加糖摂取と心血管疾患リスク:摂取源による相違

食事 栄養

先日、加糖飲料は身体に悪いが、お菓子などの固形物の糖分は身体に悪いとは言い切れないというような話をしました。

同じような結果を含め、興味深い論文がありましたのでご紹介します。

心血管疾患(Cardiovascular Disease; CVD)は、全世界の死因の約32%を占める重大な公衆衛生問題です。このリスクに寄与する要因の一つとして糖分摂取が挙げられますが、そのリスクは摂取する糖の種類や摂取源によって異なる可能性があります。ここでは、UKバイオバンクの17万6,352名を対象に行われた大規模コホート研究の成果を基に、遊離糖(Free Sugars; FS)と内因性糖(Intrinsic Sugars)の摂取とCVD発症リスクとの関連を紐解きます。この研究は特に、分子生物学的視点を取り入れながら、糖分摂取とその影響を包括的に評価しています。

糖分の分類と研究概要

糖分はその化学構造により単糖類および二糖類に分類されますが、さらに摂取源によって遊離糖(FS)と内因性糖(Intrinsic Sugars)に分類されます。
遊離糖とは、食品メーカーや消費者によって食品や飲料に加えられた糖分、および天然に蜂蜜、シロップ、果汁に含まれる糖を指します。一方、内因性糖は果物や野菜、乳製品に自然に含まれる糖分を指します。

本研究では、FSの摂取量が心血管疾患リスクとJ字型の関連を示し、最適な摂取量(HR-nadir)は総エネルギー摂取量の9%E(エネルギーの9%)であることが明らかになりました。一方で、固有糖は非線形的にCVDリスクを減少させ、最適摂取量は14%Eとされています。

主な研究結果

1. 遊離糖全体の摂取とCVDリスク

遊離糖の摂取量が9%Eを下回るか、または20%Eを超えるとCVDリスクが増加しました。例えば、摂取量が20%Eに達すると、ハザード比(HR)は1.13(95%信頼区間: 1.09-1.17)に達しました。これにより、適切な遊離糖の摂取量を維持することの重要性が浮き彫りになっています。

2. 飲料中の遊離糖とCVDリスク

飲料中の遊離糖は、特にリスクが高いことが分かりました。飲料中のFSは3%Eを超えるとリスクが直線的に増加し、例えば10%Eに達するとHRは1.06(95%信頼区間: 1.03-1.09)、20%Eでは1.24(95%信頼区間: 1.13-1.35)に上昇しました。ソーダやフルーツドリンクに含まれる糖分は最も悪影響を及ぼし、これらの摂取量をゼロに抑えることが望ましいとされています。

3. 果汁ジュースとCVDリスク

興味深いことに、果汁ジュースに含まれる糖分はU字型のリスクパターンを示しました。摂取量が5%EでHR-nadirを示し、それを下回るか超えるとリスクが上昇しました。例えば、非摂取者ではHRが1.11(95%信頼区間: 1.09-1.13)に達しました。これは、果汁ジュースが一定量であればCVD予防に寄与する可能性があることを示唆しています。他の加糖飲料に比べ果汁ジュースには、ビタミンやフィトケミカルなど身体に好影響を与える栄養素が含まれている可能性があります。

4. 固形食品中の遊離糖とCVDリスク

固形食品中の遊離糖は、U字型のリスクパターンを示し、7%Eでリスクが最も低くなりました。中でも、お菓子類(treats)はJ字型の関係を示し、5%Eが最適な摂取量とされました。
加糖飲料と比べてリスクが異なる理由の仮説の1つとして社交が考えられます。友人や家族と一緒に菓子類を摂取する習慣はストレス軽減や社会的つながりを促進し、結果として心血管疾患のリスクを低下させる可能性があります。菓子類の摂取が少ないことが、社会的孤立の指標となる場合、孤立そのものが心血管疾患のリスクを高める可能性があるのです。
一方、朝食用シリアルに含まれる遊離糖は直線的なリスク増加と関連がありました。

5. 内因性糖とCVDリスク

固有糖はCVDリスクを非線形的に減少させ、14%Eで最も低リスクを示しました。果物や野菜に含まれる固有糖は、そのマトリックスに含まれる食物繊維や抗酸化物質が影響している可能性があります。

高糖分摂取が心血管疾患リスクを高めるメカニズム

高糖分摂取が心血管疾患リスクを高める分子メカニズムは複雑ですが、以下のポイントが示唆されています:

  1. エネルギーバランスの破綻:遊離糖の摂取は満腹感を抑制し、過剰摂取につながります。
  2. 肝臓での脂肪生成増加:糖分摂取は肝臓での新生脂肪合成を促進し、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)を引き起こします。NAFLDはCVDの重要なリスク因子です。
  3. 酸化ストレスと慢性炎症:高糖分摂取は活性酸素種(ROS)の産生を増加させ、酸化ストレスを介して血管内皮機能障害を引き起こします。
  4. 交感神経活動の亢進:糖分摂取により視床下部の腹内側核が刺激され、交感神経系の活動が高まることが報告されています。

公衆衛生的インパクトと提言

本研究は、CVD予防のためには糖分摂取源に基づいた具体的な戦略が必要であることを強調しています。特に、以下のような行動が推奨されます:

  1. 加糖飲料の摂取削減:特にソーダやフルーツドリンクの摂取を減らすこと。
  2. 果汁ジュースの適切な摂取:摂取量を5%E前後に調整する。
  3. 固形食品中の自由糖制限:お菓子やシリアルの摂取量を管理する。
  4. 固有糖を含む食品の摂取推奨:果物や野菜を多く摂取し、14%E程度を目標にする。

結論

自由糖の摂取はその摂取源によりCVDリスクへの影響が異なることが明らかになりました。特に加糖飲料はリスクを高める主要な要因であり、その摂取削減は公衆衛生の観点から急務です。一方、果物や野菜に含まれる固有糖はCVDリスクを減少させる可能性があり、これらを適切に摂取することが推奨されます。

この知見は、糖分摂取の管理が個々の健康だけでなく、社会全体の疾病予防にも寄与する可能性があることを示唆しています。

参考文献

Schaefer SM, Kaiser A, Eichner G, Fasshauer M. Association of sugar intake from different sources with cardiovascular disease incidence in the prospective cohort of UK Biobank participants. Nutr J. 2024 Feb 22;23(1):22. doi: 10.1186/s12937-024-00926-4. PMID: 38383449; PMCID: PMC10882929.

タイトルとURLをコピーしました