内臓脂肪:「大網脂肪」とは一線を画す「腸間膜脂肪」 

肥満

はじめに

日々の臨床や健康管理において、私たちは内臓脂肪の蓄積に目を光らせています。しかし、一口に内臓脂肪と言っても、実はその場所によって性質が大きく異なることをご存じでしょうか。これまで内臓脂肪の研究の多くは、アプローチのしやすさから大網脂肪(omental adipose tissues)を対象としてきました。しかし、私たちの胃腸を支えるように存在するもう一つの内臓脂肪「腸間膜脂肪(mesenteric adipose tissues)」こそが、肥満に関連する2型糖尿病や代謝症候群の真の主犯格である可能性が浮かび上がってきました。今回は、採取が困難なためこれまでベールに包まれていたヒト腸間膜脂肪の機能と分子生物学的な異常を解き明かした画期的な学術論文をご紹介します。

本研究のプロトコール概要

本論文は、胃バイパス手術という貴重な機会を活かして、ヒトの異なる脂肪組織を直接採取し、その機能を詳細に比較した単一の臨床研究です。その概要は以下の通りです。

研究デザイン:横断的症例対照研究

対象(Patients):胃バイパス手術を受ける高度肥満患者18名

曝露・介入(Exposure):2型糖尿病の合併(糖尿病群10名、年齢50±3歳 vs 非糖尿病群8名、年齢48±5歳)

比較(Comparison):同一個体内における3つの脂肪デポ、すなわち腹部皮下脂肪(SC)、大網脂肪(OM)、腸間膜脂肪(MS)の機能差

結果(Outcomes):各脂肪組織における脂質分解能(グリセロールおよび遊離脂肪酸の放出量)および分子生物学的遺伝子発現レベルの差異

新規性

この研究の最大の新規性は、まさにこの患者背景をベースにしながら、これまでアプローチが難しかった「腸間膜脂肪」の動態を、皮下脂肪や大網脂肪と直接比較した点にあります。従来の常識では、内臓脂肪は一括りにされがちでしたが、本研究は腸間膜脂肪が他の脂肪組織とは独立した、極めて特異的かつ悪性度の高い分子生物学的特徴を持っていることを世界で初めて明確に示したのです。

背景データ:非糖尿病群 vs 糖尿病群

まず、研究対象となった2群の背景データを詳細に見てみましょう。
肥満度を表すBMIは、非糖尿病群が46.1±3.1 kg/m2、糖尿病群が44.9±6.5 kg/m2であり、両群ともに同程度の極めて高度な肥満状態にあります。
血圧に関しては、収縮期血圧が非糖尿病群135±23.1 mmHgに対して糖尿病群143±12.5 mmHg、拡張期血圧が非糖尿病群91±7.5 mmHgに対して糖尿病群95±3 mmHgと、糖尿病群でやや高い傾向にありました。

明確な差が現れたのは生化学データです。
空腹時血糖値は、非糖尿病群が101±8.9 mg/dLであったのに対し、糖尿病群では178±11.3 mg/dLと、統計学的に極めて有意に高値を示していました。
さらに脂質プロファイルにおいても、総コレステロール値は非糖尿病群の188.9±12.9 mg/dLに対して糖尿病群が243.4±31.4 mg/dL、トリグリセリド(中性脂肪)値は非糖尿病群の125.3±21.3 mg/dLに対して糖尿病群が223±31.4 mg/dLと、糖尿病群で著しい高値が確認されています。

脂質分解の暴走:異常な基礎分泌とカテコールアミン抵抗性

脂肪組織の重要な機能の一つに、エネルギーの貯蔵と放出があります。空腹時などには、交感神経から分泌されるカテコールアミンなどの刺激によって脂質が分解され、グリセロールと遊離脂肪酸(Free fatty acid;FFA)として血中に放出されます。本研究では、この脂質分解能を評価するために、組織100 mgを用いた体外インキュベーション実験を行いました。

