エナジードリンクと突然の心停止

心拍/不整脈

エナジードリンクは、現代社会において広く消費されている飲料の一つです。その市場規模は拡大を続け、2021年の売上は140億ドルに達し、現在では10代から30代の若年層を中心に多くの人々に愛飲されています。
一方で、これらの飲料には、カフェインをはじめとする刺激成分が含まれており、心拍数や血圧、心筋収縮力、心臓の再分極に影響を与える可能性があります。この問題に対し、Mayo Clinic Windland Smith Rice Genetic Heart Rhythm Clinicの研究チームは、エナジードリンクの摂取と突然心停止(SCA, Sudden Cardiac Arrest)の関連を検討しました。
特に、遺伝性心疾患(Genetic Heart Disease, GHD)を持つ患者にとって、これらの成分が致死的な不整脈を引き起こすリスクがあることが懸念されています。本論文は、エナジードリンクの摂取と突然の心停止(Sudden Cardiac Arrest, SCA)との間に時間的な関連性があることを示す7つの症例を報告しています。

研究の背景と目的

エナジードリンクは、カフェインを中心とした刺激成分を含んでおり、これらの成分が心臓に与える影響は未だ完全には解明されていません。特に、GHDの患者としてlong QT症候群(LQTS)、カテコラミン誘発性多形性心室頻拍(CPVT)、特発性心室細動(IVF)などの疾患を抱えており、これらの患者は通常よりもSCAのリスクが高いことが知られています。本研究の目的は、GHD患者において、エナジードリンクの摂取がSCAを引き起こす可能性があるかどうかを調査することです。

研究方法と結果

本研究では、2000年から2023年までの間にMayo ClinicのWindland Smith Rice遺伝性心臓リズムクリニックで評価された144人のSCA生存者を対象に、エナジードリンクの摂取とSCAの時間的関連性を調査しました。その結果、7人(5%)の患者がエナジードリンクの摂取後にSCAを経験していたことが明らかになりました。これらの患者のうち、2人はLQTS、2人はCPVT、残りの3人はIVFと診断されていました。

7人の患者のうち、3人(43%)は定期的にエナジードリンクを摂取しており、6人(86%)は救急ショックを必要とし、1人(14%)は手動での蘇生を受けました。すべての患者は、エナジードリンクの摂取をやめて以降、SCAを再発していません。

各症例の経過

  1. 症例1:32歳の女性。出産後、エナジードリンクを摂取した数時間後にSCAを発症。IVFと診断され、皮下植え込み型除細動器(ICD)を装着。
  2. 症例2:37歳の女性。エナジードリンクを摂取した夜にSCAを発症。IVFと診断され、ICDとナドロールを処方。
  3. 症例3:20歳の男性。運動前にエナジードリンクを摂取し、練習中にSCAを発症。IVFと診断され、ICDを装着。
  4. 症例4:28歳の女性。大量のエナジードリンクを摂取後、職場でSCAを発症。CPVTと診断され、ICDと左星状神経節切除術(Left Cardiac Sympathetic Denervation.;LCSD)を受ける。
  5. 症例5:21歳の女性。CPVTの治療中にエナジードリンクを摂取し、SCAを発症。治療法は変更されず、エナジードリンクとvapingをやめる。
  6. 症例6:42歳の女性。エナジードリンクを摂取後、運動中にSCAを発症。LQTSと診断され、ICDを装着。
  7. 症例7:26歳の女性。エナジードリンクを摂取後、車内でSCAを発症。LQTSと診断され、ICDを装着。

エナジードリンクの危険性

エナジードリンクにはカフェイン(80〜300mg/16オンス(473ml))が含まれており、これが交感神経を刺激し、心拍数や血圧を上昇させることが知られています。特に、LQTSやCPVTを持つ患者においては、これらの刺激がQT間隔の延長や心室性不整脈を引き起こす要因となる可能性があります。

さらに、エナジードリンクにはタウリン、ガラナ、L-カルニチンなどの成分が含まれており、これらがカフェインの作用を増強する可能性が指摘されています。特にタウリンは細胞膜のイオンチャネルに作用し、心筋細胞の電気的活動を変化させることが報告されています。

このような成分の相互作用によって、エナジードリンクは特にストレス下や運動後の状態において心停止のリスクを増加させる可能性があるのです。

既存研究との比較と新規性

これまでの研究では、高用量のカフェイン摂取(1日10杯以上のコーヒーに相当)とSCAの関連性が指摘されていましたが、エナジードリンクに焦点を当てた研究は限られていました。本研究は、エナジードリンクの摂取がGHD患者においてSCAを引き起こす可能性があることを初めて具体的に示した点で新規性があります。特に、エナジードリンクに含まれるカフェイン以外の成分(タウリンやガラナなど)が心臓に与える影響についても考察しており、これまでの研究では触れられていない点が特徴です。

実践的なアドバイス

GHDを持つ患者やその家族は、エナジードリンクの摂取を控えることが重要です。特に、以下の点に注意してください。

  1. カフェイン摂取量の管理:1日のカフェイン摂取量を推奨量(通常、健康な成人で400mg以下)に抑える。
  2. 運動直前・直後のエナジードリンク摂取を避ける:カフェインによる交感神経刺激が心拍数増加と血圧上昇を引き起こし、不整脈のリスクを高めます
  3. 他のリスク要因の回避:脱水症状、睡眠不足、QT延長を引き起こす薬剤の併用などを避ける。
  4. 定期的な健康チェック:遺伝性心疾患のリスクがある場合は、定期的に心臓の検査を受ける。

結論

エナジードリンクは、一見すると日常的な嗜好品ですが、特定の遺伝的リスクを持つ人々にとっては突然心停止を引き起こす危険因子となる可能性があります。特に、遺伝子変異を持つ患者は、エナジードリンクの摂取を控えることが重要です。
その他の心血管リスクを持つ人も、自身の健康状態を考慮しながら摂取を調整することが望まれます。
今後の研究では、エナジードリンクに含まれる各成分が心臓に与える影響をさらに詳細に調査する必要があります。

参考文献

Martinez, K. A., Bains, S., Neves, R., Giudicessi, J. R., Bos, J. M., & Ackerman, M. J. (2024). Sudden cardiac arrest occurring in temporal proximity to consumption of energy drinks. Heart Rhythm, 21(1), 1-6. https://doi.org/10.1016/j.hrthm.2024.02.018

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