自分は基本的には循環器内科が専門の内科医です。なぜ、ED(Erectile Dysfunction; 勃起不全)についてしばしば話題にするのでしょう。循環器内科、心臓、内科とは領域が違うのではないか?と思うかたもいらっしゃると思います。イメージとは反対に非常に密接な関係が「循環器内科とED(勃起不全)」にはあるのです。
EDの危険因子
それでは、どのような要素がEDを助長するのか挙げてみましょう。
・加齢
・糖尿病
・肥満
・運動不足
・心血管疾患
・高血圧
・睡眠時無呼吸症候群
・喫煙
・テストステロン(男性ホルモン)低下
・慢性腎臓病
・下部尿路症状
・うつ病
・薬物(降圧剤など)
・神経疾患
・手術外傷
最後の2つを除き、あとは循環器内科医として日常的に対面している患者さんとほぼ全て合致するのです。ほぼ全てです!
高齢者は心臓病や血管病(心血管疾患)になりやすいです。運動不足や喫煙、肥満は糖尿病や高血圧といった生活習慣病になりやすく、そして心血管疾患に至りやすいです。睡眠時無呼吸症候群も心血管疾患と強い関連があります。うつ病も心血管疾患との関連がありますし、テストステロン低下も心血管疾患罹患の年齢層と概ね合致しています。降圧剤でEDが助長されることもしばしばあります。
EDは生活環境病
運動不足、暴飲暴食、喫煙、睡眠不足といった生活習慣は高血圧や糖尿病、高コレステロール血症、肥満といった生活習慣病を引き起こし動脈硬化を進行させます。血管の壁に脂質やコレステロールが沈着し血管内皮が痛んだり、内腔が狭くなったり、完全に詰まったりします。
心臓の血管(冠動脈)でそれが起これば心筋梗塞になります。脳の血管で起これば脳梗塞になります。
ぺニスはとても血管に富んだ器官です。勃起とはペニスの血管が拡張し充血する、血液が流入することですからイメージがつくと思います。上記に上げた生活習慣はペニスの血管にも動脈硬化を引き起こします。
ペニスの血管で動脈硬化が起こるとどうなるでしょうか?
そう、 ED(勃起不全) になる確率が上がるのです。
ED(勃起不全)は生活習慣病と言っても良いのです。
ちなみに、この「生活習慣病」は個人の「習慣」というよりは社会を含めた「環境」に規定されますので「生活環境病」の方が相応しいと思っています。
生活環境病の人にはED(勃起不全)傾向の人が多い
糖尿病の人の35-90%にED(勃起不全)が生じるとされています( J Sex Med. 2009;6(5):1232–1247.)。高血圧の人も、そうでない人よりもED(勃起不全)が生じる率や重症のED(勃起不全)になる率が高いことが多くの研究で示されています(J Urol. 1994;151(1):54–61)。
虚血性心疾患の患者のED罹患率は42-75%と報告されています。(例えば、Eur Heart J. 2006;27(22):2632–2639)
ED(勃起不全)の傾向があっても、ただ単に「もう歳だから」という理由で諦めてしまっている患者さんも多いと思うのです。ED(勃起不全)は単なる「歳」ではなく、上記のような基礎疾患や生活習慣により陥った「病気」であり、適切な治療により治癒や軽快、軽減が期待できる可能性があるのです。
EDが生活環境病の初発症状の可能性も
また、逆に特に基礎疾患がないED(勃起不全)の方も注意が必要です。
男性糖尿病患者の20%ほどが、 ED が糖尿病の初発症状です( J Sex Med. 2018;15(4):430–457. )
EDを主訴に受診した患者の18%が、新規に高血圧と診断されました(Urology. 2001;58(3):441–445)
虚血性心疾患発症の3年前にED(勃起不全)を自覚することが多いとのデータもあります(例えば、Eur Heart J. 2006;27(22):2632–2639)。
特に基礎疾患がないEDの方は、糖尿病や高血圧、心臓病といった生活習慣病/生活環境病のチェックをすることが望まれます。
ED(勃起不全)やその兆候があればお気軽にご相談を。
循環器内科とED(勃起不全)の深い関係をご理解頂けたかと思います。ペニスにも血液が「循環」しているのです。心血管系疾患や、高血圧、糖尿病の方でED傾向の方はお気軽にご相談ください。また、そのような持病がなくED傾向の方はED治療とともに、潜在する生活環境病のチェックが望ましいためお気軽にご相談ください。
図の出典: Curr Treat Options Cardiovasc Med. 2012;14(2):193–202.