ネガティブ体験、ポジティブ体験を自律神経調整に活用する

ポジティブ心理学

日々の生活の中には楽しいこと、嬉しいこと、辛いこと、悲しいこと、いろいろな出来事があります。中には人生で経験したことのないような嬉しいこと、良かったこと、逆に人生最悪の出来事なんかもあったりします。

過去あるいは現在進行形のそのような様々な出来事が、良くも悪くも、今現在の自分そして未来の自分の心身の健康、ウェルビーイングに大きな影響を及ぼしてしまいます。

ネガティブな経験、ポジティブな経験を今現在のウェルビーイングにどのようにうまく活かすかということが重要なポイントの1つになります。

自律神経が不安定な人も、主観的幸福感を向上させることでそのバランスを整える方向に働くことが期待できます。

Lyubomirskyの研究( J Pers Soc Psychol. 2006 Apr;90(4):692-708.)を元に、そのヒントとなる話に触れたいと思います。

ネガティブな経験を「書く」「話す」

過去のトラウマなどネガティブな体験について「書く」ことは、苦痛、ネガティブ感情、抑うつが長期にわたって軽減するなど、幸福と心身の健康に有益に働きます。

ネガティブな体験について友人と話しあったり、レコーダーに向かって(友人に話すように)話しただけの人も、同様の効果があります。

現代的には、SNSをうまく活用するのも良いのだと思います。

146件の研究のメタ分析(Psychol Bull. 2006 Nov;132(6):823-65. )においても、ネガティブな人生の出来事について「書く」ことと「話す」ことの両方に、ポジティブで有意な効果があることが示されています。

「書く」ことや「話す」ことは、自分の問題を整理、統合、分析するなどの要素を含む傾向があります。そのネガティブ経験の構造や意味を理解すると、解決感やコントロール感を得て、その経験に関する感情をうまく管理できるようになります。受容を促したり、解決策を生み出したりします。

このようなプロセスで、ネガティブ経験を「書く」「話す」ことが有益に働くわけです。

ネガティブな経験を「考える」ことは避ける

ここで言う「考える」とは、熟考するとか内省するとかと言うよりは、表面的に思い出すようなイメージです。

ネガティブな体験を「書く」ことや「話す」こととは対照的に、「考える」ことは有益な結果をもたらしません。

そのような体験の意味や理解を探求することは、必要かつ有益であると考えられますが、「考える」ことはしばしば反復的で否定的かつ侵入的な思考、すなわち「反芻」に陥る可能性があります。 良くないことが、頭の中でぐるぐる回ってしまうことってありますよね。

思考は本来、無秩序で混沌としたものであり、言葉だけでなく、イメージや強い感情、記憶なども含まれます。 トラウマ的なネガティブな記憶は無秩序で統合されていないため整理、統合されるまで、頭の中で循環し続けることがあります(American Imago. 1991;48(4): 425–454. )。また、反復的なこだわりに陥ってしまう傾向があります。

結果、そのような反芻は、憂鬱な気分を長引かせ、悲観的な思考や記憶を強め、問題解決や意欲、集中力を妨げます。

ネガティブな経験について「考える」ことは、しばしば自己増殖的に繰り返され、よりネガティブな状況に陥る可能性が高くなります。

ポジティブな経験を「書く」「話す」ことは避ける

ポジティブな感情を経験し維持することは、身体的、認知的、社会的なメリットがあります。幸福感を高め、健康を増進し、人生の失望や失敗に対処する上で非常に重要です。喜びや満足といったポジティブな感情には、ネガティブな感情を元に戻す効果があることもわかっています。

そのようなポジティブな感情を生み出すポジティブな体験を書いたり話したりすることは有害である可能性があります。なんと。。。

その出来事に伴う喜びを軽減したり、さらには罪悪感や心配などのネガティブな感情を呼び起こしたりする可能性があるのです。

書いたり話したりすることは、意識的・無意識的にかかわらず、体系的な分析や構成要素への分解につながりやすくなります。

ポジティブな出来事を分析してその意味を理解しようとすることは、その出来事を「秩序化」することになります。つまり、体系的な分析による「意味づけ」は、ポジティブな経験にまつわる不確実性や謎を取り除いてしまい、驚き、スリリングで非日常的なものから、平凡で普通のもの、そしてインパクトを伴わないものへと変化させてしまいます。

ポジティブな体験を人に伝えたり、パーティーをしたりすることでポジティブ感情が向上すると言う報告や研究ももちろんあります。あまり分析的にならなければ良いのだと思います

ポジティブな経験を「考える」

分析や意味づけとは対照的に、ポジティブな体験について繰り返し考える(反芻する)ことは、有益に働くことが期待できます。楽しかったことをぼーっと思い出して、ニヤニヤした経験がある人も多いと思います。

ある経験を頭の中で繰り返し再生すると、その経験に伴う感情が維持される傾向があります。このプロセスは、経験がネガティブなものであれば望ましくありませんが、ポジティブなものであれば価値があります。幸せな瞬間や素晴らしい経験について、分析せずに受動的に繰り返し考えることは、ポジティブ感情を維持するのに役立ちます。

ポジティブな経験を考えるとき、分析的な視点を持ってしまうと、幸福感や健康に逆効果である可能性があり、一方で、反復的、循環的、本質的に整理されていない思考の方がポジティブな感情の維持に関しては有益です。

まとめ

一般的に、系統的な分析は、文章を書いたり話したりするときに起こりやすいと思われます。

この系統的な分析は、不幸な出来事、ストレスの多い出来事、トラウマになるような出来事といったネガティブな体験を対象とするときには、それらを緩和することが期待でき 、有益と考えられます。

しかし、一方でポジティブな体験を系統的に分析してしまうと、その体験、ポジティブ感情を軽減してしまう可能性、有害になる可能性があります。


繰り返しの再生は、私的な思考時に起こりやすいと思われます。

この繰り返し再生は、ポジティブな体験を対象とするときには、ポジティブな感情の向上・維持につながり有益と考えられます。

ネガティブな体験を対象としてしまうと、ネガティブ感情が悪化・持続してしまう可能性があり、有害になる可能性があります。


これらをうまく活用すれば、心穏やかになり、つまり自律神経を整えるツールの1つにもなると思います。

結論。

ネガティブな経験は、書く・話す(分析する)。
ポジティブな経験は、回想する(分析しない)。

【参考文献】

Lyubomirsky S, Sousa L, Dickerhoof R. The costs and benefits of writing, talking, and thinking about life’s triumphs and defeats. J Pers Soc Psychol. 2006 Apr;90(4):692-708. doi: 10.1037/0022-3514.90.4.692. PMID: 16649864.

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