肥満と睡眠時無呼吸の密接な連関
日中に強い眠気を感じる、起床時に疲労感が残る、あるいは同居者から激しいいびきや呼吸の停止を指摘された経験をお持ちの方は少なくありません。
閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)は世界で4億人以上が罹患していると推計されている疾患であり、睡眠中に上気道が反復して狭窄・閉塞することで無呼吸や低呼吸を引き起こします。これに伴う間欠的な低酸素血症、高炭酸ガス血症、頻回の中途覚醒は、日中の過度な眠気や認知機能の低下を招くだけでなく、交感神経系の過剰亢進や全身性炎症を介して、高血圧、脂質異常症、2型糖尿病、さらには虚血性心疾患や脳血管障害といった心血管疾患のリスクを有意に高めることが知られています。
OSAの発症と進行において、体脂肪の蓄積は極めて重要かつ可逆的な病因です。頸部や咽頭周囲への脂肪沈着は気道を物理的に狭小化させ、胸郭や腹部への脂肪蓄積は機能的残気量を低下させて上気道の虚脱性を亢進させます。
現在、中等度から重度のOSAに対する第一選択の対症療法は持続陽圧呼吸(CPAP)療法です。CPAP療法は装着中の気道虚脱を防ぎ、無呼吸低呼吸指数(AHI)を直接的に低下させますが、機器装着の煩わしさや不快感から治療継続率(アドヒアランス)には個人差があり、根本原因である脂肪蓄積を直接解消するものではありません。一方、生活習慣の修正単独による十分な減量の達成・維持は容易ではなく、外科的肥満手術は適応が限られます。
こうした背景の中、過体重または肥満を伴う中等度から重度のOSA成人患者を対象に、GIP/GLP-1/グルカゴン受容体の三重作動薬レタトルチド(retatrutide)の有効性と安全性を検証した第3相試験の結果が、The New England Journal of Medicine に発表されました。
研究デザインとPICOプロトコール概要
研究デザイン:多施設共同、二重盲検、無作為化、プラセボ対照、並行群間第3相試験(大規模バスケット試験内に組み込まれたネステッド試験)
PICO概要
- P(対象患者):中等度から重度の閉塞性睡眠時無呼吸(ベースラインの終夜睡眠ポリソムノグラフィ検査でAHI 15回/時以上)を有し、BMIが27以上の過体重または肥満の成人患者。PAP療法の使用意思がない、または使用できない患者、あるいは3カ月以上安定してPAP療法を継続している患者。
- TRIUMPH-1-OSA:2型糖尿病を合併していない患者243名。
- TRIUMPH-2-OSA:2型糖尿病を合併している患者(スクリーニング時のHbA1cが6.5〜10.5%)448名。
- I(介入):週1回皮下投与のレタトルチド(2 mgから開始し4週ごとに漸増、目標維持用量4 mg、9 mg、または12 mg)、個別化された生活習慣指導の併用。
- C(比較対照):週1回投与のプラセボ、個別化された生活習慣指導の併用。
- O(評価項目):
- 主要評価項目:80週時点におけるレタトルチド9 mgおよび12 mg群のAHI(回/時)のベースラインからの変化量(ハイブリッド治療エスティマンド;hybrid-treatment estimand)。
- 主な副次評価項目:4 mg群のAHI変化量、AHI変化率(%)、AHI 50%以上減少の達成率、寛解または軽症化(AHI 5回/時未満、またはAHI 5〜14回/時かつエプワース眠気尺度[ESS]10点以下)の達成率、体重変化率(%)、睡眠時無呼吸特異的低酸素負荷(SASHB)の変化率(%)、PROMIS睡眠関連障害スコア(PROMIS-SRI)の変化量など。
先行研究に対する本研究の学術的位置づけ
肥満を伴うOSAに対する薬物療法としては、すでにデュアルアゴニスト(GIP/GLP-1受容体作動薬)であるチルゼパチドを用いたSURMOUNT-OSA試験において、52週間の投与により18〜20%の体重減少とともにAHIが25〜29回/時減少することが報告されています。
したがって、「薬物による強力な減量を通じて上気道閉塞を緩和し、AHIを改善させる」という治療アプローチそのものは本研究で初めて提唱されたわけではありません。
今回のTRIUMPH-OSA試験の学術的な進展は、以下の点にあります。第一に、インクレチン関連薬による体重減少効果が一般に減弱しやすいとされる2型糖尿病合併患者(TRIUMPH-2-OSA)を独立した試験として設定し、糖尿病合併OSA患者に対する有効性を検証した点です。第二に、GIPおよびGLP-1に加えてグルカゴン受容体をも標的とする三重受容体作動薬の長期効果について、先行研究(52週)を上回る80週間にわたって評価した点です。第三に、単なる無呼吸低呼吸の頻度(AHI)にとどまらず、心血管予後との関連が報告されている低酸素負荷(SASHB)に対する長期的な影響を定量化した点にあります。
臨床試験データの具体的検証
