「やけ食い」「ストレス解消にスイーツ」「つい食べ過ぎてしまう」――これらの行動に心当たりはありませんか?ストレスが溜まると、なぜ食欲が抑えられなくなるのか、不思議に思ったことがある方も多いはずです。本記事では、「つい食べ過ぎてしまう」行動の裏にあるメカニズムについて解説します。
身体的空腹 vs. 感情的空腹
食欲には2つの種類があります。それぞれ異なる原因によって引き起こされ、私たちの食行動に大きな影響を与えています。
1. Physical Hunger(身体的空腹)
身体的空腹は、体のエネルギーが不足しているときに徐々に生じる自然な空腹感です。視床下部(脳内の空腹中枢)で調整され、体内のエネルギー状態に基づいてホルモンが働きかけます。
- グレリン:エネルギーが少なくなると胃から分泌され、視床下部に「食欲を増やす信号」を送ります。
- レプチン:食事を摂取すると、脂肪細胞から分泌されるホルモンで、満腹感を与え、食欲を抑えます。
このメカニズムは、必要なエネルギーを補充し、体重を一定に保つために自然に調整されます。
2. Emotional Hunger(感情的空腹)
一方、感情的空腹はストレスや不安、寂しさなどの感情に反応して急激に生じます。食欲が突発的に現れ、特に高カロリー、高脂肪、高糖質の食品への欲求が強くなります。満腹感よりも感情の安らぎを求めるため、食事をしても満足感が得られにくく、過食に陥りがちです。
ストレスが食欲を引き起こす仕組み
1.コルチゾール(ストレスホルモン)
ストレスがかかると、体内では「コルチゾール」というホルモンが分泌されます。これはエネルギーを効率よく摂取するために代謝を変化させ、食欲を刺激します。特に高カロリーで脂肪や糖質が多い食品への欲求が高まり、体がエネルギーを素早く補給しようとします。
2. ドーパミン(報酬系に関与するホルモン)
さらに、ストレスは脳の報酬系に影響を与えます。報酬系とは、快楽や満足感を感じるための回路で、ここでは「ドーパミン」というホルモンが関与します。慢性的なストレスはドーパミンの分泌を減少させますが、ハイカロリー食品を摂取すると一時的にドーパミンが増え、脳に快楽をもたらします。これが「ストレス解消」としての食欲に繋がります。
また、ストレスが増えると、脳の扁桃体(情動反応を司る部分)が活性化し、報酬系との連携が強化されます。これにより、感情的な空腹が生じやすくなります。また、ストレスによってグレリンの分泌も増加し、食欲を増進させます。グレリンは視床下部だけでなく、報酬系にも作用するため、特に高カロリー食品に対する欲求が高まります。
「感情的空腹」を和らげるには
感情的な空腹は、食べ物では決して満たされません。一時的に気分は良くなりますが、後には罪悪感や無力感が残ります。これを避けるためには、自分の空腹が身体的なものか感情的なものかを見極める習慣が大切です。感情的な食欲だと気づいた場合は、その原因となっているストレスに対処する必要があります。
健康的な食行動を保つために
- マインドフルイーティング:食べ物をゆっくり味わい、今の空腹感を意識することで、感情的な食欲に気づくことができます。
- ストレス解消法を探す:運動や趣味、リラクゼーションなど、ストレスを和らげるための手段を見つけて実践してみましょう。
- 食べる理由を考える:空腹を感じたとき、それが栄養を摂取するための自然な欲求か、それとも感情的な欲求なのかを自問自答してみてください。
最後に
つい食べ過ぎてしまう背後には、感情が食欲を操る複雑なメカニズムが存在します。
今感じる空腹は、身体的空腹か?感情的空腹か?
もし感情的空腹であれば、その原因となっているストレス源は?
自問自答してみましょう。
自分の空腹感を理解し、感情的な食欲に振り回されないようにすることが、健康的な食行動の第一歩です。
【参考文献】
Ulrich-Lai YM, Fulton S, Wilson M, Petrovich G, Rinaman L. Stress exposure, food intake and emotional state. Stress. 2015;18(4):381-99. doi: 10.3109/10253890.2015.1062981. Epub 2015 Aug 13. PMID: 26303312; PMCID: PMC4843770.