- 5.1. Calibration challenges;キャリブレーションの課題
- 5.2. Limits of cuffless blood pressure concepts;限界
- 5.3. Over-reliance on heart rate for BP estimation;心拍数に頼りすぎた血圧推定
- 5.4. Machine learning and data collection;機械学習とデータ収集
- 5.5. Accuracy of control data;コントロールデータの精度
- 5.6. Validation process;検証プロセス
- 5.7. Design and deployment issues;設計と導入
- 5.8. Gaining trust;信頼の獲得
1. Introduction
血圧測定は、心血管疾患のリスク評価および管理において重要な役割を果たします。しかし、従来のカフを用いた血圧測定方法は、患者の快適性を損ない、日常的な使用には不向きであるという課題を抱えています。このような制約を解消するために登場したのが、非侵襲的かつ継続的な測定を可能にする”カフなし血圧測定”技術です。ここでは、この技術の基礎、関連する課題、そして未来の可能性について、2024年に発表されたカフレス血圧測定のレビュー論文” Cuffless Blood Pressure in clinical practice: challenges, opportunities and current limits.”のアウトラインをご説明します。カフレス血圧計の大きな流れをざっくり掴むことができるかと思います。
1.1. Selection process
本レビューでは、Google ScholarおよびPubMedを用いて最新の文献を収集しました。検索キーワードとして”cuffless blood pressure”や”non-invasive blood pressure monitoring”を使用し、関連性の高い研究を選定しました。その中から信頼性と科学的意義のある論文を精査して、本論文の基盤としました。
2. Cuffless blood pressure measurement カフレス血圧測定
2.1. Concepts 概念
カフなし血圧測定は、非侵襲的手法を利用して血圧を推定する技術です。これにより、カフを必要とせず、患者の日常生活に適応した継続的な測定が可能になります。この技術の中心は、血圧に関連する生理学的信号を収集する多様なセンサー技術にあります。
2.2. Different sensing technologies 様々なセンシング技術
2.2.1. Photoplethysmography (PPG);光電式容積脈波記録法
- 原理: 光を皮膚に照射し、血液の動きによる光の反射・透過の変化を記録します。波長の異なる光の吸収特性を利用し、脈波を取得します。
- 応用: スマートフォンやスマートウォッチに組み込まれ、指先をカメラに置くだけで測定可能。
- 課題: 動作中のノイズや皮膚の色の違いが信号に影響を与えることがあります。
2.2.2. Electrocardiography (ECG);心電図
- 原理: 心電図は心臓の電気活動を測定し、心周期に基づいて血圧の推定に役立ちます。
- 応用: ECGセンサーはPPGと組み合わせて使用されることが多く、精度向上に貢献します。
- 課題: 血圧推定の単独使用では限界があり、複数のセンサーとの組み合わせが必要です。
2.2.3. Ballistocardiography (BCG);心弾動図記録法
- 原理: 心拍によって生じる身体の微小な動きを検出します。
- 応用: ベッドや椅子に内蔵されたセンサーで使用可能。
- 課題: 動作ノイズや姿勢の影響が大きい。
2.2.4. Electrical bioimpedance (EBI);電気的生体インピーダンス
- 原理: 電気インピーダンス法では、血液量の変化による電気抵抗の変動を検出します。
- 応用: 呼吸や心拍の動きに連動したデータを取得可能。
- 課題: 装置の装着が適切でない場合、信号の精度が低下します。
2.2.5. Seismocardiography (SCG);心理心電図
- 原理: 心臓の収縮による胸壁の振動を検出します。
- 応用: ウェアラブルデバイスや固定型センサーに適用可能。
- 課題: 振動が小さい場合や外部ノイズが強い場合に影響を受けます。
2.2.6. Pressure sensors;圧センサー
- 原理: 動脈上に圧力センサーを配置し、脈波の波形を記録します。
- 応用: 柔軟性のあるセンサーにより、ウェアラブルデバイスでの利用が進んでいます。
- 課題: 圧力の適切な調整が必要で、センサーの配置が精度に影響します。
2.2.7. Ultrasound;超音波
- 原理: 超音波を利用して動脈内の血流速度や血管断面積を測定します。
- 応用: 非接触型モニタリングが可能で、高精度のデータ取得が期待されます。
- 課題: 装置の大きさやコストが実用化への障壁となっています。
3. Signal analysis 信号解析
上記のような様々な技術で、様々な信号の捕捉が可能になりました。血圧推定に利用しうる信号解析の代表的なものを挙げます。
3.1. Pulse wave analysis (PWA)
- 原理: 動脈の脈波形状を解析し、血圧や血管の硬さを推定します。
- 応用: 血圧の変化や動脈硬化の評価に有用。
- 課題: 信号のノイズ除去と精密な解析が必要です。
3.2. Pulse arrival time (PAT)
- 原理: 心電図のR波ピークから脈波が検出されるまでの時間を測定します。
- 応用: 血管の弾性を間接的に評価可能。
- 課題: 測定の一貫性が課題です。
3.3. Pulse transit time (PTT)
- 原理: 2つの異なる位置での脈波の到達時間差を測定します。
- 応用: 血圧と逆相関する特性を利用して、血圧を推定します。
- 課題: 測定の再現性と精度を向上させる必要があります。
