植物性タンパク質と動物性タンパク質の比率が心血管疾患リスクに与える影響

食事 栄養

心血管疾患(Cardiovascular Disease, CVD)は、全世界で主要な死因の一つであり、健康寿命の延伸において大きな課題となっています。本稿では、2024年に発表された最新の研究を基に、植物性タンパク質と動物性タンパク質の摂取比率(P:A比;Dietary plant-to-animal protein ratio )がCVDリスクに与える影響について詳細に解説します。この研究は、過去の研究を発展させ、より実践的な食事指導のための科学的根拠を提供する新規性の高いものです。


研究の概要と背景

近年、植物性タンパク質の摂取が推奨されていますが、その理想的な摂取比率や具体的な健康上の利点については議論が分かれています。先進国では多くのタンパク質が動物源に由来しています。たとえば、米国では食事中の植物性タンパク質と動物性タンパク質の平均比率(P:A比)は∼1:3(0.33)です。
本研究は、Nurses’ Health Study(NHS)、NHSII、Health Professionals Follow-up Study(HPFS)の3つの大規模コホートを基に、P:A比とCVD、冠動脈疾患(CAD)、および脳卒中リスクとの関連を評価しました。

  • 対象者数:202,863人(女性140,123人、男性62,740人)
         コホート開始時の平均年齢は各50.3歳、35.9歳、53.6歳
  • 追跡期間:最大30年(1984年から2017年)
         参加者は2~4年ごとにライフスタイル、病歴、その他の健康関連要因について追跡調査
  • 発生件数:16,118件のCVD、10,187件のCAD、6,137件の脳卒中

研究の新規性

  1. P:A比に焦点を当てた初の大規模長期研究 過去の研究は、植物性または動物性タンパク質の単独摂取量を調査するものが多く、P:A比そのものに焦点を当てた研究は少数でした。本研究は、P:A比が心血管疾患に与える影響を体系的に評価した点で新規性があります。
  2. 用量反応関係を解明 P:A比とCVDリスクの用量反応関係を明確化し、最適な比率を提案しています。この点で、単なる関連性の提示に留まらない実用的な知見を提供しています。
  3. 代替食品の具体的効果を分析 赤肉や加工肉を具体的な植物性食品(ナッツや豆類など)で置き換えた場合のリスク低減効果を定量的に示しています。
  4. 多面的な解析手法の採用 感度分析やサブグループ解析を通じて、結果の頑健性を確保しつつ、特定の条件下での効果を明らかにしています。

主要な研究結果

1. P:A比が高いほどCVDリスクが低下

  • P:A比が最も高い群(約0.76)は、最も低い群(約0.24)に比べてCVDリスクが19%低下(ハザード比[HR]: 0.81; 95%信頼区間[CI]: 0.76-0.87)。
  • CADリスクは27%低下(HR: 0.73; 95% CI: 0.67-0.79)。
  • 一方、脳卒中リスクには有意な関連は見られませんでした(HR: 0.98; 95% CI: 0.88-1.09)。
  • 参考/再掲:米国では食事中の植物性タンパク質と動物性タンパク質の平均比率(P:A比)は∼1:3(0.33)です。

2. 用量反応関係と最適比率

  • CVDリスク:P:A比が0.5以上になるとリスク低下が顕著で、0.76に近づくほど効果が高まりました。
  • CADリスク:さらに高い比率(1.0以上)でもリスク低下が続きました。
  • 脳卒中リスク:P:A比との関連性は確認されませんでしたが、赤肉や加工肉を全粒穀物やナッツに置き換えることで脳卒中リスクが軽減される可能性が示唆されました。

3. 動物性タンパク質から植物性タンパク質への置き換え効果

  • 赤肉や加工肉から植物性タンパク質に3%エネルギー分置き換えると、
    • CVDリスクが18%低下
    • CADリスクが24%低下
  • 特にナッツ、豆類、全粒穀物のような高品質な植物性タンパク質源への置き換えが効果的でした。

4. タンパク質密度の影響

  • タンパク質密度が20.8%エネルギーと高い食事では、心血管保護効果が最大化されることが示されました。比較対象となった低い群は15.8%、中くらいの群は18.2%。
  • 高いタンパク質密度とP:A比の組み合わせが、特に冠動脈疾患(CAD)のリスク低下において大きな効果をもたらしました。

過去の研究との比較

1. 過去研究の限界

  • 過去の多くの研究は、特定の食品や栄養素の単独効果に焦点を当て、食事全体のバランスを考慮していませんでした。
  • 長期間の追跡調査が少なく、食習慣の変化を反映できない研究も多く存在しました。

