心臓カテーテル治療のリスクを知る:名古屋セントラル病院での事故から学ぶべきこと

心臓血管

心臓カテーテル治療は、循環器領域において非常に重要かつ一般的な治療法です。しかし、その背後には常にリスクが伴います。今回は、名古屋セントラル病院で起きた2件の心臓カテーテル治療中の事故について、その詳細と問題点、そしてこの治療を受ける際に患者が気を付けるべき点をお伝えします。

名古屋セントラル病院での事故の概要

名古屋セントラル病院では、過去3年間に心臓カテーテル治療に関連する2件の死亡事故が報告されています。

2022年6月:心筋梗塞患者の悲劇

40代の男性患者は、心筋梗塞の治療中に致命的な不整脈を引き起こし、心停止に至りました。超音波検査中に予期せぬ不整脈が発生し、適切なリカバリーが行われなかった可能性が推測されます。麻酔薬の誤注入も疑われ、結果として患者は植物状態となり、未だに回復していません。

2023年10月:カテーテルアブレーション中の出血事故

50代の女性患者は、カテーテルアブレーションの際に、動脈性出血を引き起こしました。右足の付け根からカテーテルを挿入した際に動脈を損傷し、出血が止まらずに出血性ショック、多臓器不全で亡くなりました。このケースでも、適切な対応が遅れたことが致命的な結果を招いた可能性があります。

https://news.yahoo.co.jp/articles/cfcd15db63e9b15d0ced010edc7c06add9551d23
JR東海経営の病院、心臓カテーテル治療の事故相次ぐ 患者死亡も

同病院では22年6月、心筋梗塞(こうそく)の治療を受けた40代男性が、血管の状態を調べる超音波検査中、致死性不整脈を起こして心肺機能が停止。低酸素脳症で遷延性意識障害(植物状態)となった。別の施設に移った現在も回復していない。  担当医が生理食塩水と麻酔薬を取り違え、冠動脈に誤って麻酔薬を投与した可能性が高いという。院内調査に対し、担当医は覚えていないとしたが、麻酔薬の入ったシリンジ(注射器)がカラの状態になっていたという。  病院は家族に当初、治療に伴う合併症として説明したが、約1カ月後、「シリンジの取り違えをした可能性は完全には否定できない」と伝えた。  23年10月には別の医師が、心房細動と診断された50代女性へのカテーテルアブレーションの治療中、関連器具を挿入した右足の付け根2カ所で動脈性出血を確認。圧迫止血をし、挿入部を左足側に移して治療を終えた。その後、採血で顕著な臓器障害がみられたが、病院は圧迫止血などを続け、患者は治療から約2日半後、出血性ショックが原因の多臓器不全で死亡した。

事故の原因と考察

これらの事故には共通して、以下の問題点が浮かび上がります。
(事故の詳細な情報は把握しておらず、上記ネット記事の情報のみからの推測です。)

医療スタッフの経験不足

名古屋セントラル病院では、心臓カテーテル治療(PCI)の件数が年間75件(2022年)、カテーテルアブレーション年間53件(2022年)と多くなく、医療スタッフが十分な経験を積んでいない可能性が考えられます。特に、マンパワーが不足していたことが、リカバリーショットがうまくいかなかった一因として挙げられます。

適切なリスク管理の欠如

麻酔薬の誤注入や、動脈損傷後の止血操作やバイタルサインの観察が不十分だった可能性など、基本的なミスが重なり、致命的な結果を招いています。多くの施設では、誤注入を防ぐために注射器の色分けやラベリングが徹底されていますが、これが十分に行われていなかった可能性があります。

迅速な対応の遅れ

致死的不整脈が発生した際、すぐに胸骨圧迫(心臓マッサージ)、電気ショック、抗不整脈薬を駆使した心肺蘇生術、難治性が疑われるなら即座にPCPS(経皮的人工心肺装置)を導入することが求められます。適切な対応が遅れたことが、患者の回復を阻んだと考えられます。マンパワーがないと、これらのことを迅速に適切に行うことは難しいです。

心臓カテーテル治療を受ける際の注意点

これらの事例から、心臓カテーテル治療を受ける際に患者が注意すべきポイントを考えてみましょう。

病院の実績を確認する

待機的な心臓カテーテル治療は、症例数が多い施設で行う方が無難です。多ければ良いというわけではありません(多すぎる施設も別の問題があることがあります)が、少ない施設は上記のような問題が起こる確率が相対的に高いと思います。目安は、心臓カテーテル治療(PCI)も、カテーテルアブレーションも、年間200件以上が目安になると、私は思っています。件数が多いほど、医療スタッフの経験が豊富であり、緊急時の対応も迅速に行われる可能性が高くなります。
ちなみに、急性心筋梗塞など救急車で搬送されて行う緊急カテーテル治療の場合は、その施設の症例数など考えずに搬送された施設で治療してもらいましょう。1分でも早く治療を開始することが重要だからです。

医療チームのマンパワーを確認する

治療を行う病院が、十分な医療スタッフを確保しているか確認しましょう。医師だけでなく、看護師、臨床工学師、放射線技師、生理検査技師などカテーテルに携わるメディカルスタッフは様々です。特に、緊急時に多くの医療スタッフが迅速に対応できる環境が整っていることが重要です。

事前にリスクを理解する

どんなに小さな手術や治療でもリスクは存在します。事前に医師としっかりと相談し、リスクとその対策について十分に理解しておくことが大切です。

最後に

心臓カテーテル治療は多くの命を救う一方で、リスクを伴う医療行為です。今回の事例から、患者やその家族が治療を受ける前に十分な情報を得て、適切な選択をすることの重要性が再認識されました。大切な命を守るために、医療機関の選定や治療内容について慎重に検討することが求められます。

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