低用量タダラフィル(5mg)1日1回服用 の服薬アドヒアランス

ED

はじめに:ED治療におけるアドヒアランスの重要性

勃起不全(erectile dysfunction:ED)は、性機能の低下だけでなく、心理社会的なQOLにも深刻な影響を及ぼす疾患です。その治療において、PDE-5阻害薬は第一選択肢の一つであり、特にタダラフィル5mgを1日1回投与するOaD(once a day)療法は、自然な性行為を可能にし、長期的な陰茎の構造変化を防ぐことも期待できます。しかしながら、この治療法の効果を最大限に発揮するには、患者が指示どおり継続して服用する「アドヒアランス(medication adherence, MA)」が極めて重要です。

本研究では、トルコ国内で初めて、ED患者に対するタダラフィル5mg OaD療法のアドヒアランス実態を把握し、それに影響する因子を包括的に解析しました。

対象と方法:多面的評価によるアドヒアランスの可視化

研究対象は、2021年8月から2024年5月にかけてEDのためタダラフィル5mg OaDを12週間以上使用した233名の男性です。評価には以下のスケールを用いて多角的に検討しました。

  • MARS(Medication Adherence Report Scale):5項目で構成され、20点以上を高アドヒアランスと定義。
  • B-IPQ(Brief Illness Perception Questionnaire):疾患に対する認知・感情的反応を8項目で評価。
  • BMQ(Beliefs about Medicines Questionnaire):薬物に対する信念(必要性、懸念、有害性など)を18項目で評価。
  • IIEF(International Index of Erectile Function):EDの重症度を0〜30点で評価。

これらのデータは多変量解析により統計的に検討されました。

結果:経済、心理、病態の三層がアドヒアランスを規定する

233名中、MARSスコア20点以上の高アドヒアランス群は136名(58.4%)でした。多変量解析により以下の因子が独立してMAに有意な影響を及ぼすことが示されました。

  • 月収30,000TL(約15万円)以上の患者では高アドヒアランスの割合が42%であり、30,000TL未満の13.4%と比べて有意に高く(p=0.029)、経済的要因が服薬継続に強く影響していました。
  • 骨盤手術歴の有無も重要な因子であり、手術歴がある患者ではMAが著しく低下していました(p=0.027)。これは神経因性EDへのタダラフィルの効果が限定的である可能性を示唆します。
  • 薬剤への信念(BMQ)では、「薬の必要性」への信念が強いとMAは高まり(p=0.029)、「薬は有害である」との信念が強いとMAが低下する傾向にありました(p=0.022)。

さらに、EDの重症度が高い(IIEFスコア0–10)患者ではMAが低い(p<0.001)ことも示されました。これは、重症EDでは薬効に対する満足度が低く、治療モチベーションが低下するためと考えられます。

また、感情的・認知的因子(B-IPQ)としては、「自己コントロール感」や「治療への信頼」が高い群ほどMAも高く(p<0.05)、「不安」や「感情的影響」のスコアが高い群ではMAが低くなっていました。心理的側面が服薬行動に深く関与していることが明らかとなりました。

実践的示唆:臨床でできる服薬支援

本研究の知見は、臨床現場での実践に大きな示唆を与えます。

まず、経済的な支援を必要とする患者に対しては、補助制度の情報提供やジェネリック薬の選択が考慮されるべきです。特にタダラフィルはED治療において保険適用外である場合が多く、処方時に経済的負担の説明が必要です。

また、服薬に対する誤解や不安を抱える患者には、薬理作用や副作用リスクについて丁寧に説明し、信頼形成を図ることが大切です。特にSNSなどで流布される無承認のED治療薬との誤認識を解くために、正しい知識を啓発する役割が求められます。

さらに、フォローアップの頻度も重要です。3ヵ月ごとの対面診察を受けていた患者はMAが高い傾向にあり(p<0.001)、継続的な面談を通じた再教育の意義が示唆されました。

Limitation 

  • 使用された評価尺度はすべて自己記入式であり、回答者バイアスの可能性が存在します。
  • 単施設・横断的研究であるため、因果関係の証明には限界があります。
  • サンプルサイズは中規模であり、より大規模な前向き研究が必要です。

おわりに

タダラフィル5mg OaD療法は、一定の治療アドヒアランスを示す一方で、個々の患者の経済的・心理的・治療信念的背景が服薬継続に大きく関与していることが明らかになりました。今後は、患者の生活背景を把握したうえで、心理的支援や定期的な再教育を通じて、より良い治療アウトカムを目指すべきです。

参考文献

Kandemir E, Kucuktopcu O. Assessing Medication Adherence to Tadalafil 5 mg Once Daily in Erectile Dysfunction: A Cross‐Sectional Analysis. Pharmacology Research & Perspectives. 2025;13:e70129. https://doi.org/10.1002/prp2.70129

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