植え込み型除細動器(ICD)とその進歩

心拍/不整脈

イタリアプロサッカーリーグ、セリエAのフィオレンティーナ所属のボーヴェ選手(22)が試合中に心停止となりました。幸い救命されましたが、今後は除去可能なICD(植え込み型除細動器)の手術を受ける見込みと報道されています。
突然の心停止は、誰にとっても最も致命的なリスクの一つです。今回のサッカー選手の場合も、特に若年層の選手であっても、突然の心停止(SCA)は予期せぬ形で発生します。ICD(植え込み型除細動器)は、こうした危険に対処するために開発された最先端の医療デバイスです。ここでは、ICDの基礎知識とその進歩について解説します。「除去可能」に関しても言及します。


1. ICDの基礎知識:心臓を守る仕組み

ICDは、心室性不整脈(心室細動や心室頻拍)を感知し、電気ショックを与えることで正常な心拍リズムを回復させる医療機器です。以下の機能を備えています:

  • モニタリング:心拍リズムを常に監視。
  • 治療:不整脈が発生した際に、速やかに電気ショックや抗頻拍ペーシング、徐脈へのペーシングを行う。
  • メモリ機能:不整脈エピソードを記録し、治療効果を医師が確認可能。

特に、致死性の不整脈が生じた際、迅速に治療を行うことで生存率を劇的に向上させます。例えば、心室細動において即時治療を行わなかった場合の死亡率は1分あたり10%増加するとされていますが、ICDの使用によりこれをほぼゼロに抑えることが可能です。


2. ICDの適応:どのような人に必要か

ICDの適応は、患者のリスクプロファイルに基づき慎重に決定されます。以下は主要な適応例です:

  • 一次予防
    • 特定の心疾患を有する患者で、心停止のリスクが高い場合。
    • 例:肥大型心筋症(HCM)や特発性心室細動。
  • 二次予防
    • 心停止を経験した患者(今回のボーヴェ選手のようなケース)。
    • 致死性心室性不整脈を起こしたことがある患者。

心停止の既往があるボーヴェ選手は、特に二次予防の適応に該当します。スポーツ選手においては激しい運動による交感神経亢進が不整脈の引き金となり得るため、ICDの保護効果は重要です。


3. ICDの種類と進歩

ICDは時代とともに進化を遂げ、現在では以下のような種類が存在します。

(1) 経静脈型ICD(Transvenous ICD, TV-ICD)

  • 構造: リード(電極)が静脈を通じて心臓内に配置される。
  • 利点: ペーシング機能や除細動を同時に提供可能。
  • 課題: リードが血管壁に癒着するリスクがあり、長期使用後の除去は困難になる場合がある。

(2) 皮下型ICD(Subcutaneous ICD, S-ICD)

  • 構造: リードが皮下に配置されるため、血管や心内膜への侵襲がない。
  • 利点: リード関連感染や静脈閉塞のリスクを回避できる。
  • 課題: ジェネレーター(本体)がやや大きい。また、ペーシング機能がないため、心停止のみを対象とする。
    ただし、最近、リードレスペースメーカーとの併用でペーシング機能、抗頻拍ペーシングが可能になりつつある。

(3) リードレスICD(研究段階)

  • 構造: リードがなく、デバイス本体が右心室内に直接配置される。
  • 利点: リード関連の合併症を完全に排除。
  • 課題: 技術が発展途上であり、今のところ研究段階。

4. 抜去可能なICDとは 

ICDの抜去は、感染症やリード機能不全時に重要となります。ジェネレーター(本体)の除去は難しくないですが、本体から心臓につながるリードの除去が問題となります。留置期間が長くなるほど、血管や心筋との癒着のため抜去が難しくなります。これに対応する技術として以下が挙げられます:

  • 専用シースの使用: レーザーや機械的シースで癒着を解除。
  • S-ICD: 血管癒着が発生しないため、抜去が比較的容易。

ボーヴェ選手の「除去可能なICD(植え込み型除細動器)の手術」とは、S-ICDの手術のことかもしれません。


5. 今後の方向性

未来のICDは、さらに安全性と利便性を向上させる方向で進化するでしょう。

  • エネルギー効率: より小型で長寿命のバッテリー。
  • 完全非侵襲型デバイス: 血管や心内膜への影響を完全に排除する技術。特にリードレスICDの実現を待ち望んでいます。
  • 統合システム: ICDが他のヘルスケアデバイスと連携し、包括的な患者管理を提供。

まとめ

ICDは、致死性不整脈から命を守るための重要な医療デバイスです。特に今回のような20代という若いボーヴェ選手では、ICDが再発予防の生命線となります。現在のICDは、患者のニーズに応じた多様な選択肢を提供しており、進化を続けています。将来的には、さらなる技術の進歩により、より快適で安全な治療が可能となるでしょう。

タイトルとURLをコピーしました