「飲酒で睡眠が浅くなる」は本当?

睡眠

睡眠とアルコールの関連に関する論文がつい最近発表されていましたので、ご紹介します。
The effect of alcohol on subsequent sleep in healthy adults: A systematic review and meta-analysis, Sleep Medicine Reviews

この論文は、健康な成人におけるアルコール摂取が睡眠に与える影響を、系統的レビューとメタアナリシスを通じて評価したものです。27件の研究を分析し、アルコールの摂取量やタイミングが睡眠の特性(REM睡眠、睡眠潜時、深い睡眠への移行時間など)に与える影響を調べました。結果として、低用量のアルコールでもREM睡眠が減少し、用量が増加するほど影響が大きくなることが明らかになりました。一方で、総睡眠時間や睡眠効率などには一貫した影響が見られませんでした。


この論文のポイント 10

  1. REM睡眠への影響
    • アルコールの摂取量に依存して、REM睡眠の遅延と時間の減少が見られた。
    • 約0.5 g/kgのアルコール摂取(約2標準ドリンク)でREM睡眠時間が顕著に減少。
  2. 睡眠潜時の短縮
    • 高用量(≥0.85 g/kg)のアルコール摂取で睡眠潜時が短縮される一方、低用量では影響が少ない。
  3. 深い睡眠(N3)の潜時短縮
    • 約0.95 g/kgのアルコール摂取で深い睡眠への移行が早まる傾向が見られた。
  4. 総睡眠時間と睡眠効率
    • 総睡眠時間や睡眠効率には一貫した影響は確認されなかった。
  5. アルコール摂取のタイミング
    • 睡眠開始3時間以内の摂取が多く、摂取タイミングの影響は限定的。
  6. 性別の影響
    • 性別による睡眠への影響の違いは確認されなかったが、今後の研究が推奨される。
  7. 睡眠構造の変化
    • 深い睡眠(N3)の割合が増加し、REM睡眠の割合が減少する傾向が見られた。
  8. アルコールの用量反応関係
    • アルコール摂取量が増加するほど、REM睡眠への影響が大きくなる。
  9. 主観的睡眠評価
    • 主観的な睡眠質や睡眠時間に対する影響は研究間で一致せず、主観的利益と客観的評価が異なる可能性。
  10. 実用的示唆
  • アルコールを睡眠補助剤として使用することは、潜時短縮など一部の利点がある一方で、REM睡眠の損失などのデメリットが大きいと結論付けられる。

「アルコール摂取すると睡眠が浅くなる」は本当か?

飲酒すると睡眠が浅くなるとよく言われます。その俗説?をこの論文から読み解いてみましょう。

「アルコールを飲むと睡眠が浅くなる」という俗説は、部分的にこの論文の結果と一致していますが、正確には一面的な理解に過ぎないことが明らかになっています。以下、この論文の結果を踏まえながら解説します。


1. アルコールが睡眠構造に与える影響

  • アルコール摂取は**深い睡眠(N3)**を初期段階で増加させる傾向があります。これにより「眠りが深くなった」と感じることがあり、短期的には睡眠の質が良くなったように感じることがあります。
  • 一方で、REM睡眠の遅延と時間の減少が起こり、これが睡眠全体の「浅さ」や「質の低下」に繋がると考えられます。REM睡眠は記憶の整理や感情の調整に重要であり、これが不足すると翌日の疲労感や集中力低下を招く可能性があります。

2. アルコールと睡眠の前半・後半の違い

  • アルコールは摂取直後に鎮静効果を発揮し、睡眠潜時を短縮させることで寝つきを良くします。しかし、これは中枢神経抑制作用によるもので、本来の自然な睡眠ではありません。
  • アルコールが代謝されるにつれて、鎮静効果が薄れ、後半の睡眠が乱れることが報告されています。この後半では覚醒が増えたり、深い睡眠が減少したりするため、結果として「睡眠が浅かった」と感じることがあります。

3. 浅い睡眠(N1/N2)と深い睡眠(N3)の変化

  • アルコール摂取によって、浅い睡眠(N1、N2)の割合には大きな影響がない場合が多いですが、REM睡眠が抑制されるため、全体的なバランスが崩れます。
  • さらに、アルコールが体内で分解される過程で生じる代謝産物(アセトアルデヒドなど)が覚醒を促進し、睡眠を断続的にする可能性があります。

4. 俗説との関連と修正点

  • 「アルコールを飲むと睡眠が浅くなる」という表現は、REM睡眠の減少と後半の覚醒増加を反映していると言えます。
  • ただし、睡眠の前半では深い睡眠(N3)が一時的に増加するため、初期段階ではむしろ眠りが「深く」なるように感じられることもあります。この点は俗説ではあまり言及されていません。
  • アルコール摂取が睡眠に与える影響は用量依存的であり、低用量でもREM睡眠が減少する一方、高用量では覚醒がさらに増えるなど、複雑なメカニズムが作用しています。

5. 実生活へのアドバイス

  • アルコールを摂取すると一時的に寝つきが良くなることがありますが、睡眠の質全体を損なう可能性が高いです。特にREM睡眠が重要な役割を果たす記憶の定着や感情の調整が妨げられるため、長期的には心身の健康に悪影響を及ぼす可能性があります。
  • 睡眠の質を重視する場合、寝酒を避け、自然な睡眠を促す習慣(定期的な睡眠時間、カフェインの制限など)を取り入れることが推奨されます。

まとめ

俗説の「アルコールで睡眠が浅くなる」という理解は、REM睡眠の減少や後半の覚醒増加を反映しており、部分的に正しいと言えます。ただし、深い睡眠が増加する初期段階もあるため、この影響を含めてアルコールの作用を正確に理解する必要があります。

参考文献

Gardiner C, Weakley J, Burke LM, Roach GD, Sargent C, Maniar N, Huynh M, Miller DJ, Townshend A, Halson SL, The effect of alcohol on subsequent sleep in healthy adults: A systematic review and meta-analysis, Sleep Medicine Reviews, https://doi.org/10.1016/ j.smrv.2024.102030.

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