サルコペニアとフレイル
加齢に伴い進行するサルコペニア(筋肉量、筋力、および身体機能の低下)は、高齢者の生活の質を著しく低下させるだけでなく、フレイル(虚弱)や転倒リスクの増大、独立性の喪失、さらには死亡率の上昇にも寄与します。このため、筋肉量を維持し、筋力と身体機能を改善するための効果的な戦略が求められています。
タンパク質摂取はサルコペニア予防の柱とされていますが、これまでは動物性タンパク質が中心的に研究されてきました。しかし、環境的持続可能性や健康的観点から、植物性タンパク質も重要です。ここでは、最新のシステマティックレビューとメタアナリシスをもとに、植物性タンパク質が高齢者に与える影響について解説します。
研究の概要:13のランダム化比較試験から得られた知見
13件の研究(対象年齢:60歳以上)をレビューし、植物性タンパク質(主に大豆タンパク質)が体組成、筋力、身体機能に与える影響を評価しました。
これらの試験では、タンパク質摂取量が1日0.6~60gと幅広く設定され、期間は12週間から1年間でした。研究結果を以下に分けて解説します。
1. 体組成への影響
- 筋肉量の増加
大豆タンパク質の摂取により、時間経過とともに筋肉量が増加する傾向が観察されました(例:デュアルエネルギーX線吸収測定法[DEXA]や生体インピーダンス分析[BIA]による評価)。ある研究では、筋肉量が最大1.37kg増加したケースも報告されています。 - 脂肪量の減少
大豆タンパク質摂取が脂肪量の減少を促進する可能性も示唆されましたが、この効果は統計的に有意ではありませんでした。
2. 筋力への影響
- 握力と膝伸展筋力
一部の研究では、握力や膝伸展筋力の改善が確認されました(例:握力が平均で**+3.5kg**増加)。特に、レジスタンストレーニングと併用した場合に筋力改善の傾向が強まりました。 - 全体的な結果
ただし、筋力改善効果は研究間で不均一であり、動物性タンパク質と比較した優位性は認められませんでした。
3. 身体機能への影響
- 歩行速度と短い身体機能バッテリー(SPPB;hort physical performance battery)スコア
植物性タンパク質の摂取は、歩行速度や身体機能スコアを維持する可能性があります。例えば、椅子立ち上がりテストでは、植物性タンパク質摂取群で時間が短縮されました(–0.5秒)。 - 機能改善の限界
全体的な改善は観察されましたが、動物性タンパク質や運動単独の介入と比較して統計的な優位性はありませんでした。
大豆タンパク質の特性
植物性タンパク質、とりわけ大豆タンパク質の特性には、サルコペニア予防に有益な可能性があります。大豆由来のイソフラボンは抗炎症作用を有し、慢性炎症による筋肉分解を抑制する可能性が示唆されています。また、筋タンパク質合成に必要なロイシンなどの必須アミノ酸を補う新しい加工技術が進展しており、これが「植物性タンパク質は栄養的に不完全」という過去の認識を覆しつつあります。
最後に
本研究が示すように、植物性タンパク質は高齢者において筋肉量を維持するための現実的かつ有望な選択肢です。特に、運動(レジスタンストレーニングや有酸素運動)と組み合わせることで、より効果的な結果が得られる可能性がありま
さらに、植物性タンパク質は動物性タンパク質と同等の効果を示すだけでなく、持続可能性や健康的観点でも大きな利点があります。「運動とバランスの取れた食事」という基本的な生活習慣を支える一環として、植物性タンパク質を積極的に取り入れることは、健康への投資といえます。
参考文献
Stoodley IL, Williams LM, Wood LG. Effects of Plant-Based Protein Interventions, with and without an Exercise Component, on Body Composition, Strength and Physical Function in Older Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Nutrients. 2023 Sep 19;15(18):4060. doi: 10.3390/nu15184060. PMID: 37764843; PMCID: PMC10537483.