心室性期外収縮に潜む左室瘢痕のリスク評価

心拍/不整脈

序論

心室期外収縮(PVC)は、健常者においても日常的に観察される現象ですが、その一部は基礎疾患の存在を示唆する場合があります。特に、スポーツ選手においては、PVCが潜在的な心筋瘢痕(late gadolinium enhancement: LGE)の指標となる可能性があり、突然死のリスク評価において重要な役割を果たします。

本研究では、右脚ブロック(right bundle branch block, RBBB)パターンを示すPVCに着目し、心電図(ECG)の特定の特徴が左室瘢痕の有無を予測する指標となるかを検討しました。従来の診断法で見逃される可能性がある微細な心筋異常を識別するため、心臓MRI(cardiac magnetic resonance, CMR)によるLGEの有無を解析し、ECG所見との関連性を評価しました。

なお、心筋瘢痕=心筋の遅延造影増強(late gadolinium enhancement, LGE)は、線維化した心筋組織を示し、心筋梗塞後の瘢痕や、非虚血性心筋症(例:拡張型心筋症、心筋炎、肥大型心筋症など)に関連しています。スポーツを行うアスリートにおいて、LGEがあると突然死のリスクが上昇する可能性があることが複数の研究で示されています。
(LGEがあっても、スポーツを続けるかどうかは、LGEの分布、心機能、不整脈の有無を総合的に評価して決定され、一部の患者は適切なフォローアップのもとで競技を継続できます。定期的な心臓評価を受け、リスク管理を徹底することが推奨されます。)

研究の背景と目的

心室期外収縮(PVC)は、特にスポーツ選手においては慎重に評価されるべき心電図所見です。PVC自体は一般的な心電図変化であり、全人口の75%に見られるとされています。しかし、一部のPVCは基礎疾患の存在を示し、突然死のリスク因子となることが知られています。

左室瘢痕(LGE)は、不整脈の基質として知られており、一般的な心エコー検査では検出が困難です。特に、右脚ブロック型のPVCを有する患者では、LGEの有無を正確に評価することが臨床的に重要です。本研究の目的は、RBBB型PVCを持つスポーツ選手において、ECGの特徴がLGEの欠如を予測できるかどうかを検討することです。

方法

研究対象

本研究では、121名のスポーツ選手(平均年齢36±16歳、男性48.8%)を対象に、以下の基準を満たす者を選定しました。

  • 単形性PVCを持つこと
  • 心電図および心エコー検査で異常が認められないこと
  • CMR検査を受けたこと

評価手法

心電図解析

12誘導心電図を用い、PVCの軸方向を以下の2つに分類しました。

  • 上方/中間軸(SA-IntA)
  • 下方軸(IA)   ※ 下記補足参照

また、PVCのQRS波形、持続時間、Q波の有無などを詳細に解析しました。

24時間ホルター心電図

各被験者は24時間ホルター心電図を装着し、最低100回以上のPVCが記録されていることを確認しました。

心エコー検査

2D経胸壁心エコーを実施し、左室収縮率(LVEF)、左室拡張末期容量(LVEDV)、収縮末期容量(LVESV)を測定しました。

心臓MRI(CMR)

1.5T MRIを用いてLGEを評価し、

  • その分布(心筋内、外膜下、内膜下)
  • 形態(線状、斑状) を解析しました。

※ 補足:上方/中間軸(SA-IntA)、下方軸(IA)とは?

上方/中間軸(SA-IntA)下方軸(IA)は、心電図(ECG)の電気軸(電気的な興奮の主方向)に基づいた分類で、心室期外収縮(PVC)の起源を推測する際に重要な概念です。


上方/中間軸(SA-IntA, Superior/Intermediate Axis)

  • 定義:
    心電図の下壁誘導(II、III、aVF)で陰性波を示すPVC。
  • 意義:
    興奮の主な方向が上方(頭側)または中間方向に向かっていることを意味し、一般的に左室自由壁または乳頭筋周囲、心基部近くからの起源を示唆します。

下方軸(IA, Inferior Axis)

