脂肪組織の不均一性:脂肪組織の部位による違い

肥満

はじめに

私たちは日常的に「脂肪が増えた、減った」と一喜一憂しますが、その脂肪が体のどこに位置し、どのような細胞で構成されているかまで意識することは稀です。しかし、医学の世界では、脂肪組織は単なる余剰エネルギーの貯蔵庫ではなく、全身の代謝を司る巨大な内分泌臓器として捉えられています。さらに重要なのは、脂肪組織がその存在する場所によって、全く異なる「人格」を持っているという事実です。

同じ1キログラムの脂肪であっても、下半身の皮下につくか、お腹の内臓の隙間につくかによって、私たちの健康に与える影響は180度異なります。本稿では、脂肪組織の不均一性がもたらす衝撃的な代謝への影響について、分子生物学的な視点からその深層に迫ります。

脂肪組織の解剖学:全身に散らばる独立した領土

脂肪組織は全身に一様に分布しているわけではなく、明確に区別されるいくつかのデポ(貯蔵部位)に分かれて存在しています。成人の体内において、脂肪組織が体重に占める割合は5%から60%と非常に大きな個人差があります。

皮下脂肪組織(Subcutaneous adipose tissues;SAT)

全脂肪の80%以上を占めるのが皮下脂肪組織(Subcutaneous adipose tissues;SAT)です。腹部や臀部、大腿部などがその代表例ですが、例えば腹部皮下脂肪であっても、スカルパ筋膜と呼ばれる結合組織の層によって「浅層」と「深層」に分断されており、これらは機能的に独立して肥満の代謝合併症に関与しています。

内臓脂肪組織(visceral adipose tissues;VAT)

一方で、胃や腸、大腸などの消化器の周囲にへばりつくように存在するのが内臓脂肪組織(visceral adipose tissues;VAT)です。具体的には、胃から垂れ下がる大網、小腸を支える腸間膜、大腸に沿う結腸間膜などが含まれます。この内臓脂肪は、総体脂肪のうち男性では10%から20%、女性では5%から10%を占めるに過ぎませんが、そのわずかな容積が全身の代謝を狂わせる主犯となります。

褐色脂肪組織(brown adipose tissues;BAT)

さらに、近年の研究では、首の周りや鎖骨上窩、腎周囲などに存在する褐色脂肪組織(brown adipose tissues;BAT)の存在も注目されています。白色脂肪細胞が直径20から200マイクロメートルに及ぶ巨大な単房性脂質滴で体積の95%を占めるのに対し、褐色脂肪は熱産生に特化しています。ただし、成人におけるadaptive thermogenesis(適応熱産生)や体重管理に対する臨床的な実効性は、まだ完全には証明されていません。

性別と人種が描く脂肪の地図

脂肪がどこにつくかという分布パターンは、性別や人種、加齢によって厳密に支配されています。

性差

一般に女性は男性よりも高い体脂肪率を持っていますが、男性が中央部(内臓および腹部皮下)に脂肪を溜め込みやすいのに対し、女性は下半身(臀部や大腿部)の皮下に蓄積しやすいという sexual dimorphism(性的二形)が存在します。この違いにはエストロゲンやアンドロゲンといった性ステロイドホルモンが深く関与しています。その作用機序は男女の生体環境によって異なり、例えば女性においてアンドロゲンが過剰な状態となる多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)では中央部肥満が引き起こされる一方で、男性においてはテストステロンが内臓脂肪への脂質貯蔵を抑制する特有のブレーキとして機能するため、これを投与すると中央部脂肪が選択的に減少することが知られています。

人種差

人種間の差異も顕著です。アフリカ系アメリカ人やヒスパニック系は、白人と比較して内臓脂肪の量が相対的に少ないことが示されています。一方で、南アジア人は白人に比べて中央部肥満、すなわち内臓脂肪が蓄積しやすい表現型を持っています。これらの分布特性は、加齢とともに変化し、男女問わず年齢を重ねるにつれて脂肪は中央部(内臓および腹部皮下)へとシフトしていきます。

