スマホで首を写せば脳と心臓の未来がわかる

Digital Health
  1. はじめに
  2. 研究プロトコール概要(PICO)
  3. 補足:「弓部大動脈脈波速度(PWVaa)」とは
      1. 1 計測地点の特定
      2. 2 走行距離(Length)の定義
      3. 3 通過時間(Transit Time)の計測
      4. 4 算出式
      5. 特徴
  4. 解析の要:固有周波数(IF)法が解き明かす動脈の物理学
      1. 第1固有周波数(ω 1):左室収縮能のダイナミクス
      2. 第2固有周波数(ω 2):血管系の剛性や抵抗
      3. 頸動脈の皮膚変位波形
  5. 臨床データが示す圧倒的な精度と信頼性
      1. 弓部大動脈脈波速度(aortic arch pulse-­ wave velocity;PWVaa)
      2. 総血管コンプライアンス(Total arterial compliance;TAC)
  6. cfPWVを凌駕する弓部大動脈評価の新規性
  7. 首が太い、肥満等でも可能なのか?
  8. 研究の限界点(Limitation)
  9. 明日から実践できる血管健康管理への応用
  10. 参考文献
  11. おまけ:PPG(光電容積脈波)でも同様な測定が可能か?
      1. 1. 物理的現象の違い:容積変化か、機械的変位か
      2. 2. 「中枢(頸動脈)」か「末梢(指先など)」か
      3. 3. 計測精度とロバスト性(頑健性)
      4. 4. PPGでも「同じこと」ができる可能性はあるか?
      5. おまけの結論
      6. 参考文献
  12. おまけ2:baPWV(上腕-足首)の代替となるか?
      1. 1. 現状の覇者:baPWV(上腕-足首脈波速度)の強み
      2. 2. 挑戦者:スマートフォンPWVaaの破壊的ポテンシャル
      3. 3. 置き換わるためのハードルとロードマップ
      4. 将来的なシナリオ
      5. おまけ2の結論

はじめに

私たちのポケットに収まっているスマートフォンが、今や高度な医療診断装置へと変貌を遂げようとしています。循環器領域において、血管の硬さ、すなわち動脈剛性は心血管リスクのみならず、脳の健康状態を測る極めて重要な指標です。特に心臓に近い弓部大動脈の硬さは、脳の白質病変や認知機能の低下を予測する強力な因子であることが近年の研究で明らかになっています。

しかし、これを正確に評価するには高価な心臓MRI検査が必要であり、日常的なモニタリングには程遠いのが現状でした。ニルーマンディ氏らによる本研究は、スマートフォンのカメラのみを用いて、MRIに匹敵する精度で弓部大動脈脈波速度(aortic arch pulse-­ wave velocity;PWVaa)と総血管コンプライアンス(Total arterial compliance;TAC)を測定する画期的な手法を提示しました。これは、予防医学のパラダイムシフトを予感させる成果です。

研究プロトコール概要(PICO)

本研究の学術的妥当性を理解するために、その研究デザインを整理します。

対象(Population):20歳から90歳までの成人132名。健康なボランティアに加え、心不全や高血圧、脂質異常症などの循環器疾患を有する多様な背景を持つ患者群が含まれています。

介入(Intervention):iPhone 5Sの標準カメラを用い、皮膚の変位から頸動脈波形を取得。これを物理学ベースの解析手法である固有周波数(intrinsic frequency;IF)法によって解析しました。

比較(Comparison):PWVaaについては心臓MRIの位相コントラスト法による実測値を、TACについてはトノメトリーによる圧力波形とMRIによる流量波形から算出された値をゴールドスタンダードとしました。

結果(Outcome):ブラインドテストセットにおいて、実測値と推定値の間に極めて高い相関と一致度が確認されました。

補足:「弓部大動脈脈波速度(PWVaa)」とは

弓部大動脈脈波速度(PWVaa)は、「上行大動脈(Ascending Aorta)」と「下行大動脈(Descending Aorta)」の2地点間の脈波速度を指します。

1 計測地点の特定

心臓MRIにおいて、肺動脈のレベルで大動脈を横断するようにスライス画像を取得します。この断面には、心臓から血液が送り出されてすぐの「上行大動脈」と、弓部を回って足の方へ降りていく「下行大動脈」の2地点が映し出されます。この2点が、PWVaaの「始点」と「終点」になります。

