スマートウォッチの回復度、エナジースコア、レディネス、ボディバッテリーなどのスコアは信頼できるのか?

Digital Health

はじめに 

毎朝目を覚ましたとき、スマートウォッチやスマートリングの画面に表示されるスコアを真っ先に確認する習慣がついていないでしょうか。今日の回復度は78%、ボディバッテリーは残り45、レディネススコアは注意が必要、といった通知を見て、その日のトレーニングの強度を落としたり、予定していた仕事をセーブしたりした経験を持つ方は少なくないはずです。

ウェアラブル端末の普及は急速に進んでおり、2024年時点で多くの国において人口の半数以上が何らかのトラッキングデバイスを所有し、2029年までには世界のスマートウォッチ利用者が7億4000万人を超えると予測されています。初期のFitbit Classicが発売された2009年当時は、単一の3軸加速度センサーを用いて歩数や消費カロリー、大まかな睡眠時間を推定するシンプルなものでした。しかし現在では、光電脈波法(PPG)、心電図(ECG)、生体インピーダンス、温度センサーなどを統合したマルチセンサー技術へと進化を遂げています。

こうしたハードウェアの進化に伴い、個別の数値を個別に表示するだけでなく、複数の生体信号をアルゴリズムで統合し、身体の準備状態、回復度、身体的負荷、あるいは総合的な健康状態を1つの指標として提示する複合健康スコア(Composite Health Scores: CHS)が主流となりました。複雑な生体情報を直感的な1つの数字に置き換えてくれる機能は、極めて便利で魅力的に映ります。しかし、そのスコアは生理学的な真実をどこまで正確に反映しているのでしょうか。手首のデバイスが示す数字の裏側に迫る必要があります。

本研究の新規性:ブラックボックス化された14の独自スコアを横断検証

これまでにも、個別のウェアラブル端末における心拍数測定の精度や、加速度計による歩数推定の妥当性を検証した研究は数多く存在しました。しかし、複数の生体情報が融合されて出力される複合指標そのものを対象に、主要メーカーを網羅して体系的に比較・分析した研究は極めて限定的でした。

本研究の新規性は、世界市場シェアの上位10社にのぼる大手ウェアラブルメーカーを抽出し、それらが提供する14種類の主要なCHSを対象として、構成要素、算出プロトコル、時間軸、開示されているエビデンス、および科学的妥当性を横断的かつ客観的に評価した点にあります。企業の技術白書、特許、取扱説明書、アプリのインターフェース、関連する学術論文など、公開されているあらゆる情報を徹底的に突き合わせることで、各社の独自スコアが抱える構造的な課題を浮き彫りにしました。

対象となったのは、以下の14指標です。

Coros(Daily Stress)
Fitbit(Daily Readiness)
Garmin(Body BatteryとTraining Readiness)
Oura(ReadinessとResilience)
Polar(Nightly Recharge)
Samsung(Energy Score)
Suunto(Body Resources)
Ultrahuman(Dynamic Recovery)
WHOOP(Recovery、Strain、Stress Monitor)
Withings(Health Improvement Score)

複合健康スコアを構成する生体信号の内訳

調査対象となった14種類のスコアにおいて、どのような生体信号が組み込まれているかを整理すると、明確な共通点が見えてきます。最も多く採用されていたのは心拍数(86%)および心拍変動(HRV: 86%)であり、次いで安静時心拍数(RHR: 79%)、身体活動量(71%)、睡眠時間(71%)でした。さらに、レム睡眠やノンレム睡眠などの睡眠構造・質(57%)、体温(29%)、呼吸数(14%)が続き、血中酸素飽和度(SpO2)、身体形態(体重や体脂肪率)、血圧、心電図波形はそれぞれ7%(1件)の採用にとどまりました。

生体信号を捉える根幹のセンサー技術は、脈波や末梢血流動態を捉えるPPGと、身体の三次元的な動きを捉える加速度計の2つに集約されます。

生理学的に見ると、HRVとRHRの組み合わせが中心に据えられていることには一定の合理性があります。

安静時心拍数(RHR)

RHRは洞結節の自律的なペースメーカー活動に対する交感神経と副交感神経の持続的な緊張バランスを反映し、通常は安静時の副交感神経優位によって毎分50回から70回程度に維持されます。RHRの上昇は心肺持久力の低さや慢性的ストレスを示唆し、低下は心血管効率の向上と関連します。一方、RHR単独では急性的なトレーニング負荷や一時的な自律神経の乱れに対する感度が不十分です。

心拍変動(HRV)

これに対してHRVは、心拍ごとの微小な時間間隔(RR間隔)の変動を捉えるもので、ミリ秒単位での急速な副交感神経(迷走神経)活動の変化を反映します。安静時の高いHRVは優れた環境適応能力と副交感神経活性を示し、低下は疲労やストレス状態を示唆します。多くの端末では、連続するRR間隔の差の二乗平均平方根(rMSSD)を用いてHRVを定量化しています。

