血圧測定可能なスマートウォッチHUAWEI WATCH D 検証研究 3

Digital Health

高血圧症は現代医療において最も重要な課題の一つです。世界で約12.8億人が高血圧を抱えており、その多くが低中所得国に集中しています。適切な管理が行われているのはそのうち約半数に過ぎません。この現状を打破するために、新しい技術が求められています。その中で注目されるのが、血圧測定機能を備えたスマートウォッチです。本研究では、HUAWEI WATCH Dという血圧測定スマートウォッチの精度と実用性を従来の水銀血圧計と比較して検証しました。


スマートウォッチによる血圧測定の精度評価

研究概要

本研究は2022年11月から12月にかけてマレーシアのクアラルンプールにある大学医療センターで実施されました。78名の成人患者が参加し、マレー人(46.2%)、中国人(25.6%)、インド人(24.4%)という多民族構成のサンプルを用いて行われました。HUAWEI WATCH DはISO 81060-2:2018規格に基づき、水銀血圧計と比較してその精度を評価されました。

主な結果

  1. 測定精度の比較: HUAWEI WATCH Dによる収縮期血圧(SBP)の平均誤差は-0.034 mmHg(標準偏差: 5.24 mmHg)、拡張期血圧(DBP)の平均誤差は-0.65 mmHg(標準偏差: 4.66 mmHg)でした。これらの結果はISO基準(平均誤差≤ 5 mmHg、標準偏差≤ 8 mmHg)を満たしています。
  2. 多民族間での差異: マレー人、中国人、インド人の間で測定精度に有意差は認められず、身体的特徴の違いが測定結果に影響を与えないことが確認されました。
  3. 身体的特徴の影響なし: 腕周囲径、BMI、腕の毛の密度といった身体的特徴が測定精度に影響を与えないことが示されました。
  4. 安定した測定: Bland-Altmanプロットによる解析では、SBPの平均偏差が0.034 mmHg、DBPが0.649 mmHgであり、信頼性の高い結果が得られました。

HUAWEI WATCH Dの臨床応用の可能性

精密医療への寄与

HUAWEI WATCH Dは、リアルタイムでの血圧データ収集を可能にし、患者個々に適した血圧管理を実現する可能性を秘めています。特に、白衣高血圧や仮面高血圧といったオフィス測定では見逃されがちな血圧異常を検出する能力が期待されています。このデバイスは、血圧測定を日常生活に組み込みやすくすることで、患者の自己管理能力を高め、治療の精度を向上させるでしょう。

外来や在宅での使用

HUAWEI WATCH Dは、小型で携帯性が高く、従来の水銀血圧計や上腕式自動血圧計に比べて使用が簡便です。デバイスはユーザーに正しい手の位置を自動的に指示し、測定結果はスマートフォンのアプリに記録されます。これにより、患者はより頻繁に血圧を測定し、そのデータを医療従事者と共有できるため、外来や在宅医療での利用が期待されます。

血圧変動の記録

HUAWEI WATCH Dは、手動でこまめに血圧を測定することが容易なため、短期的な血圧変動(例: 分単位、時間単位、昼夜リズム)の記録を可能にします。これにより、血圧変動が心血管イベントに与える影響を研究する新たな可能性が生まれます。また、日常生活でのストレスや活動による血圧変化を捉えることで、より精密な治療計画を立てる手助けとなります。自動測定機能がつけばもっと良いですが。

コストと普及性

スマートウォッチ型血圧計のコストは普及の課題として指摘されています。しかし、自己モニタリングが広がれば、長期的な医療費削減や血圧管理の改善につながる可能性があります。このデバイスの価値は、単なる測定精度だけでなく、手軽さや使用頻度を高める工夫にもあります。


課題と将来の展望

心理的影響への対応

自己モニタリングは、患者に心理的負担を与える可能性があります。例えば、血圧が目標値から外れた場合の不安や、デバイスの信頼性に関する疑念が挙げられます。このため、デバイスの使用を補完する形で、患者教育やカウンセリングの充実が重要となります。

精度向上の余地

本研究では、測定が静止状態に限定されている点が制約として挙げられています。今後の研究では、動作中や日常生活での測定精度についても検証が必要です。また、さらなる改良により、動きながらでも正確に測定できるデバイスが期待されます。


結論

HUAWEI WATCH Dは、血圧管理の分野における新たな選択肢として高いポテンシャルを持っています。その精度と利便性は、患者の自己管理能力を向上させ、医療従事者との連携を強化することで、より良い血圧コントロールを実現する可能性があります。また、精密医療の発展に寄与するツールとして、今後の応用が期待されています。このデバイスが広く普及することで、医療現場や患者の生活に革命的な変化をもたらす可能性があります。


参考文献

Wan Ling Lee, Mahmoud Danaee, Adina Abdullah, Li Ping Wong. “Is the Blood Pressure-Enabled Smartwatch Ready to Drive Precision Medicine? Supporting Findings From a Validation Study.” Cardiol Res. 2023;14(6):437-445. DOI: 10.14740/cr1569.

こちらもご覧ください。

タイトルとURLをコピーしました