さで支えられている):+10 mmHg
      5. Back and feet supported(背中と足をきちんと支える):+6 mmHg
      6. Legs uncrossed(脚を組まない):+2~8 mmHg
      7. Quiet space(静かな環境):+10 mmHg
      8. これらの誤差は「積み重なる」
      9. 測定誤差を避ける実践ポイント
  5. 薬剤関連高血圧とアドヒアランス向上策
      1. 薬剤関連高血圧
      2. 降圧薬のアドヒアンス
  6. 生活習慣介入:最も過小評価されている治療法
  7. 二次性高血圧の系統的評価
      1. 原発性アルドステロン症
      2. 睡眠時無呼吸症候群(OSA)
      3. 腎動脈狭窄症
  8. 薬物治療の最適化:段階的アプローチ
  9. 腎デナベーション:新たな治療オプション
  10. 明日からの臨床に活かす実践ポイント
  11. 最後に
  12. 参考文献
  13. 補足:ARNI(sacubitril/valsartan:エンレスト®)は?
      1. 日本におけるARNI(エンレスト®)の保険適応
      2. 高血圧への適応根拠(日本)
      3. 米国(FDA)と 欧州(EMA)における適応
      4. 海外で高血圧への適応がない理由
      5. まとめ

抵抗性高血圧の定義と疫学的意義

抵抗性高血圧(Resistant Hypertension: RHTN)は、最大耐用量またはほぼ最大耐用量の3種類の降圧薬(うち1つは利尿薬)を使用しても目標血圧を達成できない状態、あるいは4種類以上の降圧薬でようやく血圧がコントロールされている状態と定義されます。米国成人のほぼ半数が高血圧(収縮期血圧≥130mmHgまたは拡張期血圧≥80mmHg)と診断されており、その中でRHTNの真の有病率は正確に把握されていませんが、心血管イベントリスクが50%、腎不全発症リスクが25%増加することが知られています。

まずは「偽性抵抗性」を除外

前提として重要なのは、診断前に「偽性抵抗性」を除外することです。白衣高血圧効果(診察室では高血圧を示すが、診察室外では正常血圧)の影響を評価するため、24時間自由行動下血圧測定(ABPM)または家庭血圧測定(SMBP)の実施が推奨されます。特に、診察室血圧が130/80mmHg以上であるにもかかわらず、診察室外血圧が一貫して130/80mmHg未満の場合、白衣効果と判断されます。

血圧測定の最適化:診断の第一歩

自動診療室血圧測定(AOBP;Automated Office Blood Pressure)

正確な血圧測定は抵抗性高血圧診療の礎です。従来の聴診法に比べ、自動診療室血圧測定(AOBP;Automated Office Blood Pressure)は操作者バイアスを排除し、SPRINTやACCORDなどの主要臨床試験で採用された方法です。AOBPとは、医療施設内で自動的に複数回の血圧を測定する方法です。患者が医療者不在の室内で安静な状態で椅子に座り、全自動の電子血圧計が一定間隔で数回(通常3〜5回)測定を行い、その平均値を記録します。AOBPは左室重量指数などの標的臓器障害との強い相関が確認されており、診療室血圧測定のゴールドスタンダードとなりつつあります。
(注:しかしながら、スペースの確保や患者指導が必要などのハードルがあり、日本ではAOBPはあまり普及していません。)

家庭血圧測定(自己測定血圧)/SMBP(Self-Measured Blood Pressure)

SMBPとは、患者自身が家庭で決められたタイミング(朝・晩など)に血圧を測定する方法です。通常は上腕式の自動血圧計を用い、1回につき2回の測定を行い、その平均値を記録します。

家庭血圧測定を実施する際のポイントは以下の通りです。

  • 1日2回(朝:服薬前、夜:夕食前または就寝前)測定
  • 各回30-60秒間隔で2回測定
  • 3-7日間の平均値を使用(初日を除く場合も)
  • 上腕式オシロメトリック法の検証済み機器を使用
  • 目標値は平均<130/80mmHg

血圧測定における誤差要因

血圧測定における誤差要因として、よくあるものを挙げます。


Empty bladder if needed(排尿を済ませる):最大 +10 mmHg

  • 解説:膀胱が満杯だと交感神経が刺激されて、心拍数や血圧が上昇します。研究では、尿意がある状態で測定した血圧は、排尿後に比べて最大で10 mmHg高くなるとされています。
  • 臨床的教訓:患者には「測定前にトイレを済ませるよう」必ず伝えるべきです。