本試験に登録された被験者の背景は、TRIUMPH-1-OSA(非糖尿病)において、平均年齢46.4±9.9歳〜48.7±11.8歳、女性比率36〜37%、平均体重119.6±25.8 kg、平均BMI 41.6±8.1、平均AHI 58.6±31.2回/時でした。TRIUMPH-2-OSA(2型糖尿病合併)においては、平均年齢53.7±12.0歳〜56.1±11.0歳、女性比率38〜43%、平均体重115.9±26.7 kg、平均BMI 40.7±7.7、平均AHI 55.9±31.0回/時でした。いずれの集団も、7割前後が重度OSA(AHI 30回/時以上)に分類される患者層でした。
80週時点における主要評価項目であるAHI変化量(ハイブリッド治療エスティマンド)の結果は以下の通りです。
非糖尿病群(TRIUMPH-1-OSA)
非糖尿病群(TRIUMPH-1-OSA)では、プラセボ群のAHI変化量が−9.9回/時であったのに対し、
・レタトルチド4 mg群で−22.9回/時(プラセボとの差:−13.0回/時、95%信頼区間:−23.0〜−3.0、P=0.01)
・9 mg群で−34.3回/時(プラセボとの差:−24.4回/時、95%信頼区間:−34.1〜−14.7、P<0.001)
・12 mg群で−31.7回/時(プラセボとの差:−21.9回/時、95%信頼区間:−32.2〜−11.5、P<0.001)
でした。
2型糖尿病合併群(TRIUMPH-2-OSA)
2型糖尿病合併群(TRIUMPH-2-OSA)では、プラセボ群のAHI変化量が−10.3回/時であったのに対し、
・レタトルチド4 mg群で−19.2回/時(プラセボとの差:−8.9回/時、95%信頼区間:−15.9〜−2.0、P=0.01)
・9 mg群で−24.7回/時(プラセボとの差:−14.4回/時、95%信頼区間:−21.6〜−7.2、P<0.001)
・12 mg群で−25.4回/時(プラセボとの差:−15.1回/時、95%信頼区間:−22.5〜−7.7、P<0.001)
でした。
ITTエスティマンドを用いた解析においても、非糖尿病群の差は9 mg群で−24.7回/時、12 mg群で−22.5回/時、糖尿病合併群の差は9 mg群で−13.9回/時、12 mg群で−15.0回/時(いずれもP<0.001)と、統計学的に有意な低下が維持されました。
AHIがベースラインから50%以上減少した患者の割合
治療反応性を評価する副次評価項目においても明確な差が観察されました。
AHIがベースラインから50%以上減少した患者の割合は、TRIUMPH-1-OSAにおいてプラセボ群の23.9±6.6%に対し、9 mg群で65.7±6.2%(群間差:41.8パーセントポイント、P<0.001)、12 mg群で61.4±6.1%(群間差:37.5パーセントポイント、P<0.001)でした。
TRIUMPH-2-OSAにおいても、プラセボ群の24.4±4.6%に対し、9 mg群で52.3±5.1%(群間差:27.8パーセントポイント、P<0.001)、12 mg群で52.5±5.1%(群間差:28.0パーセントポイント、P<0.001)に達しました。
寛解・軽症化基準を達成した患者の割合
さらに、AHIが5回/時未満、またはAHI 5〜14回/時かつESS 10点以下と定義された寛解・軽症化基準を達成した患者の割合は、TRIUMPH-1-OSAの9 mg群で51.6±6.4%(プラセボ群は12.5±4.6%、群間差:39.1パーセントポイント、P<0.001)、12 mg群で42.3±6.3%(群間差:29.8パーセントポイント、P<0.001)でした。
TRIUMPH-2-OSAでは、9 mg群で39.5±4.8%(プラセボ群は12.6±3.4%、群間差:26.9パーセントポイント、P<0.001)、12 mg群で38.9±4.6%(群間差:26.3パーセントポイント、P<0.001)でした。
夜間の低酸素血症
夜間の低酸素血症の累積深度と持続時間を反映する睡眠時無呼吸特異的低酸素負荷(SASHB)の変化率については、TRIUMPH-1-OSAの9 mg群で−75.0%(プラセボ群との差:−66.5パーセントポイント、P<0.001)、TRIUMPH-2-OSAの9 mg群で−62.8%(プラセボ群との差:−48.7パーセントポイント、P<0.001)と、プラセボ群に対して有意な低下が示されました。
体重変化率
体重変化率(治療レジメンエスティマンド)については、TRIUMPH-1-OSAにおいてプラセボ群の−4.8%に対し、レタトルチド4 mg群で−12.5%、9 mg群で−22.2%、12 mg群で−20.6%(9 mg群のプラセボとの差:−17.3パーセントポイント、P<0.001)でした。
TRIUMPH-2-OSAにおいては、プラセボ群の−5.6%に対し、4 mg群で−12.1%、9 mg群で−17.9%、12 mg群で−18.5%(12 mg群のプラセボとの差:−13.0パーセントポイント、P<0.001)でした。
安全性プロファイルと有害事象
治療期間中に発現した有害事象の割合は、TRIUMPH-1-OSAでレタトルチド群が88〜93%、プラセボ群が76%、TRIUMPH-2-OSAでレタトルチド群が73〜84%、プラセボ群が71%でした。
