健康診断などで2度房室ブロック ウェンケバッハ型を指摘されたことがある方もいらっしゃると思います。2度房室ブロック ウェンケバッハ型の多くは、迷走神経性房室(AV)ブロックです。
迷走神経性房室(AV)ブロックは、主に夜間や迷走神経の活動が増強される状況で発生する一過性の病態です。洞調律が遅くなると同時に房室結節での伝導が抑制されることで発生します。この現象は、特に睡眠中に認められることが多く、睡眠時無呼吸症候群やその他の夜間呼吸障害との関連も指摘されています。ここでは、この現象の病態生理学的メカニズム、診断方法、そして臨床的意義について解説します。ちょっと難しいかもしれません。テキトーに読み流してみてください。
迷走神経性AVブロックの病態生理
迷走神経は、副交感神経系の一部として、心臓のペースメーカー細胞および伝導系に直接的な影響を与えます。迷走神経活動が亢進すると、以下のような現象が起こります:
- 洞結節機能の抑制: 洞結節での自動能が低下し、心拍数が減少します。
- 房室結節伝導の抑制: 房室結節での興奮伝導が遅延または完全に遮断されます。
これにより、心電図上では洞調律の遅延(PP間隔の延長)および房室ブロック(PR間隔の延長や非伝導P波)が観察されます。この一連の現象は、迷走神経が房室結節を抑制する一方でHis-Purkinje系には影響を与えないことから、伝導系の解剖学的異常を示唆しません(やばい病気にはなりづらい)。
疫学と発症状況
迷走神経性AVブロックは特に夜間に発生しやすく、研究によれば発症の75%が夜間に起こるとされています。この背景には、睡眠時に迷走神経緊張が優勢になる生理学的メカニズムが関与しています。また、心電図モニタリングを行うと、夜間の無症候性エピソードが多数記録されることがあります。例えば、ある研究では、患者のホルター記録中に1714件の無症候性の迷走神経性AVブロックエピソードが観察されました。
一方、日中では、迷走神経緊張が一時的に増加する状況(例: 咳、嘔吐、強い感情的ストレス)がトリガーとなることがあります。興味深いことに、動物実験では、捕食者に襲われた際のような極端なストレス状況下で、迷走神経性の心停止が観察されています。
Pseudo-Mobitz IIブロック
迷走神経性AVブロックの診断は必ずしも容易ではありません。特に、Pseudo-Mobitz IIブロックと呼ばれる現象が診断の難易度を上げます。この状態では、迷走神経刺激による洞調律遅延(PP間隔延長)とAVブロックが同時に発生し、心電図上では真のモビッツII型ブロックに類似して見える場合があります。
Pseudo-Mobitz IIブロックの特徴:
- 非伝導P波が突然出現する。
- PR間隔が一定に見える。
- 洞調律が遅くなる(真のモビッツII型では洞調律は影響を受けない)。
このようなPseudo-Mobitz IIブロックは、His-Purkinje系の障害を伴わないため、生命を脅かすものではありませんが、正確な診断が必要です。迷走神経性AVブロックを疑う場合、洞調律遅延の有無を観察することが重要です。
臨床的意義と予後
迷走神経性AVブロックは基本的に良性と考えられています。その理由は、
- 病変がAV結節に限局していること。
- His-Purkinje系が影響を受けないこと。
- 心筋の解剖学的損傷を示唆しないこと。
実際、研究により迷走神経性AVブロックが直接的な心臓死の原因となる可能性は極めて低いことが示されています。しかしながら、この現象が引き起こす失神は、患者の生活の質を大きく損なう可能性があります。特に、高齢者や基礎疾患を有する患者では、転倒や二次的な外傷のリスクが増大します。
治療と管理
症候性の迷走神経性AVブロック:
- 神経調節性失神として診断し、生活指導や薬物療法を行う。
- ペースメーカー植込みは、失神の頻度や持続時間が生活を著しく障害する場合に検討されます。
無症候性の場合:
- ペースメーカーの適応は通常ありません。
- 長期モニタリングを行い、症候性エピソードの出現を監視することが推奨されます。
睡眠時無呼吸症候群との関連
迷走神経性AVブロックは、睡眠時無呼吸症候群(SAS)との関連が指摘されています。SASでは、無呼吸イベント中に低酸素血症が生じ、これが迷走神経活動を刺激します。これにより、夜間のAVブロックや長時間の心停止が引き起こされる可能性があります。
特に、無症候性の患者でも、8秒以上の心停止が記録されることがあるため、適切な診断と治療が必要です。CPAP療法(持続陽圧呼吸療法)は、SAS患者における迷走神経性AVブロックの管理において有効である可能性があります。
最後に
2度房室ブロック ウェンケバッハ型など、迷走神経性AVブロックの診断を受けると、多くの患者が不安を感じるかもしれません。しかし、この状態は良性であり、適切な診断とフォローアップによって予後は非常に良好です。また、生活習慣の改善や必要に応じた治療によって、失神やその他の症状を最小限に抑えることが可能です。
心臓の健康を維持するために、自分の体の変化に気づき、医療専門家と連携することが重要です。
参考文献
Alboni P, Holz A, Brignole M. Vagally mediated atrioventricular block: pathophysiology and diagnosis. Heart. 2013;99:904–908. doi:10.1136/heartjnl-2012-303220