内臓脂肪 vs 皮下脂肪

本論文では、各部位の脂肪組織を分子生物学的・細胞生物学的アプローチで比較し、その「本質的な不均一性」を浮き彫りにしています。

脂肪分解(リポライシス)のメカニズムにおける差異

まず、脂肪分解(リポライシス)のメカニズムにおける差異です。
脂肪細胞内のトリグリセリド(triglyceride ;TG)は、脂肪組織トリグリセリドリパーゼ(Adipose TG lipase ;ATGL)やホルモン感受性リパーゼ(hormone sensitive lipase;HSL)の働きによって遊離脂肪酸(free fatty acids;FFA)とグリセロールに加水分解されます。
大網などの内臓脂肪細胞は、皮下脂肪細胞に比べて、脂肪分解を抑制するα2アドレナリン受容体の発現が低く、逆に脂肪分解を促進するβアドレナリン受容体の発現が高いという特徴があります。このため、ストレス時や心身の活動時には、内臓脂肪から爆発的にFFAが放出されます。さらに、内臓脂肪はインスリンによる脂肪分解抑制作用(抗脂肪分解作用)に対しても抵抗性を示します。

トリグリセリドの合成と貯蔵能

次に、トリグリセリドの合成と貯蔵能です。
食事から摂取した脂質(中性脂肪)の取り込み効率を測定すると、単位組織重量あたりでは、腹部皮下よりも内臓脂肪の方が食事由来脂肪酸の取り込みが大きく皮下脂肪間では上半身皮下の方が下半身皮下よりも取り込みが多いことが分かっています。男性において、中等度のウエスト周囲径である段階から内臓脂肪細胞が肥大化し、リポタンパクリパーゼ(lipoprotein lipase;LPL)活性が高まる現象が見られ、これが男性の中央部肥満を強力に推進する駆動力を形成しています。

アディポカインのプロファイル

さらに劇的な違いは、分泌されるアディポカインのプロファイルにあります。
内臓脂肪組織は、IL-6、IL-8、MCP-1、RANTES、MIP-1α、PAI-1といったプロインフラマトリー(炎症性)サイトカインを過剰に発現・分泌します。対して、皮下脂肪組織は、食欲やエネルギー代謝を調節するレプチンや、IP-10を高発現しています。

オメンチン(omentin)

特筆すべき分子として「オメンチン(omentin)」が挙げられます。オメンチンは大網(内臓脂肪)から特異的に分泌されるアディポカインであり、皮下脂肪からは分泌されません。この分子はインスリン刺激による脂肪細胞へのグルコース取り込みを促進する作用を持ちますが、肥満やインスリン抵抗性の状態ではその血中濃度および遺伝子発現が著しく低下します。炎症性サイトカインの嵐に晒される内臓脂肪において、オメンチンは自身のデポを保護する防壁として機能している可能性がありますが、肥満によってその防壁が崩壊するのです。

門脈仮説とスピルオーバー:なぜお腹の脂肪は毒なのか

中央部肥満、なかんずく内臓脂肪の過剰蓄積がなぜこれほどまでに有害視されるのか、そこには2つの主要な病態生理学的メカニズムが存在します。

ポータル(門脈)仮説

第1のメカニズムが「ポータル(門脈)仮説」です。解剖学的に、内臓脂肪組織からの静脈血はすべて門脈を経由して直接肝臓へと流れ込みます。前述の通り、内臓脂肪は脂肪分解のブレーキが効きにくくアクセルが踏み込まれた状態にあるため、大量のFFAが門脈を通じて肝臓に直撃します。肝細胞が過剰なFFAに曝露されると、肝インスリン抵抗性が惹起され、糖新生が亢進して空腹時高血糖をもたらします。また、インスリンの分解能が低下して高インスリン血症を招くとともに、VLDL-TGの合成・分泌が跳ね上がり、脂質異常症や非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)の引き金となります。門脈内では、末梢の動脈血と比較してIL-6濃度が高く、レプチン濃度が低いことも確認されており、この炎症性シグナルが肝臓のC反応性タンパク(CRP)産生を促し、全身の慢性炎症を増幅させます。