Place cuff on bare arm(袖をめくらずに袖の上からカフを巻く):最大 +5~50 mmHg

  • 解説:衣服がカフの下にあると、適切な圧力が血管に伝わらず誤差を生じます。特に厚手の服や折りたたんだ袖は圧迫の妨げになり、非常に大きな誤差(最大50 mmHg)を引き起こす可能性があります。
  • 臨床的教訓:「必ず素肌にカフを巻く」ことは最も基本的で、かつ最も影響が大きい操作の1つです。

Select proper cuff size(適切なカフのサイズを選ぶ):+2~10 mmHg

  • 解説:腕囲に対して小さすぎるカフは過大評価、大きすぎるカフは過小評価を招きます。たとえば、太い腕に細いカフを巻くと収縮期血圧が過剰に高く測定される可能性があります。
  • 臨床的教訓:腕囲に合わせたカフサイズ(例:大人用標準は22~32 cm、肥満例ではLサイズ)が必要です。

Arm supported with cuff at heart level(腕が心臓と同じ高さで支えられている):+10 mmHg

  • 解説:腕が心臓よりにあると水柱の原理で血圧が高く測定されます。10 cm下がると約7~10 mmHg上昇します。
  • 臨床的教訓:患者の腕を台の上に置くか、枕などで支えるのが基本です。

Back and feet supported(背中と足をきちんと支える):+6 mmHg

  • 解説:背もたれがなく、足も床についていない状態では、筋肉の緊張が交感神経を刺激して血圧が上がります。実際に平均で6 mmHg程度高くなります。
  • 臨床的教訓:測定時は椅子に深く腰掛け、背もたれに寄りかかり、足を床につけるよう患者を指導します。

Legs uncrossed(脚を組まない):+2~8 mmHg

  • 解説:脚を組むと大腿静脈を圧迫し、循環動態に変化を生じて血圧が上がります。交差脚では収縮期血圧が平均で2~8 mmHg上昇すると報告されています。
  • 臨床的教訓:「脚はまっすぐ前に出して、組まないように」と患者に明確に伝えましょう。

Quiet space(静かな環境):+10 mmHg

  • 解説:騒音や人の話し声がある環境では、患者が無意識に緊張し、交感神経活動が亢進して血圧が高くなります。特にAOBPでは無人かつ静穏な環境での測定が原則です。
  • 臨床的教訓:可能であれば専用の静かな個室で測定を行うのが望ましいです。

これらの誤差は「積み重なる」

上記の項目はそれぞれ独立して誤差を生む要因ですが、実際には複数が同時に起こることが多く、合計で20〜40 mmHg以上の誤差につながることもあります。

たとえば、

  • 厚手の袖の上からカフを巻き、
  • 足を組んで背もたれに寄りかからず、
  • 測定直前にトイレを我慢しながら、
  • 騒がしい診察室で医師の前で測る

という状況では、「仮想的な高血圧」が作られてしまうのです。


測定誤差を避ける実践ポイント

  1. トイレを済ませてから測定
  2. 袖をまくって素肌にカフを巻く
  3. 適切なカフサイズを選ぶ
  4. 腕を心臓の高さで支える
  5. 背中と足をしっかり支えた姿勢で
  6. 脚は組まず、まっすぐ前に出す
  7. 静かな部屋で測定する

これらの点を守ることで、誤差のない正確な血圧測定が可能になり、誤診や過剰治療を防ぐことができます。

こちらも参考に。

薬剤関連高血圧とアドヒアランス向上策

薬剤関連高血圧

多くの処方薬・市販薬が血圧上昇を引き起こす可能性があります。特に注意すべきはNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)で、降圧薬の効果を拮抗させることがあります。その他、カルシニューリン阻害剤(免疫抑制剤)、メチルフェニデート(中枢神経刺激剤)、VEGF阻害剤(血管新生阻害剤)、アルコール、カフェイン、タバコ、甘草なども血圧上昇に関与します。

症例提示:73歳女性(ロサルタン50mg×2/日、アムロジピン5mg/日、ヒドロクロロチアジド12.5mg/日、カルベジロール6.25mg×2/日服用)が膝痛でナプロキセン220mg×2/日(=ナイキサン;消炎鎮痛剤)を使用開始後、血圧が131/76mmHgから148/91mmHgに上昇。この場合、ナプロキセンをジクロフェナックゲル塗布薬に変更することが最適解です。

