植物性タンパク質の比率が80%超えたらサプリ活用

食事 栄養

現代の食生活において、植物性タンパク質と動物性タンパク質の比率(%PP)は、健康、栄養適合性、そして環境負荷の観点で重要な議論の対象となっています。本論文は、フランスの成人の食事データを用いて、健康リスクを最小化しながら栄養適合性を確保し、環境負荷を軽減するための理想的な%PPの範囲を探る研究です。その結果、%PPが25%から70%の範囲で、健康と環境の両方にとってバランスが取れた食事が可能であることが明らかになりました。また、植物性タンパク質が80%を超える場合にのみ栄養素の適切性が損なわれることが示されました。本稿では、この研究の詳細とその実践的な意義について解説します。


1. 研究の背景と目的

食生活の変遷に伴い、植物性と動物性タンパク質の比率が変化してきました。伝統的な食事から現代の西洋化した食事へと移行する中で、動物性タンパク質の摂取割合が増加し、その結果、健康リスクや環境への影響が懸念されています。一方で、植物性タンパク質の増加は、栄養素の欠乏や味覚の受容性に関する課題を伴います。本研究の目的は、%PPを調整することで、栄養適合性、長期的な健康、環境持続可能性を同時に達成できる範囲を特定することにあります。


2. 方法論

データ収集と分析

フランスの全国食事調査(INCA3)から抽出した成人1,125人の食事データを使用。データは、24時間の食事記録を基に、栄養素摂取量や食事パターンを詳細に解析。

最適化モデル

研究では、次の3つの基準を用いて多基準最適化を実施しました:

  1. 栄養適合性の確保:鉄、カルシウム、ビタミンB12など、重要栄養素の摂取量を基準値に適合させる。
  2. 健康リスクの最小化:加工肉や赤肉など不健康な食品の摂取を制限し、全粒穀物や果物、野菜、豆類など健康的な食品を推奨。
  3. 食文化の受容性:既存の食事パターンからの逸脱を最小化。

環境負荷の評価

環境影響は、フランスのAGRIBALYSE®データベースを用いて、温室効果ガス排出量、土地利用、水使用量、化石燃料使用量など16の指標で評価されました。


3. 主な結果

%PPと栄養適合性

  • 栄養適合性を満たす%PPの範囲は15%から80%。
  • 健康リスクを最小化する%PPは25%から70%。
  • %PPが80%を超えると、ビタミンB12、カルシウム、EPA+DHA、ヨウ素などの不足が発生し、栄養素の適切性が損なわれる。

%PPと健康リスク

  • 赤肉と加工肉の摂取をゼロにすることで、心血管疾患リスクが低下。
  • 果物、野菜、全粒穀物の摂取量を増加させることで、栄養素不足を防止。

環境負荷の低減

  • %PPが70%の場合、温室効果ガス排出量が50%減少。
  • 土地利用が40%、化石燃料使用が20%削減。
  • ただし、水使用量は果物と野菜の増加により25–50%増加。

4. 栄養学的視点

タンパク質の質とその影響

タンパク質の質は、そのアミノ酸組成に依存します。動物性タンパク質は必須アミノ酸を豊富に含み、特にリジンが不足しがちな植物性タンパク質を補完します。
しかし、%PPが15%未満の食事では、食物繊維の不足と飽和脂肪酸の過剰摂取が顕著でした。食物繊維は、腸内細菌叢の多様性を維持し、短鎖脂肪酸の産生を促進することで、腸管バリア機能の強化、血糖値の制御、脂質代謝の改善など、多岐にわたる生理機能に貢献します。一方、飽和脂肪酸の過剰摂取は、LDLコレステロールの増加、動脈硬化の促進、心血管疾患リスクの上昇など、様々な健康障害を引き起こす可能性があります。

不足しうる栄養素

%PPが80%を超える食事では、ヨウ素、ビタミンB12、鉄、カルシウム、EPA+DHAなどの必須栄養素の不足が懸念されます。これらの栄養素は、動物性食品に多く含まれており、植物性食品のみで十分な量を摂取することは容易ではありません。