  • 定義:
    心電図の下壁誘導(II、III、aVF)で陽性波を示すPVC。
  • 意義:
    興奮の主な方向が下方(足側)に向かっていることを意味し、一般的に左室の基部寄りや前壁側、僧帽弁輪周囲からの起源を示唆します。

結果

ECGの特徴とLGEの関連性

被験者121名のうち、35名(29%)にLGEを認めました。

  • LGEの有無とPVCの軸方向の関連性
    • SA-IntA群:LGE陽性率38%
    • IA群:LGE陽性率10%(P = 0.002)
  • ECGの特徴とLGEの関連性
    • SA-IntA群において、V1およびaVRのqRパターンの同時出現はLGEの欠如を予測(51%の感度、100%の特異度)(51.0% vs. 0%, P < 0.0001)
    • IA群では、QRS幅が160ms未満の場合、LGEを伴わない可能性が高い(感度63%、特異度100%)(145 ± 16 vs. 184 ± 27 msec, P < 0.001)

考察

LGEは、非虚血性心筋線維化を示す重要なマーカーです。この線維化は、中層および心外膜下層に広がり、リング状のパターンを形成することが多く、致死的な不整脈の基質となります。本研究では、RBBB形態のPVCが左心室起源を示唆し、LGEの存在と関連していることが確認されました。特に、SA-IntAのPVCを持つ患者では、心筋線維化がより広範に及んでいる可能性が高いことが示唆されます。

RBBB-PVCと左室瘢痕のリスク評価

右脚ブロック型PVCは、左室起源であることが多く、LGEとの関連性が指摘されてきました。本研究では、SA-IntA群のPVCにおいてLGEの発生率が高いことを示しました。 これは、SA-IntA群のPVCが心筋内または外膜下の異常と関連している可能性を示唆します。

また、V1およびaVRでqRパターンが確認された場合、LGEの欠如を予測できることが明らかになりました。 これは、電気生理学的に、PVCの発生部位がLGEを伴いやすい部位と一致しない可能性を示しています。

臨床的意義と実践的応用

本研究の結果は、アスリートにおけるPVCの評価において、ECGの詳細な解析が重要であることを示しています。具体的には、以下の点が臨床的に有用です:

  • SA-IntAのPVCを持つ患者:aVRとV1誘導にqRパターンが同時に存在する場合、LGEが存在しない可能性が高いため、CMRの必要性が低いと判断できます。
  • IAのPVCを持つ患者:QRS幅が160 msec未満の場合、LGEが存在しない可能性が高いため、同様にCMRの必要性が低いと判断できます。

これらのECG特徴を活用することで、高価で時間のかかるCMR検査を必要とする患者を適切に選別し、医療資源の効率的な利用が可能となります。

研究の限界

本研究にはいくつかの限界があります。まず、対象となったアスリートの数が比較的少ない(121名)ことです。また、研究が行われたのは生命を脅かす不整脈のリスクが高い患者を扱う三次医療機関であり、一般のアスリート集団におけるLGEの有病率を代表しているとは限りません。さらに、CMRを受けることができなかった患者(閉所恐怖症や患者の希望による)が含まれていないことも限界の一つです。また、心筋瘢痕の長期的な予後への影響は不明であり、フォローアップ研究が必要です。

話が難し過ぎてわからなかった方へ

専門的で難しい話だったかもしれません。すいません。理解が難しかった人は

・一見正常な心臓に見えても、器質的異常が潜在している場合がある。
・それにより心室性期外収縮が出ている場合は要注意
・右脚ブロック型心室性期外収縮の場合は要確認

を覚えておきましょう。心室性期外収縮が散見される人、指摘された人は、循環器内科医に尋ねてみましょう。

結論

RBBB形態のPVCを持つアスリートにおいて、標準的な臨床検査(心電図、心エコー)では検出できない左心室瘢痕が存在する可能性があります。CMRは確定診断に不可欠ですが、高リスク症例に限定して使用すべきです。
本研究は、右脚ブロック型PVCを持つスポーツ選手において、ECGの特定の特徴がLGEの欠如を予測する指標となる可能性を示しました。