基礎グリセロール放出量

浮かび上がってきたのは、糖尿病患者の脂肪組織における「脂質分解の暴走」です。まず、何の刺激も与えない状態での基礎グリセロール放出量を測定したところ、糖尿病群では皮下脂肪、大網脂肪、腸間膜脂肪のすべての部位において、非糖尿病群よりも有意に放出量が増加していました。中でも、腸間膜脂肪における基礎グリセロール放出量の増加は突出していました。これは、糖尿病状態にある腸間膜脂肪が、本来エネルギーを蓄えるべきときであるにもかかわらず、勝手に脂質を分解して周囲に遊離脂肪酸を垂れ流し続けていることを意味します。

交感神経刺激を模したイソプロテレノール刺激

さらに衝撃的なのは、交感神経刺激を模したイソプロテレノール(ISO、10^-7 M)を添加したときの反応です。健康な非糖尿病群では、イソプロテレノール刺激によってすべての脂肪組織でグリセロール放出が劇的に増加し、特に皮下脂肪では顕著な応答が見られました。しかし、糖尿病群ではこのイソプロテレノール刺激に対する反応が、3つの脂肪組織すべてにおいて著しく障害されていました。

特に腸間膜脂肪においては、刺激による上乗せがほとんど見られないほど反応が鈍麻(ブランチング)していました。この現象の背景には、糖尿病患者の腸間膜脂肪ではすでに基礎状態での脂質分解が限界まで高まっているため、いざ交感神経からの警告シグナルが来ても、それ以上脂質を分解して放出する余力が残されていないという病態が存在します。

腸間膜脂肪で何が起きているのか:分子生物学的視点からの解析

なぜ糖尿病患者の腸間膜脂肪は、これほどまでに暴走し、かつ刺激に対して鈍感になってしまうのでしょうか。本研究は、リアルタイムPCR法を用いてその答えとなる分子生物学的なメカニズム、すなわち遺伝子発現の異常を突き止めました。メッセンジャーRNA(mRNA)の発現量をGAPDHシグナルで標準化して比較したところ、以下の5つの重要因子の挙動が明らかになりました。

局所のレプチン発現亢進

1つ目は、内分泌機能を担うレプチンです。レプチンは本来、満腹中枢に働いて食欲を抑え、エネルギー恒常性を維持するホルモンです。しかし糖尿病群では、腸間膜脂肪におけるレプチンのmRNAレベルが、皮下脂肪や大網脂肪を遥かに凌駕するレベルで有意に上昇していました。実際の血中レプチン濃度も、非糖尿病群の43±4 ng/mlに対し、糖尿病群では56±7 ng/mlと有意に高くなっていました。これは、局所のレプチン合成の亢進が、全身性の高レプチン血症(レプチン抵抗性)に直結していることを示しています。

アディポネクチン発現低下

2つ目は、同じく内分泌機能を持つアディポネクチンです。アディポネクチンはインスリン感受性を高め、抗炎症・抗動脈硬化作用を持ついわば善玉ホルモンです。しかし、糖尿病群の腸間膜脂肪ではアディポネクチンのmRNA発現が有意に低下していました。血中アディポネクチン濃度をみても、非糖尿病群の8.2±1.5 μg/mlから糖尿病群では5.9±1.3 μg/mlへと有意に減少しており、インスリン抵抗性を悪化させる分子基盤が腸間膜で形成されていることが分かります。

PPAR-γ発現亢進

3つ目は、脂肪細胞の分化や脂質代謝のマスターレギュレーターである転写因子、PPAR-γ(Peroxisome proliferator-activated receptor-gamma;ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γ)です。興味深いことに、従来の報告通り、皮下脂肪と大網脂肪の間ではPPAR-γの発現量に有意な差はありませんでした。しかし、糖尿病群の腸間膜脂肪においては、PPAR-γのmRNA発現が極めて特異的に、かつ著しくアップレギュレートされていました。この発現亢進が、腸間膜脂肪における特殊な脂質分解病態を駆動している強力な要因と考えられます。