2 走行距離(Length)の定義

PWVaaの算出に用いられる「距離」は、MRIの「candy cane view(杖のような形をした大動脈の全体像)」を用いて計測されます。この杖のようなアーチ状の形状に沿って、その中心線(Centerline)の長さを測ります。これが脈波が実際に通り抜ける経路の長さとなります。

3 通過時間(Transit Time)の計測

心臓が拍動し、血液の圧力波(脈波)がまず「上行大動脈」の地点に到達します。その後、大動脈弓のアーチを通り抜けて「下行大動脈」の地点に到達するまでの時間差(遅延時間)を計測します。

4 算出式

これらの値を用いて、以下の式で算出されます。

PWVaa= 大動脈弓の中心線の長さ}/{上行から下行までの到達時間差}

特徴

頸動脈・大腿動脈脈波速度(cfPWV)が、頸動脈から大腿動脈までの非常に長い、主に「下行大動脈から末梢」にかけての剛性を反映するのに対し、PWVaaは「心臓から出てすぐのアーチ部分のみ」の剛性をピンポイントで評価するものです。

この「アーチ部分」こそが、心臓から脳へ向かう血液の拍動エネルギーを最初に吸収・緩衝する重要な役割(ウィンドケッセル効果(Windkessel effect))を担っているため、脳血管リスクの指標として極めて重要視されています。

本論文のスマートフォンによる手法は、首の頸動脈で波形を捉えていますが、その波形の中に含まれる物理的な特徴から、AIがこの「大動脈弓の入り口から出口まで(上行から下行まで)」の速度を予測・推定しているという点が画期的なのです。

解析の要:固有周波数(IF)法が解き明かす動脈の物理学

本研究の技術的核となるのは、固有周波数(IF)解析というシステム論的なアプローチです。従来の波形解析が心周期全体を一つのまとまりとして扱うのに対し、IF法では心周期を物理的に異なる二つのフェーズに分解します。

第1固有周波数(ω 1):左室収縮能のダイナミクス

第一のフェーズは収縮期であり、ここでは心臓と大動脈が結合した一つのシステムとして機能します。この時に得られる第一固有周波数(ω(omega) 1)は、主に左室収縮能のダイナミクスを反映します。

第2固有周波数(ω 2):血管系の剛性や抵抗

第二のフェーズは拡張期であり、心臓が切り離され、大動脈とその分岐血管網が独立したシステムとして機能します。この時に得られる第二固有周波数(ω(omega) 2)は、大動脈を中心とした血管系の剛性や抵抗を反映します。

頸動脈の皮膚変位波形

本研究では、iPhoneで取得した頸動脈の皮膚変位波形が圧力波形と極めて高い相似性を持つことを利用し、これらの固有周波数を抽出しました。これに、カフで測定された血圧値や年齢、性別、身体指標を組み合わせた機械学習モデルを構築することで、血管の硬さを高い精度で予測することに成功したのです。

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臨床データが示す圧倒的な精度と信頼性

弓部大動脈脈波速度(aortic arch pulse-­ wave velocity;PWVaa)

研究の結果、得られた数値は驚くべきものでした。未知のデータを用いたブラインドテストにおいて、PWVaaの推定値はMRIの実測値に対して0.81という高いピアソン相関係数を示しました。誤差の偏りを示すバイアスはマイナス0.20 m/sと極めて小さく、一致制限範囲も臨床的に許容できる範囲に収まりました。

総血管コンプライアンス(Total arterial compliance;TAC)

同様に、全身の血管のしなやかさを示すTACについても、相関係数は0.80、バイアスはマイナス0.06 mL/mmHgという優れた成績を収めています。

特筆すべきは、血行動態が不安定になりやすい心不全患者群においても、PWVaaおよびTACともに0.81という高い相関を維持した点です。これは、本手法が健康増進目的の若年層から、厳密な管理が求められる高齢の疾患患者まで、幅広い層に適応可能であることを証明しています。

また、血管リスクのスクリーニング能力も高く、PWVaaについては感度81%、特異度83%を達成しており、臨床現場でのスクリーニングツールとして十分な性能を有していることが示されました。

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cfPWVを凌駕する弓部大動脈評価の新規性

本研究の最も重要な新規性は、スマートフォンで「弓部大動脈」の硬さをターゲットにした点にあります。これまでの動脈剛性評価の主流は頸動脈・大腿動脈脈波速度(cfPWV)でしたが、これは下行大動脈から遠位の評価に偏っていました。

しかし、臨床的には弓部大動脈の剛性こそが、脳への拍動エネルギーの直接的な伝播を制御しており、脳血管障害や神経変性疾患との関わりが深いことが指摘されています。Dallas Heart Studyなどの大規模な縦断研究では、cfPWVでは予測できなかった脳白質の変化が、PWVaaによって有意に予測できることが示されています。

これまでMRIでしか測れなかったこの「脳の健康の守護神」とも言える弓部大動脈の指標を、ポケットの中のデバイスで瞬時に算出できるようにしたことは、技術的に極めて難易度が高く、かつ臨床的価値が非常に高い成果と言えます。

首が太い、肥満等でも可能なのか?

