はじめに
私たちの体は、24時間周期の概日リズム(サーカディアンリズム)に従って機能しています。近年の研究では、この概日リズムの破綻が糖尿病や心血管疾患(CVD)と密接に関連していることが示されています。2024年の論文「Circadian dysfunction and cardio-metabolic disorders in humans」をご紹介します。
概要
本論文は、概日リズムの破綻と心血管・代謝疾患の関連性についてレビューしている。概日リズムは視交叉上核(suprachiasmatic nucleus;SCN)を中心とした内因性時計によって制御され、睡眠、身体活動、食事摂取、インスリン感受性、心血管機能などに影響を与える。その破綻は糖尿病や心血管疾患のリスクを増大させることが示唆されており、特に交代勤務がこれらの疾患と関連することが多数の研究で報告されている。
概日リズムとその調節機構
- 概日リズムは転写-翻訳フィードバックループ(transcriptional-translational feedback loop;TTFL)によって制御される。
- 視交叉上核(SCN)が中枢時計として全身のリズムを制御し、光刺激を主な「Zeitgeber(時間手がかり)」として同期する。
- 末梢時計(肝臓、筋肉、膵臓など)は食事やホルモン変化によって調節される。
概日リズムは、遺伝子発現のフィードバックループによって制御されています。代表的な概日時計遺伝子には、BMAL1(ARNTL)、CLOCK、PER1-3、CRY1-2 などがあり、これらは転写-翻訳フィードバックループ(TTFL)を形成しています。
BMAL1とCLOCKは転写因子として機能し、PER(Period)とCRY(Cryptochrome)の発現を促進します。PERとCRYが一定量蓄積すると、BMAL1-CLOCK複合体の活性を抑制し、これによりフィードバックループが完結します。このリズムが約24時間周期で繰り返されることで、概日リズムが維持されます。
視交叉上核(SCN)はこのリズムを全身の臓器へ伝達し、末梢時計(肝臓、膵臓、脂肪組織、筋肉など)と同期させます。しかし、夜間の光暴露、交代勤務、遅い食事、睡眠不足などの影響により、この同期が乱れると、さまざまな疾患リスクが上昇します。
睡眠とその評価
- 概日リズムの調節には睡眠が最も重要な要素であり、SCNとホルモン調節によって制御される。
- 睡眠の評価には、PSQI(ピッツバーグ睡眠質質問票)、JSS(ジェンキンス睡眠尺度)、LSEQ(リーズ睡眠評価質問票)などの主観的評価と、ポリソムノグラフィー(PSG)、アクチグラフィーなどの客観的評価が用いられる。
- 近年の研究では、睡眠の規則性(Sleep Regularity Index, SRI)が低いと心血管疾患リスクが上昇することが示唆されている。
クロノタイプ(Chronotype)と心血管・代謝疾患
- クロノタイプは、個人が特定の活動を行う時間帯の好みを指す。
- クロノタイプ(朝型・夜型)は概日リズムによって決定され、遺伝的要因、社会的要因、環境因子の影響を受ける。
- 夜型(レイトクロノタイプ)は、糖尿病(T2DM)、肥満、高血圧、心血管疾患のリスクが高い。
- 極端な朝型のクロノタイプも、HDLが低く、トリグリセリドが高いなど、CVDマーカーが増加する可能性がある。これは、極端なクロノタイプが外部時間との位相差が大きいため、リズムの振幅が低下するためと考えられる。
- 社会的時差(Social Jetlag, SJL)と心血管疾患リスクの関連が示唆されている。
性差と概日リズムの影響
- 女性は男性に比べてクロノタイプが朝型に偏りやすく、睡眠のばらつきがBMI増加や体脂肪率上昇と関連する。
- 交代勤務の女性は心血管代謝リスクが高く、特に更年期の女性で顕著。
- 性差により概日リズムの振幅やメラトニン分泌リズムが異なる。
概日リズム破綻と心血管代謝機能
- 概日リズムの乱れはインスリン感受性の低下、グルコース代謝の異常、脂質代謝の変調を引き起こす。
- 食事のタイミングは、末梢時計の同期に重要な役割を果たす。