3.4. Pre-ejection period (PEP)
- 原理: 心電図のR波から大動脈弁が開くまでの時間を測定します。
- 応用: 血圧推定モデルの精度向上に寄与します。
- 課題: 高精度な計測装置が必要です。
3.5. Pulse wave velocity (PWV)
- 原理: 動脈の硬さを反映する脈波速度を測定します。
- 応用: 動脈硬化の診断や進行状況の評価に有用です。
- 課題: 個人差が大きく、補正が必要です。
4. What devices can be used to collect the signals needed for cuffless blood pressure measurement?;カフレス血圧測定のデバイス
4.1. Smartphones;スマートフォン
- 概要: PPGを活用したアプリケーションにより、簡易な血圧測定が可能。
- 利点: ユーザーの普及率が高く、利便性が高い。
- 課題: センサーの精度と環境要因の影響。
4.2. Smartwatches and wristbands;スマートウォッチとリストバンド
- 概要: ウェアラブルデバイスとして、継続的な測定が可能。
- 利点: 日常生活への統合が容易で、連続測定が可能。
- 課題: デバイスの設計と電池寿命の課題。
4.3. Other devices;その他
- 概要: スマートリングやベッドセンサー、さらにはトイレシートに至るまで多様な形態。
- 利点: 使用シナリオに応じた柔軟性。
- 課題: 高コストと限られた利用用途。
5. What are the challenges of cuffless blood pressure measurement? ;課題
5.1. Calibration challenges;キャリブレーションの課題
5.1.1. Motion artifacts;モーションアーチファクト
- 概要: 動作中のノイズが信号に影響を与える。
5.1.2. Environmental factors;環境因子
- 概要: 光や温度などの外的要因が測定精度を損なう。
5.1.3. Positioning issues;ポジショニングの問題
- 概要: センサーの配置が精度に大きく影響。
5.2. Limits of cuffless blood pressure concepts;限界
- 概要: 生理学的変動や個体差が影響し、従来の測定法に匹敵する精度が得られない場合がある。
5.3. Over-reliance on heart rate for BP estimation;心拍数に頼りすぎた血圧推定
- 概要: 心拍数に基づく血圧推定は限界があり、複数のパラメータを統合する必要がある。
5.4. Machine learning and data collection;機械学習とデータ収集
- 概要: 大規模なデータセットの収集と信頼性の高いアルゴリズムの開発が不可欠。
5.5. Accuracy of control data;コントロールデータの精度
- 概要: 標準的なカフを使用した測定値との比較が必要だが、これにも誤差が生じる可能性がある。
5.6. Validation process;検証プロセス
- 概要: 臨床試験や規制機関による認証プロセスが複雑で、時間を要する。
5.7. Design and deployment issues;設計と導入
- 概要: ユーザーが受け入れやすい設計と、低コストでの大量生産が課題。
5.8. Gaining trust;信頼の獲得
- 概要: 医療従事者や患者からの信頼を得るために、透明性のある検証と説明が求められる。
6. Propositions and recommendations for the future for cuffless BP to be used in the clinical practice;将来の提案、提言
6.1. Improvement of the concepts and technologies;コンセプトと技術の改善
6.1.1. Eliminating motion artifacts;モーションアーチファクトの除去
- 概要: 動作ノイズを除去するためのフィルタリング技術の開発が重要。
6.1.2. Improving the algorithms;アルゴリズムの改善
- 概要: 高精度なアルゴリズムを構築し、測定精度を向上させる。
6.2. Improvement of technologies;技術の改善
- 概要: センサー技術の向上により、非接触型や多機能型デバイスが可能となる。
6.3. Improvement of protocols;プロトコールの改善
- 概要: 統一された測定プロトコルの確立が、比較可能なデータを提供する鍵となる。
6.4. Design and function;デザインと機能
- 概要: ユーザー中心のデザインと、直感的なインターフェースが重要。
6.5. Breaking the paradigm;パラダイムの打破
- 概要: 現在の血圧測定の枠組みを超え、新しい診断基準や指標の採用が必要。
7. Conclusion. Is cuffless technology ready for mainstream adoption? ;結論
カフなし血圧測定技術は、革新的な進歩を遂げていますが、主流として採用されるにはさらなる改良が必要です。特に、技術の精度向上、規制の整備、そして臨床での実績が求められます。今後の発展次第で、血圧管理における新しい標準となる可能性を秘めています。
参考文献
Henry, B., Merz, M., Hoang, H., Abdulkarim, G., Wosik, J., & Schoettker, P. (2024). Cuffless Blood Pressure in Clinical Practice: Challenges, Opportunities and Current Limits. Blood Pressure, 33(1), 2304190. DOI: 10.1080/08037051.2024.2304190