現代社会における食品産業の発展に伴い、砂糖を添加した加工食品や飲料が日常的な消費の一部となっています。これらが私たちの健康にどれほど深刻な影響を与えているのかご存じでしょうか。近年の研究では、糖分摂取による酸化ストレスが心血管疾患(CVD)の主要なメカニズムの1つである可能性が示されています。ここでは、糖と酸化ストレスの関係について解説します。
砂糖摂取の現状と推奨基準
アメリカ心臓協会(AHA)は、女性に対して1日24g(約6ティースプーン)、男性に対して36g(約9ティースプーン)の砂糖摂取量を推奨しています。しかし、現在の食生活では、これを大幅に上回る砂糖が日常的に摂取されています。たとえば、350mlの炭酸飲料には約36gの砂糖が含まれており、これだけで女性の推奨量を超えてしまいます。この過剰な砂糖摂取が体内で引き起こす生化学的変化が、心血管系にどのような影響を及ぼすのかを見ていきましょう。
酸化ストレスと活性酸素種(ROS)の生成
砂糖の代謝によって生成される活性酸素種(Reactive Oxygen Species, ROS)は、心血管疾患の進行において中心的な役割を果たします。以下は、糖がROSを生成する主要なメカニズムです:
- ミトコンドリア依存経路
高血糖状態では、ミトコンドリアでの代謝が過剰に活性化され、余剰のNADHやFADH₂が生成されます。この結果、電子伝達系の複合体Ⅴで電子漏れが発生し、スーパーオキシドアニオン(O₂⁻)が生成されます。このスーパーオキシドは、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)によって過酸化水素(H₂O₂)に変換されますが、H₂O₂はフェントン反応などを介して非常に反応性の高いヒドロキシルラジカル(·OH)を生成します。これにより、細胞内の脂質、タンパク質、DNAに損傷を与えます。 - NADPHオキシダーゼ経路
NADPHオキシダーゼは血管内皮細胞、平滑筋細胞、心筋細胞などに存在し、グルコース濃度が高い状態で活性化されます。NADPHを基質としてO₂⁻を生成し、その後H₂O₂や·OHに変換されることで酸化ストレスを増幅します。この経路は特に血管機能障害や炎症反応の増強に寄与します。 - 高度糖化最終生成物(AGEs)
グルコースはタンパク質や脂質と非酵素的に結合し、AGEsを形成します。AGEsはその受容体(RAGE)と結合することで、核因子κB(NF-κB)の活性化を誘導し、炎症性サイトカイン(例:IL-1, IL-6, TNF-α)や接着分子(VCAM-1, ICAM-1)の発現を増加させます。また、AGEs-RAGEシグナルはROS生成をさらに促進し、慢性炎症と血管障害を引き起こします。 - ポリオール経路
高濃度のグルコースは、アルドース還元酵素によってソルビトールに変換され、次いでフルクトースに変換されます。この過程でNADPHが消費され、抗酸化機能が低下するためROSが増加します。
糖が誘発する心血管疾患
- 動脈硬化
ROSは低密度リポタンパク質(LDL)を酸化させ、これが泡沫細胞の形成を誘導します。結果として、動脈硬化が進行し、血管内腔が狭窄することで心筋梗塞や脳卒中のリスクが高まります。 - 高血圧
ROSは一酸化窒素(NO)のバイオアベイラビリティを低下させ、血管拡張を阻害します。また、内皮機能不全を引き起こし、血圧を上昇させる要因となります。 - 冠動脈疾患(CHD)
血糖値の上昇が冠動脈疾患のリスクを高めることは多くの疫学研究で明らかにされています。糖分摂取による炎症や脂質異常症が、心臓の血流を減少させる結果、虚血性心疾患を引き起こします。 - 心筋症
動物実験では、高フルクトース食が心筋の収縮機能を低下させることが報告されています。これにはROSが関与しており、心筋細胞の障害を引き起こします。 - 心不全と不整脈
高血糖によるROS生成が心筋の電気的特性に影響を及ぼし、不整脈のリスクを高めます。また、糖分の過剰摂取が心不全の進行因子であることも示唆されています。
糖代謝によるROS生成は、以下のような分子経路を通じて心血管系に影響を与えます。
- NF-κBの活性化:炎症性サイトカイン(IL-1, IL-6, TNF-α)の発現を促進。
- 細胞接着分子(VCAM-1, ICAM-1)の増加:これにより単球の血管内皮への付着が促進され、動脈硬化を助長。
- ミトコンドリアの分裂と融合:ROSはミトコンドリアの形態変化を引き起こし、さらなるROS生成を誘導する悪循環を形成。
砂糖摂取の削減
砂糖摂取を適正化することで、これらのリスクを低減できます。たとえば、以下の方法を検討してください:
- 加糖飲料を水や無糖のお茶に置き換える。
- 加工食品の栄養表示を確認し、砂糖の含有量を把握し、摂食調整する。
結論
糖分摂取は、なんとなく行なっている日常的な行動が、実は心血管系に多大な負担を与えている可能性を示唆しています。酸化ストレスを通じて誘発されるこれらの影響は、糖分の摂取量を管理することで予防可能です。健康な生活を送るためには、砂糖摂取の量と質に注意を払い、科学的知見を日常生活に活かすことが不可欠です。
参考文献
Prasad K, Dhar I. Oxidative stress as a mechanism of added sugar-induced cardiovascular disease. Int J Angiol. 2014 Dec;23(4):217-26. doi: 10.1055/s-0034-1387169. PMID: 25484552; PMCID: PMC4244242.