スポーツ賭博と飲酒行動の経時的変化

アルコール

はじめに

大谷翔平選手の元通訳である水原一平氏のスポーツ賭博の事件は記憶に新しいところです。近年、アメリカではスポーツ賭博が急速に普及し、10%から30%の成人が過去1年間にスポーツ賭博を行ったと報告されています。この現象は、2018年以降の法規制緩和によるものです。同時に、スポーツ賭博と飲酒行動の関連性が注目されています。特に、スポーツ賭博者が非賭博者や非スポーツ賭博者よりも頻繁に飲酒し、アルコール関連の問題を抱えるリスクが高いことが指摘されています。本論文は、スポーツ賭博の頻度とアルコール関連問題の経時的変化を2年間にわたって追跡し、その関連性を明らかにすることを目的としています。

研究デザインと方法

本研究は、2022年春から2024年春にかけて実施された2年間の縦断研究です。アメリカ全土から募集された2つのサンプル(一般成人2,806人とスポーツ賭博者1,557人)を基に、合計4,363人のベースラインサンプルを形成しました。参加者は6か月ごとに5回の調査に参加し、スポーツ賭博の頻度とアルコール関連問題を評価しました。

スポーツ賭博の頻度は、特定の期間内の賭博回数を0(賭博なし)から6(1日複数回)のスケールで評価しました。アルコール関連問題は、国立薬物乱用研究所(NIDA)が改訂したAlcohol, Smoking, and Substance Involvement Screening Test 2(ASSIST-2)を使用して評価しました。これらのデータを基に、潜在成長曲線モデリング(LGC)を用いて、スポーツ賭博とアルコール関連問題の経時的変化を分析しました。

結果

分析の結果、アルコール関連問題は時間の経過とともに減少する傾向が見られました(傾き = -0.059; 95% CI, -0.090 to -0.028)。一方、スポーツ賭博の頻度には有意な変化は見られませんでしたが、その傾きには有意な分散が認められました(分散 = 0.024; 95% CI, 0.013 to 0.034)。さらに、スポーツ賭博の頻度とアルコール関連問題の軌跡は独立しておらず、強い正の相関関係がありました。つまり、一方が増加すると他方も増加する傾向があることが示されました。

考察

本研究の結果は、スポーツ賭博と飲酒行動が密接に関連していることを示しています。特に、スポーツ賭博者が飲酒を伴う場合、時間の経過とともにアルコール関連問題が増加するリスクが高いことが明らかになりました。これは、スポーツ賭博がアルコール依存症やその他の健康問題を引き起こす可能性があることを示唆しています。

また、スポーツ賭博と飲酒行動の関連性は、文化的背景にも深く根ざしています。例えば、大谷翔平選手の元通訳である水原一平氏の事例を考えると、スポーツ賭博が個人の生活に与える影響は計り知れません。水原氏のケースでは、スポーツ賭博が経済的、精神的に大きな影響を与えたことが報道されていますが、本研究はそのようなリスクを定量的に示すものです。

新規性と既存研究との比較

これまでの研究では、スポーツ賭博と飲酒行動の関連性が指摘されていましたが、その経時的変化を詳細に追跡した研究は限られていました。本研究は、2年間にわたる縦断データを基に、これらの行動がどのように変化するかを明らかにした点で新規性があります。特に、スポーツ賭博の頻度とアルコール関連問題の軌跡が独立しておらず、強い相関関係があることを示した点は、今後の介入策を考える上で重要な知見です。

実践的な示唆

本研究の結果から、スポーツ賭博者が飲酒を伴う場合、アルコール関連問題のリスクが高いことが明らかになりました。したがって、スポーツ賭博者に対するスクリーニングや介入策が重要です。具体的には、定期的なアルコール使用の評価や、必要に応じて専門家によるカウンセリングを提供することが推奨されます。また、スポーツ賭博者が飲酒を控えるための教育プログラムや支援策を導入することも有効です。

限界

本研究にはいくつかの限界があります。まず、データが自己報告に基づいているため、バイアスが生じる可能性があります。また、調査間隔が6か月と比較的長いため、瞬間的な関連性を捉えることができませんでした。さらに、クロスラグ効果(ある時点でのアルコール関連問題が次の時点でのスポーツ賭博に影響を与えるなど)や、異なるグループ間の軌跡の違いを検証していない点も今後の研究課題です。

結論

本研究は、スポーツ賭博の頻度とアルコール関連問題の軌跡が密接に関連していることを明らかにしました。スポーツ賭博者が飲酒を伴う場合、時間の経過とともにアルコール関連問題が増加するリスクが高いため、早期のスクリーニングと介入が重要です。今後の研究では、瞬間的な関連性や異なるグループ間の軌跡の違いをさらに探求することが求められます。

参考文献

Grubbs, J. B., Connolly, A. J., Graupensperger, S., Kim, H. S., & Kraus, S. W. (2025). Sports Gambling and Drinking Behaviors Over Time. JAMA Psychiatry. doi:10.1001/jamapsychiatry.2025.0024

この解説を通じて、スポーツ賭博と飲酒行動の関連性について深く理解し、実践的な対策を講じるための一助となれば幸いです。

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