「脂肪が厚ければ振動が減衰して正確に測れないのではないか」と考えるのが自然ですが、この論文ではいくつかの論理的・実証的根拠をもとに、その懸念を払拭しています。

「物理的な振動の『形』を周波数解析という手法で抜き出しているため、組織の厚みによる減衰の影響を受けにくい」のです。
もちろん、物理的な限界として、極度の皮下脂肪によって振動が完全に消失してしまうような特殊なケース(論文では言及されていませんが)では測定不能になる可能性はゼロではありません。しかし、少なくとも一般的な「肥満」の範囲(BMI 43まで)においては、MRIに匹敵する精度を維持できることがデータで示されています。

研究の限界点(Limitation)

本研究にはいくつかの留意すべき限界点も存在します。まず、本モデルは単一の施設、単一のコホートで開発・検証されたものです。そのため、より多様な人種や異なる測定環境における外部妥当性を確認するには、今後多施設共同のプロスペクティブな検証が必要です。

また、今回の研究対象には重度の頸動脈狭窄症患者が含まれていませんでした。先行研究では固有周波数解析が狭窄の影響を受けにくい可能性が示唆されていますが、臨床現場で広く普及させるためには、狭窄や大動脈弁疾患を有する患者での精度検証が待たれます。

さらに、本研究は横断的な評価にとどまっており、スマートフォンで測定されたPWVaaの変化が、実際に将来の認知機能低下や心血管イベントをどの程度正確に予測できるかについては、数年単位の追跡調査によるデータの蓄積が必要です。

明日から実践できる血管健康管理への応用

この論文の知見を、明日からの私たちの行動にどう活かすべきでしょうか。最も重要な教訓は、血管の硬さは単なる「老化の指標」ではなく、能動的にモニタリングし管理すべき「脳と心臓のバロメーター」であるということです。

本研究が実用化されれば、私たちは毎日体重を測るのと同じ感覚で、自身の血管のしなやかさをチェックできるようになります。

なお、本研究のデータ収集(撮影)はiPhone上のアプリで行われましたが、研究段階での複雑なモデル構築や検証(解析・計算)は、主に外部の計算環境(PC上のPythonなど)で行われています。しかし、解析手法そのものが「スマートフォン単体でも十分に処理可能なほど計算負荷が低い」ため、将来的にはスマートフォンのアプリ内で完結して結果を表示する(オンデバイス解析)ことが想定されています。

現時点でも私たちができることは、こうした技術の背景にある「血管剛性が脳に与えるインパクト」を理解し、血圧管理や有酸素運動といった血管を柔軟に保つ生活習慣により自覚的になることです。

特に、首の血管で測定される拍動の性質が、そのまま脳の毛細血管へのダメージに直結しているという事実は、日々の血圧コントロールのモチベーションを大きく高めるはずです。スマートフォンのLEDとカメラを用いた波形取得は、肌の色や肥満度に関わらず有効であることも示されており、あらゆる人がこの恩恵を享受できる日がすぐそこまで来ています。

参考文献

Niroumandi S, Rinderknecht D, Bilgi C, Cole S, Ogbonnaya SA, Wolfson AM, Vaidya AS, King KS, Pahlevan NM. Smartphone Measurement of Aortic Arch Pulse-Wave Velocity and Total Arterial Compliance: Accessible Local and Global Arterial Stiffness Assessment. Journal of the American Heart Association. 2026;15:e043563. DOI: 10.1161/JAHA.125.043563.

おまけ:PPG(光電容積脈波)でも同様な測定が可能か?

