ポジティブな思考は身体的な好影響をもたらす

ポジティブ心理学

前回はCirculation誌の総説を元に、ネガティブ感情の身体的影響について書きました。

さて、今回はポジティブな心理的要素です。

ポジティブとは

ポジティブな心理的要素とは、単にニコニコしている、笑っている、機嫌が良いと言うことではなく、前向きに生きると言った概念も包括したものです。ポジティブ心理学の権威セリグマンはウェルビーイングの要素として「PERMA」と言うフレームワークを提唱しています。これについてはこちらの記事に簡単に書いています。

物事に夢中に取り組んだり、良き関係性を築いたり、人生の意味意義を見出したり、目標を掲げ達成すると言った要素が「ポジティブな心理的要素」に包括されています。

そのようなポジティブな要素が、身体的にどのような影響があるのか見ていきましょう。

楽観性(楽観主義)

楽観性とは、将来的に物事がうまくいくだろうという希望と自信を持ち、最高の結果を期待することを特徴としています。

楽観性の高い人は、

・身体活動が多く、喫煙者が少ない。
(Circ Res. 2018;122:1119–1134)

・健康的な食事をとる傾向がある。
(J Acad Nutr Diet. 2014;114:1036–1045.)

・睡眠の質が良い。
(Prev Med. 2019;129:105826. )

・頚動脈の動脈硬化の進行が遅い。
(Psychosom Med. 2004;66:640–644.)

・心血管系疾患発症リスク35%減少、全死亡リスク14%減少。
( JAMA Netw Open. 2019;2:e1912200. )

・寿命が10%以上長い。
 (Proc Natl Acad Sci USA. 2019;116:18357–18362)

・心筋梗塞患者では、再入院が8%低下。
 (Circ Cardiovasc Qual Outcomes. 2016;9:55–63. )

楽観性により動脈硬化性の病気のリスクが下がり、長寿にも繋がるようです。
楽観的に考えろと言われても、難しい人も多いでしょうが、少しづつでも楽観性リハビリしましょう。

目的意識

ここでは目的意識とは、日々の生活に意味を見出し、自分の価値観や人生の目標によって動機づけられ、方向づけられていると言う概念を指します。

人生の目的意識の高い人は、

・喫煙が少ない。
 ( BMJ Open. 2018;8:e020586)

・身体活動が多い。
 ( Am J Cardiol. 2011;108:29–33.)

・アルコール等の乱用が少なく、血糖コントロールが良い
 (Ann Behav Med. 2018;52:309–318)

・心筋梗塞リスク低下。
  (J Behav Med. 2013;36:124–133.)

・脳卒中リスク低下。
  (J Psychosom Res. 2013;74:427–432.)

・心血管系疾患リスク 17%低下。
・全死亡リスク 17%低下。
 (Psychosom Med. 2016;78:122–133. )

人生や日々の生活に目的意識をもつことにより、動脈硬化性疾患のリスクを低下させ、死亡リスクも低下させることが期待できます。

幸福感(Happiness)とポジティブ感情(positive affect)

Happinessとは、ポジティブ感情の1つの形であり、強いて言うと、ポジティブな良き状態(ウェルビーイング)で満足していると言う感覚です。

ポジティブ感情を持つ人は、

・(Happyな人)睡眠、身体活動、食事の状態が良好で、喫煙しない傾向。
 (Annu Rev Public Health. 2019;40:339– 359.)

・冠動脈疾患発症リスクが22%低下。
 (Australas Psychiatry. 2018;26:524–530. )

・糖尿病など心臓関連の代謝疾患の進行が遅い。
 (Annu Rev Public Health. 2019;40:339– 359.)
 (Annu Rev Psychol. 2019;70:627–650)

・糖尿病患者では、死亡リスクが13%低下。
 (Health Psychol. 2008 Jan;27(1S):S73-82. )

Happyな人、ポジティブ感情を持つ人も動脈硬化性疾患のリスクが下がるようです。これらは多変量調整しての結果です。

その他のポジティブな要素

・活力が高い人は、低い人に比べて冠動脈疾患発症リスクが19%低い。
 (Arch Gen Psychiatry. 2007)

・心理的ウェルビーイングが高い人は、良好な心血管系の健康(非喫煙、非糖尿病がないこと、正常血圧、正常脂質代謝、非肥満)を維持する可能性が高かった。心血管疾患による死亡リスクは29%低下した。
 ( Am J Prev Med. 2017;53:791–798.)

・感謝の気持ちは、血圧、睡眠、炎症性バイオマーカー、心拍変動の改善と関連。
 (Am J Cardiol. 2012;110:1711–1716. )
 (Circulation. 2018;137:e15–e28. )

ポジティブな心理的要素のまとめ

すべてではありませんがほとんどの研究で、ポジティブな心理的要素が心血管系疾患や死亡率のリスク低下と関連しています。また、それら疾患と関連する行動的因子とも関連していることが明らかになっています。多くの研究では、交絡因子や逆因果関係(「ポジティブだから健康」でなく「健康だからポジティブ」)の懸念に対処するためにさまざまな方法が用いられており、結果の一貫性を考慮するとポジティブな心理的要素は、心血管の健康状態に好影響を与える独立した因子であると考えるべきと、Circulation誌の総説の著者は結論しています。



と言うことで、交絡因子や逆因果を完全に除外することはできないでしょうが、ポジティブな心理的要素がある程度身体に好影響を及ぼすことは間違いないことだと思います。

僕自身はどちらかと言うとネガティブ思考ですので、ポジティブな姿勢やポジティブな感情を意識して持つようにしたいと思いました。

【参考文献】

Levine GN, Cohen BE, Commodore-Mensah Y, Fleury J, Huffman JC, Khalid U, Labarthe DR, Lavretsky H, Michos ED, Spatz ES, Kubzansky LD; American Heart Association Council on Clinical Cardiology; Council on Arteriosclerosis, Thrombosis and Vascular Biology; Council on Cardiovascular and Stroke Nursing; and Council on Lifestyle and Cardiometabolic Health. Psychological Health, Well-Being, and the Mind-Heart-Body Connection: A Scientific Statement From the American Heart Association. Circulation. 2021 Jan 25:CIR0000000000000947. doi: 10.1161/CIR.0000000000000947. Epub ahead of print. PMID: 33486973.

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