スピルオーバー(あふれ出し)仮説

第2のメカニズムが「スピルオーバー(あふれ出し)仮説」です。これは、皮下脂肪組織がエネルギーの安全な貯蔵庫としてのキャパシティ(限界)を迎えた結果として、内臓脂肪やその他の組織への脂質蓄積が始まるという考え方です。皮下脂肪の拡張性が限界に達し、既存の脂肪細胞が最大限に肥大化して新たな脂肪細胞の動員に失敗すると、行き場を失った過剰エネルギーが内臓脂肪デポへ、さらには本来脂質を貯め込むべきではない肝臓、骨格筋、膵β細胞などの組織へと「異所性脂肪」として溢れ出します。これにより、各臓器で脂質毒性(lipotoxicity)が発現し、全身性のインスリン抵抗性や膵臓からのインスリン分泌不全が引き起こされます。

ちなみに、皮下脂肪のキャパシティ内であっても内臓脂肪への蓄積は生じますが、皮下脂肪が限界を迎える前であれば、過剰な脂質の大部分を皮下脂肪が安全に吸収してくれているため、致命的な脂質毒性は免れます。

脂肪細胞の死とリモデリング:ミクロの戦場

脂肪組織が肥大化していくプロセスにおいて、組織の内部では壮絶な remodeling(再構築)が進行しています。

hyperplasia:細胞増殖/hypertrophy:細胞肥大

組織の拡張は、前駆脂肪細胞の増殖・分化(hyperplasia:細胞増殖)と、既存の細胞の肥大化(hypertrophy:細胞肥大)のバランスで決まります。ここでもデポ間の格差は冷酷です。内臓脂肪組織は、皮下脂肪組織に比べて前駆脂肪細胞の絶対数が少なく、その増殖・分化能も低いことが示されています。つまり、内臓脂肪は過栄養に直面した際、細胞数を増やして分散貯蔵することができず、個々の細胞が限界まで膨らむ「過度な肥大化」を選択せざるを得ません。

hypertrophy:細胞肥大→microhypoxia(微小低酸素状態)→CLS→炎症

脂肪細胞が肥大化する一方で、組織内の微小血管の拡張が追いつかないと、組織内部は microhypoxia(微小低酸素状態)に陥ります。この低酸素ストレスと過度の肥大化は、脂肪細胞の細胞死(アポトーシス)を誘導します。死んだ脂肪細胞の周囲には、その脂質残渣を処理するためにマクロファージが遊走・集結し、crown like structures(CLS:冠状構造)と呼ばれる特徴的な組織像を形成します。

このCLSは、皮下脂肪に比べて内臓脂肪において圧倒的に多く観察されます。内臓脂肪では、マクロファージを呼び寄せるMCP-1やGM-CSF、急性期タンパクであるSAA(serum amyloid A)が高発現しているため、好戦的なマクロファージが次々と浸潤し、炎症性サイトカインをさらに撒き散らすという悪循環が完成します。大網におけるCLSの数は、肝臓の線維化・炎症性病変の重症度や肝脂肪含有量、ひいては全身のインスリン感受性と極めて強固に相関していることが人間の臨床データでも実証されています。

上半身皮下脂肪は主に細胞の「肥大化」・下半身(臀部・大腿部)皮下脂肪は細胞の「増殖」

皮下脂肪内での比較においても、興味深い事実が報告されています。過食実験において、上半身皮下脂肪は主に細胞の「肥大化」によって容積を拡大するのに対し、下半身(臀部・大腿部)皮下脂肪は細胞の「増殖(数を増やすこと)」によって拡張します。下半身脂肪が代謝的に保護的である理由は、この優れた細胞増殖能によって、個々の細胞にストレスをかけることなく脂質をマイルドに包み込むことができる能力に由来しているのです。

