超加工食品が摂取カロリーを増大させる

食事 栄養

はじめに

2019年、ケビン・ホール博士らが発表した「超加工食品が摂取カロリーを増大させる」という衝撃的な報告は、世界中の栄養学研究者や公衆衛生当局を驚かせました。しかし、なぜ未加工の食事を摂ると、私たちは意志力に頼ることなく、自然とエネルギー摂取量を抑えることができるのか。その本質的な理由は、長らく謎のままでした。今回、ブリストル大学のジェフリー・ブルンストロム教授らによって発表された最新の事後解析は、人間に備わった「“nutritional intelligence” 栄養知能」という新たな視点から、この謎を解き明かす画期的な知見を提示しています。

未加工食がもたらすエネルギー制限の深層:栄養知能の再発見

超加工食品(ultraprocessed foods;UPF)の普及が肥満のパンデミックと密接に関係していることは周知の事実です。しかし、これまでの研究は、その原因を「高エネルギー密度」や「高い摂食速度」、「hyper-palatability(超嗜好性)」といった側面からのみ捉えようとしてきました。ブルンストロム教授らの最新研究は、これらの要因を超えた、より根源的な行動生理学メカニズムとして「炭水化物と脂肪のブレンド指数 blend index」と「微量栄養素デレバレッジ micronutrient deleveraging」という二つの概念を提唱しています。本稿では、この知能的ともいえる私たちの摂食行動のメカニズムについて、学術的視点から詳細に解説します。

研究プロトコール概要(PICO)

本研究は、2019年に実施されたランダム化比較試験のデータを基にした事後解析(Post-hoc analysis)です。

P(対象者):20名の体重が安定している健康な成人(男女各10名、平均年齢31.2歳、平均BMI 27.0kg/m2)。

I(介入):未加工の食事(NOVA分類に基づいた未加工または最小限の加工食品)を2週間、自由摂取(ad libitum)。

C(対照):超加工食品(NOVA分類に基づいた超加工食品)を2週間、自由摂取。

O(主要評価項目):食事コンポーネントの選択特性、炭水化物と脂肪のエネルギー比率、エネルギー摂取量、食品の質量、微量栄養素の密度。

研究はクロスオーバーデザインで行われ、両方の食事は総エネルギー量、マクロ栄養素(糖質・脂質・タンパク質)、食物繊維、ナトリウム、糖分が厳密にマッチングされていました。

第一のメカニズム blend index:炭水化物と脂肪の「報酬の黄金比」を崩す

人間は、エネルギー源として炭水化物と脂肪がバランスよく混ざった食品を、どちらか一方が突出している食品よりも強く好むことが知られています。これを本論文では、炭水化物と脂肪のエネルギー比率が50対50に近づくほど高くなる「ブレンド指数」として定量化しています(炭水化物と脂肪がどちらかに偏るほど数値が0に近づき、両者が拮抗するほど1に近づく)。

解析の結果、超加工食品を中心とした食事では、ランチのブレンド指数が0.649、ディナーが0.655と高く、炭水化物と脂肪が密接に結合した「ブレンド状態」で提供されていました。一方、未加工食ではランチで0.427、ディナーで0.409と、ブレンド指数が有意に低くなっていました。

この違いがエネルギー摂取量に与える影響は甚大です。超加工食品は、製造段階ですでにこの「黄金比」にブレンドされているため、私たちは一口食べるごとに高い報酬系を刺激されます。しかし、未加工の食事では、ステーキ(主に脂肪とタンパク質)とジャガイモ(主に炭水化物)のように、成分が分離しています。参加者は、これらの未加工コンポーネントを自由に選んで組み合わせることができましたが、結果として出来上がった食事のブレンド指数は、超加工食品のそれよりも遥かに低いレベルに留まりました。つまり、未加工食は「美味しすぎて止まらない」という報酬系の暴走を、その物理的な構成によって自然に防いでいるのです。

第二のメカニズム 微量栄養素デレバレッジ(micronutrient deleveraging)

本研究が提唱する最も革新的な概念が、微量栄養素デレバレッジです。これは、特定の微量栄養素の必要量を満たそうとする際、エネルギー摂取量が副次的に抑制される現象を指します。

未加工の食事において、ビタミンやミネラルといった微量栄養素は、主にエネルギー密度の低い食品、つまり野菜や果物に集中しています。驚くべきことに、未加工食のグループでは、総摂取質量の52%がエネルギー密度1.0 kcal/g未満の食品(主に野菜と果物)で占められていました。これにより、未加工食の摂取質量は1日あたり平均2000gに達し、超加工食の1275gと比較して57%も増加していました。

それにもかかわらず、エネルギー摂取量は未加工食の方が1日あたり330 kcal(飲料を除いた固形食のみの比較)も少なかったのです。これは、私たちの身体が「ビタミンやミネラルを十分に確保しよう」として野菜や果物を選択した結果、胃の物理的な容量が満たされ、それ以上の高エネルギー食品の摂取が制限されたことを示唆しています。

一方で、超加工食品の世界では、このメカニズムが完全に破壊されています。超加工食品の多くは、精製されたエネルギー密度の高い素材に、工業的にビタミンやミネラルが添加(強化)されています。例えば、未加工食でビタミンAを摂るには、カロリーの低い人参やほうれん草を食べる必要がありますが、超加工食では高カロリーなフレンチトーストやパンケーキ自体にビタミンが強化されています。その結果、微量栄養素の必要量を満たす過程で、必然的に過剰なカロリーを摂取させられるという「罠」に陥るのです。