  • SA-IntA軸のPVCはLGEのリスクが高いが、V1およびaVRのqRパターンがある場合、LGEを伴わない可能性が高い
  • IA軸のPVCでQRS幅が160ms未満の場合、LGEの欠如と関連

この知見は、心電図の所見を活用することで、CMRの適応をより効率的に決定する手助けとなる可能性があります。

参考文献

Calò, L., et al. “Electrocardiographic characteristics of right-bundle-branch-block premature ventricular complexes predicting absence of left ventricular scar in athletes with apparently structural normal heart.” Europace (2023), 25, 1–10. DOI:10.1093/europace/euad217.

追記:aVRとV1誘導のqRパターンとLGE

aVRとV1誘導にqRパターンが同時に存在する場合、LGEが存在しない可能性が高い理由を解説します。

qRパターンの電気生理学的意味

aVRとV1誘導にqRパターンが同時に存在する場合、LGE(late gadolinium enhancement)が存在しない可能性が高い理由を理解するためには、まずqRパターンの電気生理学的な意味を理解する必要があります。

  • q波の発生メカニズム:q波は、心筋の初期脱分極が特定の方向に向かう際に生じます。具体的には、脱分極ベクトルが電極から遠ざかる方向に向かう場合、負のdeflection(q波)が記録されます。
  • R波の発生メカニズム:R波は、脱分極ベクトルが電極に向かう方向に変化した際に生じる正のdeflectionです。

aVRとV1誘導の解剖学的・電気生理学的特性

  • aVR誘導:aVR誘導は、心臓の右上方向(右肩)から心臓を見るような配置です。この誘導は、心臓の基部(base)や右心室の活動を反映しやすいとされています。
  • V1誘導:V1誘導は、胸骨右縁第4肋間に配置され、主に右心室と心室中隔の活動を反映します。

qRパターンがLGEの欠如を示唆する理由

aVRとV1誘導にqRパターンが同時に存在する場合、以下の電気生理学的メカニズムが働いていると考えられます。

心筋の正常な脱分極パターン
  • qRパターンは、心筋の正常な脱分極シーケンスを示唆します。特に、心内膜から心外膜に向かう脱分極が正常に進行している場合、q波が記録されます。
  • この正常な脱分極パターンは、心筋の構造的な異常(例えば、線維化や瘢痕)がないことを示唆します。LGEは心筋の線維化や瘢痕を反映するため、正常な脱分極パターンが維持されている場合、LGEが存在しない可能性が高くなります。
心筋の起源と伝導経路
  • qRパターンがaVRとV1誘導に同時に現れる場合、PVCの起源が左心室の特定の部位(例えば、乳頭筋や心内膜近く)であることが示唆されます。これらの部位は、通常、LGEが形成されにくい領域です。
  • 特に、乳頭筋起源のPVCでは、心内膜から心外膜に向かう脱分極が正常に進行するため、qRパターンが記録されます。このような正常な伝導経路は、心筋の構造的な異常がないことを示唆します。
脱分極ベクトルの方向性
  • aVRとV1誘導にqRパターンが同時に存在する場合、脱分極ベクトルがこれらの誘導から遠ざかる方向に向かっていることを示します。このようなベクトルの方向性は、心筋の正常な電気的活動を反映しており、LGEのような構造的異常がないことを示唆します。

電気生理学的視点からのまとめ

aVRとV1誘導にqRパターンが同時に存在する場合、以下の電気生理学的メカニズムが働いていると考えられます:

  • 正常な心筋脱分極パターンが維持されており、心筋の線維化や瘢痕がない。
  • PVCの起源が左心室の特定の部位(乳頭筋や心内膜近く)であり、これらの部位はLGEが形成されにくい。
  • 脱分極ベクトルがaVRとV1誘導から遠ざかる方向に向かっており、心筋の正常な電気的活動を示唆する。

これらの理由から、aVRとV1誘導にqRパターンが同時に存在する場合、LGEが存在しない可能性が高いと結論づけられます。

タイトルとURLをコピーしました