つまり、急性の神経性応答を捉えるHRVと、慢性的かつ基礎的な状態を示すRHRを組み合わせるという発想自体は、生理学的知見に合致していると言えます。

計測プロトコルの不一致:同じ用語で測定される異なる実態

概念としては成立しているように見えるCHSですが、各社が採用している測定プロトコルを比較すると、深刻な不一致が存在していることが判明しました。

心拍変動(HRV)

例えば、HRVの算出方法ひとつをとっても、
Corosは朝の4時から10時の間に手動で行うスポット測定を推奨しています。
FitbitのDaily Readinessは過去24時間の中で3時間を超える最長の睡眠エピソード中のデータを使用します。
GarminのTraining Readinessは睡眠中の全時間にわたり5分ごとのウィンドウで連続測定した平均値を用います。
OuraのReadiness Scoreは睡眠中の全5分間サンプルの平均値および最大値を算出。
PolarのNightly Rechargeは入眠後30分を経過した時点から始まる4時間のウィンドウを解析対象としています。
WHOOPに至っては、加速度計から推定した夜間の最後の徐波睡眠(深睡眠)期のデータに重みを置いて算出しています。
SamsungのEnergy Scoreは終日の連続モニタリングを標榜していますが、具体的な計算ロジックは非開示です。

安静時心拍数(RHR)

RHRの算出においても同様の乖離が見られます。Garminは24時間の中で最も低かった30分間の平均値を採用し、Fitbitは睡眠中または日中の歩行が検出されない安静覚醒時のデータから抽出し、Ouraは睡眠中の平均値と10分ごとに記録された最低値を併用し、Suuntoは睡眠中の最低値または手動入力を求めています。

PPGによる睡眠ステージ判定

さらに根本的な問題として、ウェアラブル端末のPPGによる睡眠ステージ判定精度そのものが、睡眠ポリグラフ検査などの臨床的ゴールドスタンダードと比較して依然として低いという現実があります。不確かな睡眠ステージ判定に基づいて特定の睡眠期のHRVを抽出することの妥当性には疑問が残ります。

日中のHRV

また、日中の連続測定によるHRVは、会話、嚥下、飲水といった日常動作によって迷走神経刺激との関連性が容易に破綻するため、安静時以外のデータを無差別に反映させるアプローチは生理学的な解釈を大きく歪めるリスクを孕んでいます。

各社がReadinessという同じ単語を使ってスコアを表示していても、その裏で測定されているタイミング、時間幅、処理アルゴリズムは全く異なっており、デバイス間でのスコアの互換性や比較可能性は存在しないのが実情です。

アルゴリズムの不透明性と多重共線性の罠

ブラックボックス

本研究が指摘した最も重大な問題点は、調査した10社の全メーカーにおいて、CHSを導き出す正確なアルゴリズムの計算式や、各指標に対する具体的な重み付けが一切公開されていないという点です。GarminのBody BatteryやTraining Readiness、FitbitのDaily Readiness、OuraのReadiness、WHOOPのRecoveryなど、いずれも個人の基準値(ベースライン)と比較して動的に算出されると謳われていますが、その重み付けはブラックボックスのままです。

二重減点という構造的な弱点

このブラックボックス構造は、統計学および生理学における多重共線性(マルチコリニアリティ)という重大なバイアスを生み出しています。多くのスコアでは、睡眠不足や睡眠の質の低下と、それに伴って生じるHRVの低下が別々の要素として組み込まれています。しかし、睡眠不足になれば交感神経が緊張してHRVが低下するのは生理学的に連動した現象です。それにもかかわらず、睡眠スコアが低いことで減点され、さらにHRVが低下したことで二重に減点されるという過剰ペナルティの構造が組み込まれている可能性があります。もし睡眠が短くてもHRVが安定していれば、生体はそのストレスに適応できていると解釈すべきですが、画一的な減点アルゴリズムでは個別の適応状態を正確に反映できません。

前日の身体活動量

また、前日の身体活動量という行動データを、生体の生理的応答と混同してスコアに直接反映させてしまう問題もあります。高強度の運動を行ったとしても、十分にリカバリーされていればHRVは回復します。それにもかかわらず、前日の運動量が多いという理由だけで機械的にレディネスを低下させる仕様は、個人の生理的適応能力を過小評価することにつながります。