FAT/CD36発現亢進

4つ目は、長鎖脂肪酸の輸送を担う膜タンパク質、FAT/CD36(Fatty acid translocase)です。非糖尿病群では、3つの脂肪組織間でFAT/CD36の発現に目立った差はありませんでした。しかし糖尿病群になると、3つのデポすべてで発現が上昇し、中でも腸間膜脂肪における発現の跳ね上がり方は圧倒的でした。インスリンによる制御が乱れた結果、腸間膜脂肪がドラスティックに遊離脂肪酸を取り込み、また放出するという、極めて動的な代謝異常に陥っている姿がここに描写されています。

11β-HSD1発現亢進

5つ目は、局所のグルココルチコイド活性を調節する酵素、11β-HSD1(11β- hydroysteroid dehydrogenase;11β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素1型)です。この酵素は、血中の不活性型コルチゾンを活性型コルチゾールへと変換し、細胞内のストレスホルモン濃度を高める働きをします。糖尿病群では11β-HSD1のmRNAが皮下脂肪や大網脂肪でも緩やかに増加していましたが、腸間膜脂肪において最も劇的な発現上昇を記録しました。
腸間膜脂肪の11β-HSD1が局所ストレスホルモンを過剰産生し、脂質代謝の指揮官であるPPAR-γを暴走させます。その結果、脂肪酸の入り口である輸送体FAT/CD36が細胞膜に乱立して激しい脂肪の異常代謝を引き起こし、最終的にレプチンの異常な過剰分泌へとドミノ倒しのように連鎖していく可能性が示唆されます。この分子病態の連鎖が、門脈を通じて肝臓を直撃し、全身の糖尿病病態を悪化させる元凶となります。

門脈直結という構造的脅威

腸間膜脂肪から放出された解離グリセロールや遊離脂肪酸は、脂肪肝や全身のインスリン抵抗性を助長する最大の原因になります。そして、大量の遊離脂肪酸が、腸間膜脂肪から24時間絶え間なく溢れ出ることにより、内臓脂肪蓄積が減るわけではなく、むしろ内臓脂肪の蓄積と悪循環が加速する」という最悪のメカニズムが働いています。

なぜ基礎グリセロール放出量の増加が「良くない」のか(脂肪肝との関係)

脂肪細胞からグリセロールが放出されるということは、同時に「遊離脂肪酸(FFA)」が大量に分解・放出されていることを意味します

腸間膜脂肪の一番の脅威は、その解剖学的構造にあります。腸間膜脂肪から出た遊離脂肪酸は、全身の血流に回る前に、門脈という血管を通って直接「肝臓」に流れ込みます。 本来ならエネルギーが必要なときにだけ放出されるべき脂肪酸が、糖尿病状態では「基礎(何もしない状態)」から常に垂れ流し状態になっています。その結果、肝臓は24時間絶え間なく大量の脂肪酸を浴び続けることになります

肝臓に過剰な脂肪酸が流入すると、以下の事態が引き起こされます。

  • 脂肪肝の助長: 処理しきれなくなった脂肪酸が肝臓内で再び中性脂肪に合成され、肝細胞に異所性脂肪として蓄積します。
  • 糖新生の亢進とインスリン抵抗性: 肝臓での糖の産生が勝手に増え、インスリンの効き目がさらに悪化するため、血糖値がより上昇しやすくなります。

肝臓での糖新生が促進され、インスリンの効き目が低下し、高インスリン血症、高トリグリセリド血症、そして深刻な糖耐能異常へと繋がっていきます。
基礎放出量の増加は、脂肪肝や糖尿病を悪化させる直接的な引き金です。

放出量が多いのに、なぜ腸間膜脂肪は減らずに蓄積するのか

「これだけ分解・放出しているなら、腸間膜脂肪自体は痩せていく(蓄積しにくい)のではないか」と思われるかもしれません。しかし、ここがこの病態の最も恐ろしいところです。