そして、これらの部位ごとの運命は、後天的な環境だけで決まるわけではありません。グローバルな遺伝子発現解析により、内臓脂肪と皮下脂肪の前駆細胞では、細胞分化や器官形成、体の前後・背腹軸のパターニングに関わる「発生学的な遺伝子(developmental genes)」の発現パターンが根本から異なっていることが判明しています。この固有のプログラムは、細胞を取り出して体外で何代も培養し分化させた後でも消えることなく維持されます。すなわち、各部位の脂肪細胞は、発生初期のエピジェネティックな制御によって、生まれながらにしてその代謝的宿命を背負わされているのです。

本総説のまとめと臨床的視点:明日からの行動変容に向けて

本論文は、個々の臨床研究ではなく、これまでに蓄積された多数の生体内(in vivo)および体外(in vitro)の基礎・臨床研究のデータを俯瞰し、脂肪組織の部位特異的な生物学を包括的に統合した質の高い総説(レビュー)です。

この不均一性の科学を理解した私たちが、明日からの臨床や生活に活かせる具体的な実践プランを以下に提示します。

まず、健康評価の指標として、単純な体重やBMI(体格指数)への依存を直ちに脱却することです。体重が標準範囲内であっても、内臓脂肪型肥満、いわゆる「隠れ肥満(TOFI: Thin Outside, Fat Inside)」であれば、深刻な代謝リスクを抱えていることになります。明日から実践できる最も簡単かつ強力な行動は、ウエスト周囲径とヒップ周囲径を正確に測定し、ウエスト・ヒップ比(WHR)を算出することです。臨床的な基準値として、ウエスト周囲径が男性で102cm、女性で88cmを超えている場合、あるいはWHRが男性で1.0、女性で0.8を超えている場合は、内臓脂肪の過剰蓄積による代謝疾患リスクが跳ね上がっている警戒サインです。

次に、減量アプローチにおける希望の共有です。外科的なアプローチである脂肪吸引(皮下脂肪の大量除去)を行った研究では、インスリン感受性や心疾患リスク因子の改善は見られなかったことが報告されています。しかし、食事療法と運動療法を組み合わせた自然な体重減少においては、皮下脂肪よりも内臓脂肪の方が優先的に減少(Preferential fat loss)するという極めて都合の良い生体反応が証明されています。つまり、「正しい生活習慣の改善は、最も危険な脂肪から順に燃やしてくれる」という分子生物学的な事実を理解し、日々の食事管理や有酸素運動のモチベーションを高めることが重要です。

本論文の限界(Limitation)

本総説は脂肪組織の不均一性に関する膨大な知見を整理していますが、以下の限界や未解明な課題を残しています。

  • 脂肪分布の性的二形や人種間の差異を決定づける遺伝的・環境的因子の相互作用や、性ステロイドホルモンが部位特異的にシグナルを伝達する分子メカニズムの全貌は、いまだ完全には解明されていません。
  • インスリンが持つ抗脂肪分解作用について、異なる皮下脂肪デポ間(腹部 vs 臀部・大腿部)での感受性の違いに関するこれまでの臨床データには一貫性がなく、結論が出ていません。
  • 人間において門脈血を直接採取してFFA濃度を測定することは技術的・倫理的制約が大きく、一部のデータでは門脈血のFFA値が末梢血と必ずしも有意な差を示さない例もあり、ヒトにおける「門脈仮説」の絶対的な寄与度については議論が続いています。
  • 肥満患者に対する外科的大網切除術(omentectomy)が代謝改善をもたらすか否かについての臨床試験結果にはバラつきがあり、胃バイパス術による劇的な体重減少そのものの効果と明確に分離して評価することが困難です。
  • 前駆脂肪細胞の増殖能や分化能に関する評価の多くは、生体から取り出された体外(in vitro)での細胞培養系に依存しており、実際の生体内における複雑な神経支配、血流状態、extracellular matrix(細胞外マトリックス)の組成といった多角的な微小環境(microenvironment)を完全に再現できているわけではありません。

参考文献

Lee, M. J., Wu, Y., & Fried, S. K. (2013). Adipose tissue heterogeneity: Implication of depot differences in adipose tissue for obesity complications. Molecular Aspects of Medicine, 34(1), 1–11. https://doi.org/10.1016/j.mam.2012.10.001

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