最も高頻度に報告されたのは、既知のインクレチン関連製剤と同様の消化器系事象であり、その多くは軽度から中等度で、用量漸増期に多く発生しました。10%以上の患者にみられた主な事象は、下痢(TRIUMPH-1-OSAレタトルチド群:30〜44%、TRIUMPH-2-OSAレタトルチド群:25〜37%)、悪心(同14〜27%)、便秘(同11〜23%)、消化不良(同6〜22%)でした。
有害事象を理由とする試験薬の投与中止率は、TRIUMPH-1-OSAで4 mg群が7%(4名)、9 mg群が0%、12 mg群が8%(5名)、プラセボ群が6%(4名)でした。TRIUMPH-2-OSAでは4 mg群が3%(3名)、9 mg群が9%(10名)、12 mg群が2%(2名)、プラセボ群が4%(4名)であり、プラセボ群と比較して中止リスクが過度に上昇する傾向はみられませんでした。
本剤で特徴的とされる有害事象として、皮膚のピリピリ感や異常感覚を伴う知覚異常(dysesthesia)の報告頻度がプラセボ群より高く観察されました(TRIUMPH-1-OSAの9 mg群で13%、12 mg群で8%;TRIUMPH-2-OSAの12 mg群で7%など)。
また、脈拍数の上昇が認められ、TRIUMPH-1-OSAでは36週、TRIUMPH-2-OSAでは20週(12 mg群)でピークを迎え、一時的に平均5〜7拍/分の増加がみられました。その後漸減し、80週時点ではプラセボ群の1〜2拍/分の減少に対し、レタトルチド群では1〜2拍/分の増加にとどまりました。
試験期間中に判定された重篤な心血管有害事象(MACE)は、TRIUMPH-1-OSAのレタトルチド群で0件、TRIUMPH-2-OSAでは9 mg群で2件、12 mg群で1件、プラセボ群で2件でした。
研究の限界(Limitation)
本研究には以下の限界が存在します。
第一に、対象集団がBMI 27以上の過体重または肥満患者に限定されている点です。解剖学的要因や頭蓋顔面骨格の特徴を主因として発症する、非肥満(BMI 27未満)のOSA患者に対する有効性は検証されていません。
第二に、被験者のベースラインにおけるエプワース眠気尺度(ESS平均値は約9〜12点)が示すように、主観的な日中傾眠などの症状負荷が軽度から中等度にとどまっており、自覚症状の強い患者層に対する改善効果の外挿には慎重を要します。
第三に、本試験は80週間の検討であり、AHIや低酸素負荷の軽減が長期的な心血管イベント(心筋梗塞、脳卒中、心血管死など)の発生抑制に直結するかどうかは証明されていません(これは進行中のTRIUMPH-Outcomes試験で検証が進められています)。
第四に、PAP療法をすでに受けていた集団において、本剤の投与がPAP療法の装着遵守状況(アドヒアランス)に及ぼした影響については直接測定されていません。
明日からの臨床実践と健康管理への示唆
本研究から得られる医学的知見は、肥満を伴う睡眠時無呼吸の管理において以下の具体的な示唆を提供します。
第一に、肥満を伴うOSA患者において、体重管理は単なる付随的な健康増進策ではなく、病因そのものに介入する中核的な治療アプローチであるという再認識です。論文中の考察でも触れられている通り、レタトルチドによるAHIの低下幅(約23〜34回/時)は、本剤がもたらした大幅な体重減少量(12〜22%)から説明される範囲内です。つまり、十分な減量を達成・維持できれば、呼吸イベントを大幅に低減させることが可能であるという病態生理学的裏付けを示しています。
第二に、CPAP療法と減量アプローチの適切な使い分けと併用の重要性です。CPAP療法は装着した初夜から確実に無呼吸と低酸素血症を解除する即時性を有します。これに対し、薬物療法によるAHIの改善には数カ月におよぶ用量漸増と体重減少のプロセスが必要です。さらに、約半数の被験者では高用量投与後も依然として一定の無呼吸が残存していました。したがって、薬物療法はCPAP療法を直ちに全廃するものではなく、確実な呼吸管理を担保しつつ、減量によって病勢を軽減させ、将来的により負担の少ない管理体制を目指すための併用選択肢として位置づけるのが現実的です。
第三に、客観的な無呼吸重症度(AHI)および低酸素負荷の定期的な把握です。自覚的な眠気のみに依存せず、専門医療機関での適切な検査(PSG検査や簡易モニター)を通じて夜間の呼吸動態を評価し、体重の推移とともに呼吸パラメータを追跡することが、将来の心血管リスク管理において有用です。
参考文献
Grunstein RR, Somers VK, Azarbarzin A, Malhotra A, Sands SA, Lucey BP, Allen SE, Giblin K, Falcon BL, Park SY, Lou J, Krueger K; TRIUMPH-1-OSA and TRIUMPH-2-OSA Investigators. Retatrutide Once Weekly for Treatment of Obstructive Sleep Apnea. N Engl J Med. 2026 Oct 21. DOI: 10.1056/NEJMoa2611477.