2. 本研究の優位性

  • 長期追跡とデータ更新:最大30年にわたり、定期的に食事情報を更新することで、より現実的な食事パターンを反映。
  • 食事全体の質を評価:P:A比を用いることで、単一の食品に依存しない食事のバランス評価が可能。
  • 具体的な代替効果の提示:どの動物性食品をどの植物性食品に置き換えるべきかを詳細に解析。

メカニズムの考察

1. 飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸

植物性タンパク質源は、動物性タンパク質源と比較して飽和脂肪酸が少なく、不飽和脂肪酸(特に多価不飽和脂肪酸)が多く含まれています。不飽和脂肪酸は、血中コレステロール値の改善や炎症の抑制に寄与します。

2. アミノ酸プロファイル

  • 植物性タンパク質は、動物性タンパク質に比べて、アルギニンやグリシンなどの血管拡張作用や抗酸化作用を持つアミノ酸を多く含んでいます。これらのアミノ酸は、血管内皮機能を改善し、CVDリスクを低下させる可能性があります。
  • 一方、分岐鎖アミノ酸(BCAA)、特にロイシンは、インスリン抵抗性や慢性炎症を促進し、CVDリスクを高める可能性が示唆されています。BCAAは動物性タンパク質に多く含まれています。

3. 食物繊維

  • 植物性タンパク質源は、食物繊維も豊富に含んでいます。食物繊維は、腸内細菌叢の改善、コレステロール値や血圧の低下、血糖値の改善など、多岐にわたるメカニズムを 통해 CVDリスクを低下させる効果が知られています。

4. その他の成分

  • 植物性タンパク質源は、ヘム鉄や**トリメチルアミンN-オキシド(TMAO)**の産生が少ない一方、ポリフェノール、ビタミン、ミネラルなどの抗酸化作用や抗炎症作用を持つ成分を多く含んでいます。ヘム鉄は酸化ストレスを促進し、TMAOは動脈硬化を促進する可能性が指摘されています。
  • 植物性タンパク質源に含まれるフィトケミカルも重要な役割を果たしている可能性があります。フィトケミカルは、植物に含まれる生理活性物質の総称であり、抗酸化作用、抗炎症作用、免疫調節作用など、様々な生理活性を有しています。

実践への応用

1. 食事のP:A比を意識する

  • P:A比を最低でも0.5(1:2)以上にすることを目標に。
    • :1日のタンパク質摂取量が60gの場合、20gを植物性タンパク質から摂取。

2. 高品質な植物性タンパク質源を選ぶ

以下の食品を積極的に取り入れる。

  • ナッツ(アーモンド、くるみなど)
  • 豆類(大豆、レンズ豆など)
  • 全粒穀物(キヌア、オートミールなど)

特に、ナッツ類はCVDリスクを低下させる効果が大きい可能性があります。1日あたり30g程度のナッツ類を摂取することが推奨されています。

3. 動物性タンパク質の質を見直す

  • 赤肉や加工肉を減らし、魚や低脂肪乳製品を選ぶ。
  • 鶏肉や乳製品も徐々に植物性食品に置き換える。

4. 栄養補助食品を活用

既知の研究では、タンパク質の25%~70%が植物由来の食事は健康リスクが最小限で、植物性タンパク質が80%を超えて増加した場合にのみ栄養素の適切性が損なわれると推定されている。そのような場合、植物性タンパク質を増やすことで不足しがちな栄養素(ビタミンB12、鉄、カルシウム、オメガ3脂肪酸)を補うため、必要に応じサプリメントを活用することを検討する。


結論と今後の展望

本研究は、植物性タンパク質を優先する食事がCVDおよびCADのリスク低減に寄与することを示しました。特に、P:A比を高めることは、健康だけでなく地球環境の保護にもつながる可能性があります。今後の研究では、脳卒中を含むさらなる病態や、植物性タンパク質の質の違いが健康に与える影響を解明する必要があります。


参考文献

・Glenn, A. J., Wang, F., Tessier, A.-J., Manson, J. E., Rimm, E. B., Mukamal, K. J., Sun, Q., Willett, W. C., Rexrode, K. M., Jenkins, D. J. A., & Hu, F. B. (2024). Dietary plant-to-animal protein ratio and risk of cardiovascular disease in 3 prospective cohorts. The American Journal of Clinical Nutrition, 120(10), 1373-1386. https://doi.org/10.1016/j.ajcnut.2024.09.006

・Fouillet H, Dussiot A, Perraud E, Wang J, Huneau JF, Kesse-Guyot E, Mariotti F. Plant to animal protein ratio in the diet: nutrient adequacy, long-term health and environmental pressure. Front Nutr. 2023 Jun 15;10:1178121. doi: 10.3389/fnut.2023.1178121. Erratum in: Front Nutr. 2023 Sep 01;10:1281700. doi: 10.3389/fnut.2023.1281700. PMID: 37396122; PMCID: PMC10311446.

タイトルとURLをコピーしました