糖尿病患者の腸間膜脂肪では、「FAT/CD36(脂肪酸輸送体)」という、周囲から脂肪酸を細胞内に引き込むドアが異常なほど大量に増殖しています。

つまり、腸間膜脂肪の中では以下のような「エネルギーの無駄な空回り」が起きています。

  1. 激しい取り込み: 増えすぎたFAT/CD36によって、血中の中性脂肪や脂肪酸をガツガツと脂肪細胞内に引き込みます。
  2. 勝手な分解と放出: 細胞内で蓄積された脂肪が、高い基礎脂質分解能によってすぐにグリセロールと遊離脂肪酸に分解され、門脈へ容赦なく放出されます。
  3. 局所でのさらなる蓄積: さらに、11β-HSD1という酵素の働きによって脂肪組織の中でストレスホルモン(活性型コルチゾール)が過剰に作られます。この慢性的な局所ストレスホルモン作用は、内臓脂肪の細胞を肥大化させ、さらに多くの脂肪を溜め込もうとする性質を強めます

このように、腸間膜脂肪は「激しく分解して外に出す(放出量が多い)」一方で、それ以上に「凄まじい勢いで脂肪を取り込み、新しく作り出そうとする」ため、組織全体としては減るどころか、肥大化して蓄積し続けます

結果として、腸間膜脂肪自身は肥大化してタチの悪い内臓脂肪として居座り続けながら、肝臓には常に毒性の高い遊離脂肪酸を送り込んで脂肪肝を悪化させるという、最悪の悪循環が成立してしまいます

本研究の限界点(Limitation)

非常に示唆に富む本研究ですが、解釈にあたってはいくつかの限界点に留意する必要があります。

まず第一に、サンプルサイズが全体で18名(糖尿病群10名、非糖尿病群8名)と小規模である点です。第二に、対象者が胃バイパス手術を必要とするような、BMIが45前後の極度の高度肥満患者に限られている点です。そのため、日常の臨床でより頻繁に遭遇する軽度肥満の患者さんや、非肥満型の2型糖尿病患者さんにおいて、腸間膜脂肪が全く同じ分子挙動を示しているかどうかは断定できません。第三に、本研究は組織を採取した時点での横断的な解析であるため、腸間膜脂肪の分子異常が糖尿病を引き起こした原因なのか、あるいは糖尿病による全身の代謝乱れの結果として腸間膜脂肪が変化したのかという、厳密な因果関係の順序までは証明されていません。

明日からの実践:医療知識をどう活かすか

この論文から得られた専門的な知見は、単なる基礎研究のデータに留まりません。私たちが明日から実践できる具体的な行動変容へと昇華させることができます。

私たちが意識すべきは、「体重計の数値」や「皮膚の上からつまめる皮下脂肪」だけに惑わされないということです。BMIが同じであっても、内臓、特に胃腸の周りにある腸間膜脂肪が分子レベルで炎上している可能性がある、という危機感を持つことがスタートラインです。

具体的なアプローチとして、腸間膜脂肪の脂質代謝をこれ以上暴走させないために、門脈への急激な遊離脂肪酸の流入を阻止する食事戦略が挙げられます。一度に大量の糖質や脂質を摂取すると、インスリンの乱高下を招き、FAT/CD36を介した腸間膜脂肪への脂肪酸の異常な出入りを加速させてしまいます。食事の際は、血糖値とインスリンの急激な上昇を抑える食べ方、具体的には食物繊維を豊富に含む食材から摂取し、糖質や脂質の吸収速度を緩やかにするマインドセットが、腸間膜脂肪の沈静化に直結します。

また、交感神経の刺激に対する反応性(イソプロテレノール感受性)が著しく低下しているという事実から、慢性的なストレスや睡眠不足が自律神経を介してこの状態をさらに悪化させることが予測されます。規則正しい生活習慣によって自律神経のメリハリを取り戻し、脂肪組織の本来のシグナル伝達機能を保護することを、日々のタスクとして最優先に位置づけるべきです。

参考文献

Yang YK, Chen M, Clements RH, Abrams GA, Aprahamian CJ, Harmon CM. Human Mesenteric Adipose Tissue Plays Unique Role Versus Subcutaneous and Omental Fat in Obesity Related Diabetes. Cell Physiol Biochem 2008;22:531-538.

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