  • ヨウ素: 甲状腺ホルモンの合成に必須であり、不足すると甲状腺機能低下症を引き起こし、代謝の低下、疲労感、体重増加などの症状が現れます。海藻類、魚介類に多く含まれます。
  • ビタミンB12: DNA合成、赤血球の生成、神経系の維持に不可欠です。不足すると巨赤芽球性貧血、神経障害、認知機能の低下などを招きます。動物性食品のみに含まれ、植物性食品には含まれません。
  • : ヘモグロビンの構成成分であり、酸素運搬を担います。不足すると鉄欠乏性貧血となり、疲労感、動悸、息切れ、めまいなどの症状が現れます。ヘム鉄(動物性食品)と非ヘム鉄(植物性食品)があり、ヘム鉄の方が吸収率が高いです。ビタミンCと同時に摂取すると非ヘム鉄の吸収率が向上します。
  • カルシウム: 骨や歯の形成、筋肉の収縮、神経伝達など、様々な生理機能に関与します。不足すると骨粗鬆症のリスクが高まります。乳製品、小魚、大豆製品、緑黄色野菜に含まれます。
  • EPA+DHA: n-3系多価不飽和脂肪酸であり、脳機能の維持、心血管疾患の予防、炎症の抑制などに効果があるとされています。魚油に多く含まれます。

必須栄養素の補完

上記の栄養素の不足は、健康に深刻な影響を及ぼす可能性があるため、%PPの高い食生活を送る場合は、これらの栄養素を意識的に摂取する必要があります。例えば、海藻や魚を積極的に摂取したり、ビタミンB12のサプリメントを服用したりすることが有効です。

  • EPA+DHA:主に魚介類に含まれるが、%PPが高い食事では不足しがち。藻類由来のサプリメントが有効。
  • ビタミンB12:動物性食品に依存しているため、植物性食品主体の食事ではサプリメントが必要。
  • カルシウムとヨウ素:乳製品が主要供給源であるため、植物性食品主体の食事ではフォートフォード食品が重要。

5. 実践的アプローチ

明日から実践できる方法として、以下を提案します:

  1. 食事構成の調整
    • 1日1回の食事で植物性タンパク質を増やす。
    • 例:動物性タンパク質の代わりに、豆類や全粒穀物を主菜に。
  2. サプリメントの活用
    • ビタミンB12やDHA/EPAのサプリメントを取り入れる。
  3. 食品選択の工夫
    • ナッツや種子類をスナックとして活用。
    • ヨウ素補給のため、ヨウ素添加塩を使用。
  4. 持続可能性を意識した食材選び
    • 季節の果物と野菜を選ぶ。
    • 地産地消を心がける。
  5. 長期的視点での計画
    • 徐々に動物性タンパク質の割合を減らし、家族全体で新しいレシピを試してみる。
    • 食事の日記をつけ、摂取する栄養素や体調の変化を記録する。

6. 結論

植物性タンパク質の摂取割合を増やすことは、健康と環境の両方において持続可能な選択となります。ただし、極端な食事変更には栄養補完策が必要です。本研究の示唆する%PPの範囲(25%から70%)は、栄養、健康、環境のバランスを考慮した理想的なガイドラインとなり得ます。また、植物性タンパク質が80%を超えて増加した場合にのみ栄養素の適切性が損なわれることから、これを回避するためには適切な食事設計や補助的な栄養戦略が求められます。個々の食事習慣に合わせた柔軟なアプローチが、実践の鍵です。


参考文献

Fouillet, H., Dussiot, A., Perraud, E., Wang, J., Huneau, J.-F., Kesse-Guyot, E., & Mariotti, F. (2023). Plant to animal protein ratio in the diet: Nutrient adequacy, long-term health and environmental pressure. Frontiers in Nutrition, 10, 1178121. https://doi.org/10.3389/fnut.2023.1178121

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