未加工食と超加工食の間のエネルギー摂取量の差の87.6%を説明できる;「ブレンド指数」と「野菜・果物の選択スコア」

本研究で構築された線形混合モデルによれば、「炭水化物と脂肪のブレンド指数」と「野菜・果物の選択スコア」の二つだけで、未加工食と超加工食の間のエネルギー摂取量の差の87.6%を説明できることが判明しました。

具体的な数値を見てみましょう。超加工食の平均的なエネルギー密度は1.96 kcal/gであったのに対し、未加工食では1.08 kcal/gまで低下していました。この1.08 kcal/gという数値は、大量の野菜や果物の摂取によって達成されたものです。もし、未加工食のグループが皿に残した高エネルギー密度の食品(平均370 kcal分)をすべて食べていれば、超加工食とのカロリー差は消えていたはずです。しかし、彼らはそれを食べませんでした。それは、微量栄養素が豊富な低エネルギー密度食品によって、生理的な満足感がすでに得られていたからに他なりません。

既存研究との新規性と分子生物学的背景

「“nutritional intelligence” 栄養知能」の無効化

本研究の新規性は、単に「加工度は悪い」と断じるのではなく、私たちの進化の過程で培われた栄養感知能力、すなわち栄養知能が、現代の加工技術によっていかに無効化されているかを定量的に示した点にあります。

「Supra-Additive Effects(超加算的)」

分子生物学的な観点からは、報酬系におけるドーパミン放出が、炭水化物と脂肪の同時摂取によって相乗的に強化される「Supra-Additive Effects(超加算的)」な作用を持つことが、近年のマウス実験やヒトの脳画像研究で明らかになっています。本研究は、この神経科学的知見を、実際の食事選択というマクロな行動データと結びつけました。

Protein Leverage仮説との対比

また、従来から知られているProtein Leverage仮説(タンパク質の必要量を満たすまで食事を続けるという仮説)との対比も重要です。プロテイン・レバレッジが「不足を補うために食べ過ぎる」現象であるのに対し、今回の微量栄養素デレバレッジは「質を求めた結果、量が抑えられる」という、よりポジティブなフィードバック機構として機能しています。

臨床的示唆と明日からの実践ガイド

この論文から得られる知見は、私たちの日常の食事選択において、極めて具体的な指針を与えてくれます。

  1. 脂肪と炭水化物の分離を意識する
    一皿の中に、脂肪分と炭水化物が高度に混ざり合った「ブレンド食品」を避けることが重要です。例えば、クロワッサンやドーナツ、ピザ、パスタソースなど、最初から油脂と糖質が渾然一体となっているものは、脳の報酬系を過剰に刺激します。代わりに、メインの肉や魚、そしてご飯やイモといった、成分が分かれた状態で提供される未加工の食材を組み合わせることで、自然と満腹中枢が正常に働きます。
  2. 微量栄養素による「ボリュームアップ」戦略
    食事の質量の少なくとも50%を、エネルギー密度が1.0 kcal/g以下の未加工の植物性食品(野菜、果物、キノコ類など)で構成することを目指してください。これにより、胃の物理的な膨らみが微量栄養素の摂取とリンクし、高エネルギー食品の過剰摂取を物理的にブロックしてくれます。
  3. 強化食品の誤解を解く
    ビタミン添加と書かれたシリアルやエナジーバーに頼るのではなく、素材そのものから栄養を摂る習慣をつけてください。微量栄養素が特定の高カロリー食品に閉じ込められている状態(Co-location)を避け、栄養の供給源を低カロリーな自然由来の食品に分散させることが、エネルギー摂取量を適正化する鍵となります。

本研究の限界(Limitation)

本研究には、いくつかの留意すべき限界があります。まず、20名という比較的小規模なサンプルサイズでの解析である点です。また、あくまで事後解析であるため、因果関係を完全に証明するものではなく、提示されたモデルの妥当性を検証するための新たなランダム化比較試験が必要となります。

さらに、参加者がなぜ特定の成分を選んだのかという内面的な動機付けについては直接測定されておらず、栄養知能が意識的なものか、それとも無意識的な生理反応なのかという境界線もまだ不明確です。炭水化物と脂肪の最適なブレンド比率が個人によって異なる可能性も考慮されるべきでしょう。

結論:栄養知能を味方につける

私たちは、自分が何をどれだけ食べるべきかを知っている、驚くほど賢い身体を持っています。しかし、その知能は、精緻に計算された超加工食品によって、いとも簡単に欺かれてしまいます。未加工の食事を選ぶということは、単に添加物を避けるということではありません。それは、私たちの脳と身体が正しく対話できる「情報の透明性」を食事に取り戻すことなのです。

明日から、目の前の皿が「炭水化物と脂肪の罠」になっていないか、そして「微量栄養素による満足感」を得られているか、少しだけ意識してみてください。それだけで、私たちの身体は、最も健康的な平衡状態へと自ずと回帰していくはずです。

参考文献

Jeffrey M. Brunstrom, Mark Schatzker, Peter J. Rogers, Amber B. Courville, Kevin D. Hall, Annika N. Flynn. Consuming an unprocessed diet reduces energy intake: a post-hoc analysis of a randomized controlled trial reveals a role for human nutritional intelligence. The American Journal of Clinical Nutrition. 2025. doi: 10.1016/j.ajcnut.2025.101183.

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