筋肉は「内分泌臓器」
筋肉は単なる運動器ではなく、マイオカインと言われる様々な物質を放出し、我々の健康を支える「内分泌臓器」としての役割も明らかになってきています。
マイオカインは、例えば抗炎症作用を発揮したり、免疫の強化に働いたり、脂肪生成を抑制したり、様々な役割を有しています。
筋肉の強化は、我々の健康維持には必要なものです。
それでは「筋トレ」はどのくらい行うのが良いのでしょうか?
健康目的の筋トレの頻度・時間と、その効果
その問題に関する論文(日本発!)がありますのでご紹介します。
系統的レビュー、メタ解析でありエビデンスとしては高い論文と考えられます。
Muscle-strengthening activities are associated with lower risk and mortality in major non-communicable diseases: a systematic review and meta-analysis of cohort studies.
Br J Sports Med. 2022 Feb 28:bjsports-2021-105061.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35228201/
【背景】
有酸素運動と比較して、筋トレは、早期死亡や非伝染性疾患(NCD;感染症以外の病気のこと)の予防に与える影響について、あまり研究されていない。
ガイドライン作成や公衆衛生的観点のために筋トレの効果や推奨されるトレーニング量を評価することが必要である。
【目的】
成人における筋トレとNCDおよび死亡のリスクとの関連を定量的に明らかにする。
【対象者および方法】
前向きコホート研究の系統的レビューおよびメタ解析。
各種電子データベースから2021年6月まで検索。重度の健康問題のない18歳以上の成人において、筋力強化活動と健康アウトカムとの関連を検討した前向きコホート研究に該当するすべての論文の参考文献リストをレビューし、最終的に条件に合致する16件の研究を対象とした。
【結果】
・筋トレは、全死亡、心血管疾患(CVD)、全がん、糖尿病、肺がんのリスクを10~17%低下させることと関連していた。
・筋トレといくつかの部位特異的がん(結腸がん、腎臓がん、膀胱がん、膵臓がん)のリスクとの関連は認められなかった。
・全死亡、CVD、全がんについては、約30~60分/週の筋トレで最大のリスク低減(約10~20%)を示すJ字型の関連が認められた。
・糖尿病については、最大60分/週の筋力強化活動で大きなリスク低減を示すL字型の関連が観察された。
・筋トレと有酸素運動の併用は、併用しない場合と比較し、全死亡、CVD、がん総死亡のリスク低下と関連していた。
【結論】
筋トレは、全死亡、CVD、総がん、糖尿病、肺がんを含む主要な非感染性疾患のリスクと逆相関していた。
しかし、観察されたJ字型の関連性を考慮すると、筋トレをより多く行うことによる全死亡、CVD、全がんへの健康効果は不明である。
出典:東北大学プレスリリース
健康目的なら筋トレは週1-2回(30-60分/週)が目安
重要なことは、筋トレが死亡、心血管疾患、がん、糖尿病といった様々な病気のリスクを低下させる可能性があるということです。糖尿病を除けば週約30~60分/週が最も健康効果が高いように見えます。意外と少ないですね〜。
健康目的であれば、ざっくり言えば週1-2回筋トレを行う感じが良さそうです。有酸素運動を合わせて行うとより効果的です。
現行の各種ガイドラインも、有酸素運動を週に>150分、筋トレを週2回といった感じの推奨が主流ですのでそれにも合致しそうです。
気になるのは、筋トレを多くやりすぎると各疾患(糖尿病を除く)のリスクが上がっていくように見えることです。例えば、週140分を超えると死亡リスクが上がっていきます。
症例数が多くないので明確なことは言えないと著者は言っています。また原因もよく分かっていません。
健康云々より、筋肉を立派にしたい、マッチョになりたい、筋肉は裏切らない、筋肉サイコー と思って筋トレに打ち込んでいる方々も少なくありません。それはそれで個人の自由と思います。ただ、今回のご紹介したような研究が存在することを頭の片隅に入れておくと良いと思います。
様々な運動への取り組み
自分の中では、運動は以下に大別しています。
・有酸素運動;ジョギング、ウォーキングなど
・レジスタンス運動;筋トレなど
・アライメント調整;姿勢、ストレッチ、ラジオ体操、ヨガ、ピラティスなど
・mind-body exercise(心身運動);ヨガ、ピラティス、太極拳、気功など
健康目的であれば、1つの運動に注力するのではなく様々な運動に取り組むのが良いと思います。
ヨガ、ピラティスは、アライメントが整いますし、瞑想的要素も強くmind-body exerciseとしてカテゴライズされることも多いですし、もちろんやり方により有酸素運動やレジスタンス運動的な要素も含まれてきます。多面的な要素を含むエクササイズです。
有酸素運動、筋トレにヨガやピラティスを交えるのも良いと思います。
まとめ
・筋トレは、全死亡、心血管疾患、がん、糖尿病のリスクを低下させます。
・健康目的であれば、筋トレは30~60分/週が最も効果的です。
・有酸素運動を合わせて行うとより効果的です。
・筋トレが130~140分/週を超えると疾患リスク、死亡リスクが上がる可能性があります。
【参考文献、リンク】
・Momma H, Kawakami R, Honda T, Sawada SS. Muscle-strengthening activities are associated with lower risk and mortality in major non-communicable diseases: a systematic review and meta-analysis of cohort studies. Br J Sports Med. 2022 Feb 28:bjsports-2021-105061. doi: 10.1136/bjsports-2021-105061. Epub ahead of print. PMID: 35228201.
・東北大学 プレスリリース
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2022/03/press20220301-02-muscle.html