魚と不安症、安静時心拍数
魚を食べると安静時心拍数が下がる、魚に含まれているオメガ3脂肪酸を摂取すると不安が軽減する、と言った話をしてきました。
ついでですので、魚食の健康への影響をもう少し見てみましょう。
魚の摂取と全死因死亡および心血管系死亡のリスク
Fish consumption and risk of all-cause and cardiovascular mortality: a dose–response meta-analysis of prospective observational studies
Public Health Nutr. 2018 Jan 10:1-10.
14のコホート研究のメタ解析をした論文、対象は約90万人。
下のグラフは、魚食の量(横軸)と死亡リスク(相対リスク)(縦軸)の関係を示しています。
縦軸は数字が大きくなるほど、死亡リスクが上がる、という意味です。
点線は95%信頼区間(まあ気にしないでください)。実線だけ見れば良いです。
【上段(a) 】アジア、欧米両者を合わせた全体のグラフ。(b)と(c)を合わせたもの。
【中段(b) 】アジア(日本2,中国1) ※カッコ内はコホート研究の数と場所。
日本を含むアジアでは、魚を多く食べるほど死亡リスクは低下します。
【 下段(c) 】欧米(米国4、スウェーデン1、欧州1,豪州1)
欧米ですと、魚食の量が一定以上増えるとU字型となり逆に死亡リスクが上昇します。
日本(中国)では、魚を多く食べる人ほど死亡リスクが低いです。
しかし、なぜ、欧米はそうでないのでしょう??
アジア、欧米両者の乖離の原因として、幾つか仮説が挙げられています。
アジアの魚食は身体に良いが、欧米は食べ過ぎると良くない?
いろいろありえますが、とりあえず2つ。
仮説①
・欧米は揚げ物が多い
・アジアは、蒸したり、焼いたり、炒めることが多い。日本では刺身も多い。
一般的に揚げ物の健康への悪影響は証明されており、これが魚の良さを帳消しにしてしまったのではないか。
つまり、調理方法が原因の1つ。
仮説②
・欧米は、脂分の多い魚を食べる割合が多い。(大型魚ってことでしょう)
・アジアは、淡白な脂分の少ない魚を食べる割合が多い。(小、中型)
メチル水銀やポリ塩化ビフェニルなどの有害物質が、脂分の多い魚に多く含んでいる。したがって、その割合が多い欧米は魚食が増えると死亡率が上がる、という仮説。
つまり、食べる魚の種類の相違が原因の1つ。
しかし、魚食の絶対量は、米国を始めとする欧米よりも日本の方が多いため、この仮説には異論も多いようです。
「海洋汚染により魚を食べると健康に悪い」という意見
「海洋汚染により魚を食べると健康に悪い」という意見をしばしば耳にします。しかし、まだ仮説の段階と言って良いと思います。
理屈としては理解できますし、確実に悪いというデータが出てからだと遅いじゃん!と考える方は、今から魚食を控えておくという方針も一つの選択肢です。
ということで、少なくとも、日本において魚を食べることはデータ的には健康にポジティブな影響がある、というのが今現在のエビデンスです。
【参考文献】
Jayedi A, Shab-Bidar S, Eimeri S, Djafarian K. Fish consumption and risk of all-cause and cardiovascular mortality: a dose-response meta-analysis of prospective observational studies. Public Health Nutr. 2018 May;21(7):1297-1306. doi: 10.1017/S1368980017003834. Epub 2018 Jan 10. PMID: 29317009; PMCID: PMC10261309.