循環器内科を標榜していますと、「動悸」や「脈が速い」、あるいは「血圧が高い」「めまい」といった訴えの方が多く受診されます。
まずは大前提として、心臓をはじめ、顕著な身体的異常がないかどうかチェックします。しかしながら、目立った異常がなく、おそらくは自律神経バランスが崩れていると思われる方が少なくありません。
様々なストレスを抱えている方が多く、対策としては、可能な範囲でそれらストレスの回避をしつつあとは、睡眠をしっかりとり、バランスよく食べて、運動をするという、ありふれたアドバイスをすることになります。当たり前なのですが、当たり前が重要であり、意外と当たり前のことが出来ていないのも現実です。
とはいえ、他に、少しでも自律神経バランスを整えるような対策はないでしょうか?
「3つの良いこと」(Three good things)
自律神経バランスを整える方法として、心穏やかにする、心を落ち着かせる、ポジティブな感情を抱けるようにする方法も大いに役立つと思います。
そのような心理的ウェルビーイングを得る方法として「3つの良いこと」(Three good things)という方法があります。
ポジティブ心理学の第一人者セリグマンが提案したポジティブ心理学的介入方法の1つです( Am Psychol. 2005 Jul-Aug;60(5):410-21)。
方法はごくシンプルです。
夜寝る前に、その日良かったこと、うまく行ったことを3つ書き出します。
例えば、仕事がうまく行ったとか、上司に褒められたとか、ご飯が美味しかったとか、なんでも良いのです。
そして、なぜそれが良かったのか、うまく行ったのか、その原因、因果関係を説明できるようにします。
仕事がうまく行ったのは、前もって情報収集しておいたからとか、同僚に相談しておいたからとか。
セリグマンの実験、研究では、35-54歳ほどの577人の男女(女性58%、男性42%)にこの「3つの良いこと」を1週間、毎日行うことにより、その後少なくとも半年の間、幸福感が増加し、抑うつ症状が軽減したという結果でした。
わずか1週間で半年間も好影響が及ぶのです。1週間やると、良い感触を得てその後も継続する人が少なくない可能性もあります。
良かったことを思い出すことはもちろん心理的にポジティブに働きますし、疲労困憊な1日や、あまり良いことがなかったなーと感じた1日でも、無理して良かったことを3つ探すという「良いこと探し」が習慣になることも心理的なポジティビティ向上に寄与するのかもしれません。
セリグマンの研究は基本的には特に病気のない人が対象であり、自律神経バランスが崩れていたわけではない人が多いわけですが、動悸や頻脈、その他なんとなく体調がすぐれない人が「3つの良いこと」を習慣化することで、自律神経バランスの崩れが少しでも是正され、動悸や頻脈が軽減、体調不良が軽減する可能性もあるかもしれません。たとえ、そうならなくとも、幸福感が増加したり、抑うつ症状が軽減することは大いに期待できますからやって損はないと思います。コストもゼロです。
まとめ
「3つの良いこと」(Three good things)
① 夜寝る前に、その日良かったこと、うまく行ったことを3つ書く。
② 良かった理由やうまく行った原因を説明する。
③ これを少なくとも1週間、毎日行う。
少なくとも半年間、幸福感が向上し抑うつ症状が軽減します。
自律神経が整う方向に働くことも期待できます。
自律神経バランスが崩れているなーと感じる方、病気じゃなさそうだけれど、なんとなく体調が悪かったり、メンタル不調だったりする人は、試してみてください。
【参考文献】
Seligman ME, Steen TA, Park N, Peterson C. Positive psychology progress: empirical validation of interventions. Am Psychol. 2005 Jul-Aug;60(5):410-21. doi: 10.1037/0003-066X.60.5.410. PMID: 16045394.