「脈波を取得する」という意味ではPPG(光電容積脈波)でも可能ですが、この論文が目的とする「PWVaa(弓部大動脈脈波速度)」を高精度に測定するという点では、カメラによる「変位計測」の方が圧倒的に有利な理由があります

なぜPPGではなく、カメラでの皮膚変位計測(Vibration/Displacement)である必要があるのか解説します。

1. 物理的現象の違い:容積変化か、機械的変位か

まず、計測している物理現象が根本的に異なります。

  • PPG(光電容積脈波): 皮膚に光を当て、血管内の血液量(ヘモグロビン量)の変化を「光の吸収量」として捉えます。これは**「容積」の変化**を見ていることになります。
  • カメラによる変位計測(この論文の手法): カメラが捉えるのは、動脈の拍動によって押し上げられる「皮膚表面の物理的な上下運動(変位)」です。

論文内では、「頸動脈のような太い動脈の壁は弾性特性が支配的であるため、その変位(動き)は血管内の圧力波形を鏡のように正確に反映する」と強調されています。圧力波形そのものに近いデータを取得するには、光学的な血流量変化(PPG)よりも、物理的な壁の動き(変位)を追う方が、流体力学的な情報が欠落しにくいのです。

2. 「中枢(頸動脈)」か「末梢(指先など)」か

一般的にPPGは指先や手首で計測されますが、ここが重要なポイントです。

  • PWVaaの定義: 弓部大動脈(心臓の出口)の硬さを測る指標です。
  • 波形の歪み: 脈波は心臓から遠ざかるほど、血管の分岐や反射波の影響を受けて歪んでいきます。指先のPPG波形は、もともとの大動脈の波形から大きく変化してしまっています。
  • 固有周波数(IF)解析との相性: この研究の核心である「固有周波数解析」は、心臓と大動脈の「結合(カップリング)」を分析します。そのためには、できるだけ心臓に近い地点の波形が必要です。頸動脈は解剖学的に大動脈弓に極めて近いため、大動脈の物理的な「固有の揺れ」を純粋な形で保持しています。

3. 計測精度とロバスト性(頑健性)

PPGには、臨床データとして扱う際にいくつかの弱点があります。

  • 皮膚の色の影響: PPGは光の吸収を利用するため、メラニン色素(肌の色)によって信号強度が左右されます。
  • 血管のトーン: 末梢のPPGは、寒さや緊張による血管収縮の影響を強く受け、波形の形が容易に変わってしまいます。
  • 論文の主張: 著者は「カメラによる変位計測は、肌の色や肥満度、頸部の解剖学的構造の違いに影響されない」と述べています。これは物理的な「揺れ」を見ているため、光の吸収率に左右されないからです。

4. PPGでも「同じこと」ができる可能性はあるか?

理論上、Apple Watchのような手首のPPGからPWVを推定する研究も進んでいますが、その精度は依然として課題が多いです。

なぜなら、手首の波形から「心臓のすぐ隣(大動脈弓)」の硬さを逆算するには、途中の血管の特性という膨大な変数を排除しなければならないからです。一方、この論文のように「頸動脈の動き」を直接撮ることは、いわば「現場のすぐ隣で聞き耳を立てる」ようなもので、情報の純度が極めて高いのです。

おまけの結論

PPGでも「脈拍」は測れますが、「弓部大動脈の硬さ(PWVaa)」という非常にデリケートな中枢指標を、MRIに匹敵する精度で算出するためには、頸動脈という中枢地点で、圧力波形をダイレクトに反映する「機械的変位」を捉える必要があった、というのがこの研究の論理的な帰結です。

つまり、スマートフォンのカメラを「光学センサー(PPG)」としてではなく、「超高精度な非接触振動計(Vibrometer)」として使用したことが、この研究のブレイクスルーの鍵と言えます。

参考文献

Pahlevan NM, et al. Noninvasive iPhone measurement of left ventricular ejection fraction using intrinsic frequency methodology. Crit Care Med. 2017;45:1115-1120. (本論文の著者が先行して発表した、カメラ変位計測の有効性を証明した研究)

おまけ2:baPWV(上腕-足首)の代替となるか?

baPWV(上腕-足首)を現場ではよく使われているが、将来的にはスマホの弓部大動脈脈波速度(PWVaa)に置き換わる可能性もあるのでしょうか?