降圧薬のアドヒアンス

降圧薬のアドヒアンス不良は重大な問題で、処方された患者の25%が初回処方を調剤せず、5剤以上処方されている患者の50%が非アドヒアントです。アドヒアンス向上のための実践的戦略として以下が有効です。

  1. 1日1回投与の長時間作用型製剤への切り替え
  2. 配合剤の活用による錠剤数の削減
  3. 90日分処方による調剤頻度の低減
  4. 副作用の積極的モニタリングと用量調整
  5. 家庭血圧測定とフィードバックの組み合わせ

生活習慣介入:最も過小評価されている治療法

生活習慣修正は抵抗性高血圧管理の要です。中でもナトリウム制限は最も効果的で、RHTN患者で顕著な塩分感受性の亢進が見られます。ナトリウム制限はレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系阻害薬の効果を増強し、チアジド系利尿薬の低カリウム血症を相殺する効果もあります。

実践的アドバイス

  • 食塩摂取量を1日5g未満に(75%塩化ナトリウム+25%塩化カリウムの代替塩使用が有効)
  • DASH食(野菜・果物、全粒穀物、低脂肪乳製品を重視)の採用
  • アルコール制限(男性2杯/日、女性1杯/日以下)
  • 週150分以上の有酸素運動(10分以上のまとまった運動で可)
  • 5-10%の体重減少(GLP-1受容体作動薬が有用な場合も)

GLP-1受容体作動薬(リラグルチド、デュラグルチド、セマグルチド)やGIP/GLP-1二重受容体作動薬(チルゼパチド)は、体重減少・インスリン感受性改善を介して間接的に降圧効果を示します。

二次性高血圧の系統的評価

二次性高血圧の「見逃し防止」のために、全てのRHTN患者で表6の内分泌疾患スクリーニングを推奨しています。特に原発性アルドステロン症とOSAの併存率が高いと考えられています。

原発性アルドステロン症

RHTN患者の約20%に原発性アルドステロン症が存在すると推定されています。スクリーニングの鍵はアルドステロン/レニン比(ARR)で、座位・朝に測定します。ARR>30、またはARR>20かつアルドステロン>15ng/dLは原発性アルドステロン症を示唆します。

症例提示:75歳男性(クレアチニン1.5mg/dL、カリウム3.2mEq/L、重炭酸28mEq/L)でアルドステロン12ng/dL(基準<21)、レニン活性0.15ng/mL/時(基準0.25-5.82)の場合、高ナトリウム食下での24時間尿中アルドステロンとナトリウム測定が次のステップです。

睡眠時無呼吸症候群(OSA)

睡眠時無呼吸症候群(OSA)は24時間ABPMで夜間(特に午前0-5時)の血圧上昇(non-dipping)として検出可能です。CPAP治療(1晩4時間以上)で収縮期血圧2-5mmHg低下が期待できます。

腎動脈狭窄症

腎動脈狭窄症の評価には腎動脈ドプラ超音波が第一選択です。収縮期最大流速(PSV)や腎動脈/大動脈比、遠位部の「tardus-parvus」波形(上昇遅延・振幅低下)が診断に有用です。ただし、陰性でも臨床的疑いが強い場合はCTまたはMR血管造影を考慮します。

薬物治療の最適化:段階的アプローチ

降圧薬の最適化には系統的な段階的アプローチが推奨されます:

ステップ1(第一選択薬の最適化)

  • ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬(アムロジピンなど)
  • チアジド系利尿薬(ヒドロクロロチアジドよりクロルタリドンが優先)
  • ARBまたはACE阻害薬

ステップ2(第二選択薬の追加)

  • 鉱質コルチコイド受容体拮抗薬(スピロノラクトンまたはエプレレノン)

ステップ3(第三選択薬の追加)

  • α-β遮断薬(カルベジロールなど)
    特に、カルベジロールなどのα-β遮断薬は、β選択性薬剤(メトプロロールなど)に比べ、降圧効果が優れています。
  • ループ利尿薬(トルセミドなど長時間作用型が優先)
  • 非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬(ベラパミルなど)

ステップ4(第四選択薬の追加)

  • 中枢性α2作動薬(クロニジンなど)
  • 直接血管拡張薬(ヒドララジンなど)