外部研究が示す主観的感覚や生体マーカーとの乖離

メーカー側の主張とは裏腹に、第三者の研究者が行った実証研究では、CHSの出力値と生体の実際の状態との間に無視できない乖離があることが報告されています。

エリート競泳選手を対象とした2024年の研究では、ウェアラブルで測定したHRV自体は相対的安静時代謝率と中等度の正の相関(r = 0.448, p = 0.032)を示し、スポーツ特異的ストレス(r = −0.462, p = 0.026)や総合ストレス(r = −0.459, p = 0.028)と有意な負の相関を示しました。しかし、WHOOPのリカバリースコア自体は、全被験者を対象とした解析において代謝抑制と相関せず、甲状腺ホルモン値や安静時代謝率比とも有意な関連を示しませんでした。安静時代謝率比との相関が認められたのは男性選手のみ(r = 0.653, p = 0.041)で、女性選手では相関が認められず、主観的なストレスや回復の自覚度とも有意な相関を示しませんでした。

また、オランダの警察官を対象にGarminのBody Batteryなどを用いた2025年の研究では、スマートウォッチの利用によってストレスへの自覚や自己効力感、ウェルビーイングにわずかな改善(Hedgesのg = 0.25〜0.46, p < 0.05)が認められたものの、提示されるスコアと本人の主観的なストレス実感との間に頻繁な乖離が観察されました。身体的には強いストレスを感じているのにデバイス上は高エネルギーと表示されたり、逆に元気であると感じているのにスコアが極端に低く表示されたりすることで、利用者が数値の解釈に混乱をきたす様子が確認されています。

本研究の限界(Limitation)

本研究の限界として、分析に用いた情報源がメーカーの技術白書、特許、取扱説明書、アプリ画面などの公開情報に限定されている点が挙げられます。企業秘密として保護されている中核アルゴリズムや未公開の内部検証データにはアクセスできていないため、実際の計算式の全容を解明することは原理的に不可能です。また、各社がファームウェアやアプリのアップデートによってアルゴリズムを予告なく頻繁に変更するため、評価結果が特定の時点の仕様に基づいているという制約が存在します。

さらに、既存の検証研究の多くが若年、健康、男性を中心とした均一な集団で実施されており、小児、高齢者、慢性心血管疾患や代謝性疾患を抱える患者、あるいは多様な人種・民族における妥当性はほとんど検証されていません。臨床現場や遠隔医療におけるデジタルバイオマーカーとしてCHSを一般化するには、依然として大きなエビデンスの隔たりが存在します。

明日から実践できる:手首の数字に振り回されないためのデータ活用術

この論文が明らかにした知見は、ウェアラブル端末を完全に否定するものではありません。重要なのは、端末が提示する合成された1つの数字を無批判に受け入れるのではなく、背後にある生理学的メカニズムを理解した上で主体的にデータを読み解くリテラシーを持つことです。明日から実践できる具体的なアプローチを提案します。

  1. 合成されたレディネススコア単体に頼らない
    総合スコアは、各社の独自の重み付けや二重減点のバイアスが加わった加工品です。日々の体調判断の基準を「レディネスが60だから」という点に置くのをやめ、まずは自分自身の主観的な体調、睡眠の満足感、筋肉の疲労感といった内的な感覚を最優先の基準にしてください。
  2. 生データである夜間HRV(rMSSD)と安静時心拍数のトレンドを直接見る
    スコアの元になっている客観的な指標の中で、生理学的根拠が最も強固なのは睡眠中のHRVとRHRです。アプリの奥にある詳細画面を開き、複合スコアではなく、夜間のHRVのベースラインからの乖離や、RHRの数日間にわたる推移を直接確認してください。HRVが個人の通常の範囲を下回り、RHRが数拍以上上昇している場合は、過度の疲労、アルコールの影響、感染症の初期段階などの生理的負荷が生じている可能性を考慮します。
  3. デバイス間でのスコア比較を避ける
    GarminのBody BatteryとOuraのReadiness、WHOOPのRecoveryは、算出タイミングも計算式も全く異なります。異なる端末間での数値を比較したり、他人のスコアと競い合ったりすることには生理学的な意味がありません。同一のデバイスを同一の装着条件で長期間使い続け、自分自身の過去のデータからの変化率(トレンド)のみを注視してください。
  4. データの乖離に気づいたら一度外してみる
    自分の体感は極めて快調であるにもかかわらず、デバイスから「休養が必要」「過度なストレス」と警告され続けると、ノーシーボ効果によって心理的な不調が誘発されることがあります。主観と客観の乖離が続くときは、数日間デバイスを外して生活し、自身の体内感覚のリズムを取り戻す勇気を持つことも重要です。

おわりに

複雑な生理データを一つの数字に落とし込む発想そのものは、魅力的な技術革新です。しかし現時点のCHSは、透明性、標準化、多様な集団での検証のいずれも不十分です。毎朝の数字は「答え」ではなく「手がかり」の一つとして、その中身である心拍とHRVに目を向けることが、賢いつき合い方といえそうです。

参考文献

Doherty C, Baldwin M, Lambe R, Burke D, Altini M. Readiness, recovery, and strain: an evaluation of composite health scores in consumer wearables. Transl Exerc Biomed. 2025;2(2):128-144. doi:10.1515/teb-2025-0001.

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