左脚ブロック(LBBB):病態生理、臨床的意義

心拍/不整脈

はじめに

健康診断などで心電図にて左脚ブロック(Left Bundle Branch Block; LBBB)や右脚ブロックを指摘されることがあります。右脚ブロックより、左脚ブロックは注意が必要です。
左脚ブロックは、心電図上で特徴的なQRS波形の延長を示す伝導異常です。この異常は、心臓の刺激伝導系の劣化や心筋の病理的変化を反映しており、心不全や冠動脈疾患といった心血管疾患に密接に関連しています。本稿では、種々の研究に基づいてLBBBの病態生理、臨床的意義、診断基準、治療法、さらには明日から実践可能な行動提案について解説します。


LBBBの病態生理:電気的および機械的同期不全

LBBBは右心室(RV)が先行して活性化し、その後に左心室(LV)が遅れて活性化する現象を引き起こします。この電気的遅延は機械的な同期不全をもたらし、心室収縮効率の低下や左室リモデリングを誘発します。具体的には、


  • 電気的遅延:LBBBでは、右心室から左心室への電気伝導時間(平均30–40ms)が延長します。一部の患者では、この遅延が20ms未満である場合もあり、「完全な」LBBBではない可能性があります。
  • 機械的同期不全:心エコーで特徴的な”septal beaking”や”apical rocking”が観察され、心室の収縮効率が約20%–40%低下します。
  • 分子生物学的側面:LBBBでは、心筋細胞間のギャップジャンクションタンパク質(connexin 43)の配列が変化し、細胞間の電気伝導効率が低下します。

また、右心室にペースメーカーのリードを挿入するRV ペーシングは、RV のペーシング刺激が LV 自由壁の活性化の遅れと、その結果生じる電気機械的同期不全を引き起こすという点で、LBBB と生理学的に類似しています。LBBBに類似した悪影響が懸念されます。


臨床的意義と予後

若年患者の LBBB の予後は比較的良好である可能性がありますが、高齢者においては、心血管疾患または死亡の重要なマーカーとなる可能性があります。

LBBBと心血管疾患、死亡リスク

LBBBは、左室駆出率(LVEF)の低下と関連し、心不全(HF)の予後を悪化させる要因となります。例えば、Framingham研究では、LBBB患者の10年以内の心血管死リスクが約50%増加することが報告されています。
最近の研究では、LBBB が、特に 50 歳以上の人において、心臓突然死 (発生率 10 倍増加) や 心不全 (3.08 倍増加リスク) および心筋梗塞 (2.90 倍増加リスク) による死亡率などの有害事象の独立した予測因子であることが示されています。28 年間にわたる中年男性を対象としたスウェーデンの前向き研究では、ベースラインでの LBBB は、脚ブロックのない男性と比較して、高度房室ブロックのリスクが有意に増加することと関連していました (調整リスク比、12.9)。
また、LBBBを伴うHF患者は、心臓再同期療法(CRT)に対する反応性が高いことが示されています。

動物(犬)実験では、LBBB の誘発により左室駆出率 (LVEF) の低下、左室容積および壁質量の増加、ならびに中隔灌流の減少がみられたことから、LBBB による電気機械的同期不全が心臓リモデリングにおいて重要な役割を果たしている可能性が示唆されました。

LBBBと冠動脈疾患

LBBB と冠動脈疾患 (CAD) の双方を有する患者の解析では、CAD はあるが LBBB はない患者と比較して、有害転帰のリスクが高いことが示されています (心血管疾患による死亡リスクが 2.9 倍、全死亡リスクが 1.4 倍)。

また、LBBB患者では冠動脈疾患(CAD)の診断が困難になることがあります。心電図の虚血性変化を捉えることが難しいのはよく知られていますが、それのみならず核医学的検査で見られる心室中隔の相対的な低灌流や、心エコーでの壁運動異常も、偽陽性の結果をもたらす可能性があります。こうした課題を克服するために、心筋コントラスト造影や心筋灌流MRIが有用です。

遺伝的要因

LBBBは一般的に遺伝性疾患とはみなされませんが、一部の研究ではHCN4(ハイパーポーラライゼーション活性化サイクリックヌクレオチドゲート4)やConnexin 43などの遺伝子変異が関連するとされています。これらの変異は、進行性の心伝導障害や突然死のリスクを増加させます。

その他のLBBB

  • TAVR後の新規LBBB 経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)後、最大65%の患者で新規LBBBが発生し、その13%が高度房室ブロックに進行します。入院中の心電図モニタリングが推奨されます。
  • 疼痛性LBBB症候群 このまれな症候群では、LBBB発生時に胸痛が出現します。治療としてベータブロッカーやCRTが有効とされています。

診断と治療法

診断基準

2009年および2018年のAHA/ACCF/HRSガイドラインでは、LBBBの診断基準が更新されました。Strauss基準によれば、男性でQRS波幅が≥140ms、女性で≥130ms以上の患者が”真の”LBBBとされ、心臓再同期療法の成功率が高いことが示唆されています。

治療法

  • 心臓再同期療法(CRT) QRS波幅が≥150msのLBBB患者に対するCRTは、死亡率を30%–40%低下させるとされています。また、New-Onset LBBB-Associated Cardiomyopathy(NEOLITH)研究では、CRTを早期(9カ月以内)に実施した患者は、左室駆出率がより大きく改善しました。
  • His束ペーシング(HBP) His束ペーシングは、従来のCRTに比べて優れた電気的再同期を提供します。成功率は84.6%とされ、新しいシースやデリバリーツールの導入により普及が進んでいます。
  • 左脚エリアペーシング(LBBAP) LBBBがHis束ペーシングで修正できない場合、左脚エリアペーシングが選択肢となります。この方法は安定したリード位置と適切なペーシング閾値を提供します。

明日からLBBB対策

  1. 早期診断の徹底 症状がなくても、LBBBの発見時には心エコーやストレステストを実施し、潜在的な構造的心疾患を評価してください。
  2. CRT適応の早期検討 左室駆出率が低下しているLBBB患者では、早期のCRT導入を検討することで予後改善が期待できます。
  3. 遺伝カウンセリング 家族歴がある場合、遺伝子検査を検討し、早期の介入を計画してください。
  4. 定期的なモニタリング TAVRを受けた患者や、QRS幅が増大している患者は、心電図モニタリングを定期的に行い、高度房室ブロックの進行を防ぐための対策を講じてください。

結論

LBBBは単なる心電図所見ではなく、重要な臨床的意義を持つ心伝導異常です。その診断と管理には、最新のエビデンスに基づいたアプローチが求められます。CRTやHis束ペーシングなどの新たな治療法の進展により、患者の予後改善が可能となる一方で、早期診断と適切な介入が重要です。医療従事者は、LBBBの持つリスクを認識し、患者ごとに最適な管理計画を立案する必要があります。


参考文献

Tan, N. Y., Witt, C. M., Oh, J. K., & Cha, Y. M. (2020). Left Bundle Branch Block: Current and Future Perspectives. Circulation: Arrhythmia and Electrophysiology, 13(4), e008239. DOI: 10.1161/CIRCEP.119.008239.

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