5剤以上を要する場合、本態性高血圧のサブタイプである「難治性高血圧」とみなされ、交感神経抑制を目的とした治療が中心となります。

腎デナベーション:新たな治療オプション

腎交感神経の過活動はRHTNの重要なメカニズムです。腎デナベーション(RDN)はカテーテルを用いて腎交感神経を選択的に焼灼する手法で、2023年11月にFDA承認されました。第二世代の無作為化シャム対照試験では、収縮期血圧4-7mmHgの低下が確認されています。

適応例

  • 多剤不耐症の患者
  • アドヒアンス不良が持続する患者
  • 薬物療法で目標血圧が達成できない患者

ただし、推定GFR<30mL/min/1.73m²の患者は現時点での対象外です。長期予後に関するデータはまだ限られており、今後の研究結果が待たれます。

明日からの臨床に活かす実践ポイント

  1. 抵抗性高血圧と診断する前に、必ず家庭血圧または24時間ABPMで白衣効果を除外してください。
  2. 原発性アルドステロン症のスクリーニングとして、早朝・座位でアルドステロンとレニン活性を測定し、ARRを計算してください。
  3. チアジド系利尿薬はヒドロクロロチアジドよりクロルタリドン(※日本未販売)を優先し、ループ利尿薬はトラセミドなどの長時間作用型を選択してください。
  4. 生活習慣指導では、DASH食とナトリウム制限(塩分置き換えを含む)を最優先で実施してください。
  5. 多剤併用が必要な患者では、配合剤を活用し、アドヒアンス障害のリスクを最小化してください。

最後に

抵抗性高血圧の管理には、正確な診断、系統的評価、個別化された治療戦略が不可欠です。最新のエビデンスを踏まえ、患者中心のアプローチで心血管リスクの低減を目指しましょう。

参考文献

Cluett JL, William JH. Evaluation and Management of Resistant Hypertension: Core Curriculum 2024. Am J Kidney Dis. 2024;84(3):375-387. doi:10.1053/j.ajkd.2024.04.001

補足:ARNI(sacubitril/valsartan:エンレスト®)は?

日本では治療に難渋する高血圧にARNI(sacubitril/valsartan:エンレスト®)を使うことがしばしばあります。しかし、この論文(米国)では記載がありません。なぜなのでしょうか?

海外(特に米国や欧州)ではARNI(sacubitril/valsartan:エンレスト®)は高血圧に対しては保険適応がなく、主に心不全(HFrEF)に対する適応に限定されているようなのです。一方、日本では高血圧症に対しても保険適応があります。


日本におけるARNI(エンレスト®)の保険適応

日本では、2021年に「高血圧症」に対する保険適応が追加されました(元々は2020年「慢性心不全」に対して承認)。そのため、日本では以下の2つの疾患に対してARNIを使用できます。

  1. 慢性心不全(HFrEFを中心に)
  2. 高血圧症(本態性高血圧を含む)

高血圧への適応根拠(日本)

日本人を対象とした複数の臨床試験(例:PARAMETER-J、NOVEL試験)において、ARB単剤(バルサルタンなど)と比較して、sacubitril/valsartanがより有効に血圧を下げる効果が確認されました。とくに早朝高血圧や夜間高血圧に有用とする報告もあります。


米国(FDA)と 欧州(EMA)における適応

一方、米国FDAや欧州EMAにおいては以下の通りです。

  • 米国(FDA)
    • 適応疾患:慢性心不全(LVEF ≦ 40%)のみ(2015年承認)
    • 高血圧に対する使用はoff-label(適応外使用)となる。
  • 欧州(EMA)
    • 同様に、心不全(特にHFrEF)への使用が唯一の適応
    • 高血圧への適応は取得されていない。

海外で高血圧への適応がない理由

  • 欧米での高血圧ガイドラインでは、第一選択薬としてACE阻害薬、ARB、CCB、サイアザイド系利尿薬が中心であり、ARNIは「高価」「エビデンス不足」「安全性への配慮」から採用されていない。
  • 高血圧に特化した大規模臨床試験(アウトカム試験)が海外では不足している。

まとめ

  • 日本ではARNIは高血圧に保険適応があるため、実臨床でも使用されています。
  • 海外では適応外使用(off-label)であり、降圧薬としては一般的ではありません。
  • この違いは、薬価・エビデンス・医療制度の違いによるものです。
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