心房細動と睡眠時無呼吸症候群

Digital Health

睡眠時無呼吸症候群(SAS)と心房細動(AF)の関係は、非常に深いものであることが明らかになっています。この記事では、SASが心房細動を引き起こしやすくするメカニズムと、その対策について解説します。

睡眠時無呼吸症候群とは?

睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠中に呼吸が止まる病気です。主に、寝ている間に喉や舌の筋肉が緩み、気道が塞がれることで呼吸が止まってしまいます。この症状は、肥満の人に比較的多く見られますが、痩せている人でも発症することは珍しくありません。特にアジア人は顎の骨格が小さいため、気道が閉塞しやすいと考えられています。

日本におけるSASの有病率

日本では、SASの患者数は、軽症者も含めると、約2000万人と推定されています。中等度以上の症状を持つ患者は約900万人とされ、非常に多いことがわかります。我々も他人事ではありません。いびきをかく人の多くが、程度はともかく、SASである可能性が十分ありそうです。

SASと心房細動の関係

SASは、単に呼吸が止まるだけでなく、高血圧や糖尿病などのさまざまな病気を引き起こすことがわかっています。そして、心房細動のリスクも高まることが注目されています。
心房細動は、不整脈の一種で、速く、そして心拍が不規則になり、心不全や脳梗塞を続発するリスクを高めます。


SASの患者が心房細動を発症するリスクは非常に高く、心房細動の治療であるカテーテルアブレーションのために入院した心房細動患者の9割にSASが潜在し、SASの治療法として一般的なCPAP(持続的陽圧呼吸療法)を必要とする中等度以上の患者が半数以上を占めていたとの報告もあります。

また、心房細動患者は睡眠時無呼吸症候群の典型的症状(日中の眠気、中途覚醒、起床時の頭痛や倦怠感など)が起こりにくい傾向があり、検査や治療が後手後手になることがしばしばあります。なぜ典型的症状が起こりにくい傾向があるのかは分かりません。

SASが心房細動を引き起こすメカニズム

SASが心房細動を引き起こすメカニズムは複数あります。

胸腔内陰圧化

気道が閉塞したまま呼吸努力をすることで胸腔内が陰圧となり、心筋に圧負荷が生じたり、静脈還流が増加し心臓に負担を生じます。

低酸素

呼吸が止まることで血中酸素が低下し、交感神経亢進し、血圧が上昇、心臓への負担が増します。
また、心外膜に存在する神経節叢(心臓固有の内因性自律神経)を介して局所的な副交感神経亢進も生じます。

頻回な覚醒

呼吸が止まるたびに睡眠が中断され(覚醒)、交感神経が活性化されます。

これらの断続的な刺激が、一晩中、そして毎日のように繰り返され、心臓の電気的および構造的なリモデリング(変化)を引き起こし、心房細動の発生を促します。

上記3つの要素のうち、心房細動に最も強く関連するのは「低酸素」と考えられています。SASの重症度評価は呼吸停止の頻度で表現されます(例 AHI40;1時間に40回呼吸が停止 →重症)。停止頻度が多いほど心房細動になりやすいのは事実ですが、停止頻度が多くても低酸素になっていない場合は、相対的にリスクは低いと解釈できます。

対策と予防

SASに対する適切な治療は心房細動のリスクを低減させるために非常に重要です。CPAP療法などの治療を受けることで、心房細動の発作が減少し、再発率も低くなることが報告されています。

また、ウェアラブルデバイスを使用して就寝中の血中酸素飽和度(あるいはそれに準ずるパラメーター(血中酸素ウェルネスなど))をモニタリングすることも心房細動発症リスクのスクリーニングになる可能性があります。(エビデンスはまだないと思います)

アップルウォッチなどのスマートウォッチやその他ウェアラブルデバイスで夜間の血中酸素飽和度(血中酸素ウェルネスなど)が90%を下回る時間が頻繁に生じている場合は、SASが存在する可能性が十分考えられ、循環器内科や内科での診察を受けることをおすすめします。

結論

心房細動を患っている方で、SASの検査をまだ受けたことがない方は、一度SASの簡易検査でチェックすることが重要です。主治医に確認してみましょう。
夜間の血中酸素飽和度の低下が、SASが心房細動を引き起こすリスクを高める要因です。スマートウォッチなどでチェックすることも早期発見に有用かもしれません。

参考文献

・2023年改訂版 循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に 関するガイドライン(日本循環器学会)

タイトルとURLをコピーしました