- 朝食を定期的に摂取することで、血漿脂質レベルやグルコース恒常性が調整される。
- 夜遅い食事は、T2DM患者の血糖コントロールを悪化させる。
- 食事タイミングや夜間光暴露の影響により、代謝リズムが乱れると糖尿病や動脈硬化リスクが増加する。
- 交代勤務者は、T2DMや心血管疾患の有病率が高く、これは食事のタイミングの変化やホルモン調節異常が原因の可能性。
- 交代勤務者は、腸内細菌叢の昼夜リズムを乱し、代謝疾患のリスクを増加させる。
- 夜勤労働者は、腸内細菌叢の組成が変化し、肥満や代謝症候群のリスクが高まる。
睡眠不足と心血管リスク
- 睡眠不足(6時間未満)や過剰な睡眠(9時間以上)はT2DMリスクを増加させる。
- 睡眠障害や睡眠不足は、交感神経と副交感神経のバランスを変化させ、インスリン感受性に影響を与える。
- 睡眠時間が短いと交感神経優位となり、血糖コントロールが悪化する。
- グルコース変動(GV)が睡眠不足で悪化し、特にT2DM患者では影響が大きい。
- T2DM患者では、睡眠時間を1時間延長することで、血糖変動が0.72%減少する。
身体活動と心血管代謝リスク
- 身体活動は概日リズムと相互作用し、適切な運動時間帯が代謝改善に有効。
- 早朝または夕方の運動が糖尿病患者において血糖コントロールを改善する。
- 筋肉の概日リズムが乱れると糖代謝が悪化する可能性がある。
食事のタイミングと代謝リスク
- 食事タイミングが概日リズムと同期していることが重要で、特に朝食摂取が代謝健康に有益。
- 夜間の食事は血糖コントロールを悪化させる。
- 時間制限食(Time-Restricted Eating, TRE)がインスリン感受性を改善し、糖尿病・肥満に有益。
交代勤務と腸内細菌叢
- 交代勤務は腸内細菌叢(マイクロバイオーム)を乱し、代謝異常や肥満を引き起こす。
- 交代勤務者では「肥満促進型」細菌が増加し、糖代謝異常や脂質代謝異常と関連する。
- 概日リズムの乱れが腸内細菌叢の多様性を低下させ、糖尿病や心血管疾患のリスクを高める。
今後の研究課題
- 概日リズム破綻と代謝疾患の因果関係を長期間にわたり評価する研究が必要。
- 睡眠、食事、運動、ホルモンリズムの統合的な影響を評価するべき。
- 新たな生体マーカー(概日リズムの破綻を示す指標)を用いた診断・介入法の確立が求められる。
- 交代勤務者の健康リスクを低減するための戦略の開発が必要。
最後に
概日リズムの破綻は、糖尿病や心血管疾患リスクを増大させる大きな要因です。日常生活でできる予防策として、規則正しい睡眠、食事のタイミングの工夫、適切な運動習慣が重要です。これらの行動を取り入れることで、健康を維持し、長期的な疾患リスクを低減することができます。
この論文の重要ポイントを最後に挙げておきます。
重要なポイント(10点)
- 概日リズムの破綻はT2DMや心血管疾患のリスクを増加させる。
- 夜型クロノタイプの人は糖尿病や脂質異常のリスクが高い。
- 交代勤務者は概日リズムの乱れによる代謝異常のリスクが高い。
- 睡眠の質・量の低下はインスリン抵抗性を悪化させる。
- 身体活動のタイミングが代謝機能に影響を与える。
- 食事の時間が遅いほど、血糖コントロールが悪化する。
- 時間制限食(TRE)は糖尿病・肥満に有益である可能性がある。
- 腸内細菌叢が概日リズムと相互作用し、代謝リスクに関与する。
- 交代勤務者では肥満促進型細菌が増加し、代謝異常と関連する。
- 今後の研究で、より詳細な介入策と診断手法の確立が求められる。
参考文献
Marhefkova N, Sládek M, Sumová A, Dubsky M. Circadian dysfunction and cardio-metabolic disorders in humans. Front Endocrinol (Lausanne). 2024 Apr 29;15:1328139. doi: 10.3389/fendo.2024.1328139. PMID: 38742195; PMCID: PMC11089151.