結論から申し上げますと、「将来的には、スマートフォンのPWVaaがbaPWVに置き換わる可能性は十分にあるが、それにはいくつかのハードルを越える必要があり、当面は共存・使い分けの時代が続く」と考えられます。

なぜそのように言えるのか、現在の覇者であるbaPWVの強みと、挑戦者であるスマートフォンPWVaaのポテンシャルを比較しながら解説します。


1. 現状の覇者:baPWV(上腕-足首脈波速度)の強み

ご指摘の通り、現在日本の臨床現場、特に健診や人間ドックではbaPWVが標準的に使われています。その理由は明確です。

  • 簡便性と自動化: 両腕両足にカフを巻いてボタンを押すだけで、誰が測定しても再現性の高いデータが得られます。技師の熟練度をほとんど必要としません。
  • 膨大なエビデンスの蓄積: 日本を中心に数十年にわたる研究の蓄積があり、心血管イベントの予測因子としての信頼性が確立されています。「この数値を超えたらリスクが高い」という基準値が医師の間で共有されています。
  • 保険収載とABIの同時測定: 日本では保険が適用される検査であり、同時に足の血管の詰まりを見るABI(足関節上腕血圧比)も測定できるため、動脈硬化のスクリーニングとして非常に効率が良いのです。

しかし、baPWVには医学的な弱点もあります。

それは、「心臓から足首まで」という非常に長い距離を測るため、「中心(大動脈)」と「末梢(足の筋肉の動脈)」の硬さが混ざった値になってしまう点です。また、足の血管が詰まっている(PAD)と正確に測れないという欠点もあります。


2. 挑戦者:スマートフォンPWVaaの破壊的ポテンシャル

今回ご紹介した論文の技術(スマートフォンPWVaa)は、baPWVの弱点を克服し、さらに「場所」の制約を取り払うポテンシャルを秘めています。

  • 医学的な優位性:「真の中心動脈圧」を評価
    • baPWVが「混ぜ物」の値であるのに対し、PWVaaは「心臓の出口(弓部大動脈)」の硬さだけをピンポイントで評価します。
    • 論文でも強調されている通り、この部位の硬さは、脳へのダメージ(認知症・脳卒中リスク)や心不全リスクと直結します。医学的な意味合い(病態生理学的意義)は、baPWVよりもPWVaaの方が純度が高く、優れていると言えます。
  • 圧倒的なアクセシビリティ
    • baPWVは専用の大型機器がある医療機関でしか測れません。
    • スマートフォンPWVaaは、アプリさえあれば「自宅で、毎日、誰でも」測れるようになる可能性があります。これは予防医学の観点から見て革命的です。健診で年1回測るのと、自宅で日常的にモニタリングするのとでは、健康管理のあり方が根本から変わります。

3. 置き換わるためのハードルとロードマップ

では、すぐに置き換わるかというと、現時点では以下のハードルがあります。

  1. エビデンスの量: baPWVが持つ数十年の追跡データに対し、今回のスマホ技術はまだ「MRIと相関した」という段階です。「スマホの数値が高い人は、将来本当に脳卒中になりやすいのか?」という大規模な長期研究結果が出るまで、多くの医師は慎重な姿勢を崩さないでしょう。
  2. 規制当局の承認: 医療機器プログラムとしての承認(FDAやPMDA)が必要です。
  3. 血圧測定の必要性: 現時点のモデルでは、別途カフで測った血圧値の入力が必要です。これが「完全カフレス(スマホのカメラだけで血圧も推計)」になれば、普及のスピードは劇的に上がります。

将来的なシナリオ

おそらく、以下のような段階を経て普及していくと考えられます。

  • フェーズ1(共存・スクリーニング):
    • まず、一般の方が自宅で自分の血管リスクを知るための「スクリーニングツール」として普及します。「スマホでリスク高と出たから、病院で精密検査(baPWVやMRI)を受けよう」という流れを作る役割です。
  • フェーズ2(臨床現場への導入):
    • エビデンスが蓄積し、カフレス化が進めば、クリニックなどの一次診療の現場で、場所を取るbaPWV装置の代わりに導入され始めます。特に、脳血管リスクを重視する神経内科や、心不全管理を行う循環器内科でのニーズが高いでしょう。
  • フェーズ3(置き換えの可能性):
    • もし将来的に、「スマホPWVaaの方がbaPWVよりも脳卒中や心不全の予測能が高い」という大規模な研究結果が出れば、メインの検査の座が入れ替わる可能性は十分にあります。

おまけ2の結論

結論として、医学的な「質」と利便性においてはスマートフォンPWVaaが勝るため、将来的にはbaPWVの強力なライバル、あるいは代替手段になり得ます。しかし、それが実現するにはまだ数年から十年単位の時間と、さらなる研究の蓄積が必要になるでしょう。

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