高強度・長時間運動による不整脈:誰がどのくらい生じやすいのか?

身体活動

はじめに

私たちが健康を維持し、生命の躍動を感じるために行う「運動」という行為。しかし、その恩恵と表裏一体にあるリスクについて、私たちはどれほど正確に理解しているでしょうか。特に、エリートアスリートではない、いわゆる「レクリエーション層」の熱心な市民アスリートたちが、数時間にも及ぶ高強度・長時間運動(ハイボリューム・エクササイズ)に挑む際、その心臓の内部では何が起きているのか。2025年にJournal of the American Heart Associationに掲載されたWundersitz氏らによる研究は、9日間という異例の連続心電図モニタリングを通じて、運動に伴う不整脈の「時間的推移」という未知の領域に光を当てました。

この研究は、私たちが慣れ親しんだ「運動は体に良い」というパラダイムに、微細かつ重要な修正を迫るものです。

研究プロトコールの概要(PECO)

本研究の構造を整理します。

P(対象者):34名のレクリエーション・サイクリスト。平均年齢52.0歳(±12.7歳)、サイクリング経験中央値12年、週平均走行距離199kmという、非常に活動的な市民アスリートです。一般的な健康診断や運動負荷試験は全員がクリアしています。

E(曝露):最大6時間のサイクリング(固定式のサイクルエルゴメーター)。強度は心拍予備能(HRR)の約80パーセントという高強度に設定され、50分の運動と10分の休息を6回繰り返す形式で行われました。運動中の平均は毎分138拍(±14拍)でした。

C(比較):運動実施の4日前(ベースライン)および運動終了後の4日間(回復期)。

O(アウトカム):5誘導ホルター心電図による9日間の連続記録。国際コンセンサス基準に基づく「異常不整脈」※の発生頻度と、その時間的推移を主要評価項目としています。

※「異常不整脈」とは、アスリートの心電図解釈に関する国際コンセンサス基準(International recommendations for electrocardiographic interpretation in athletes)に基づき、さらなる精査(追加調査)が必要であると定義されたものを指します 。

具体的には、以下の項目が「異常不整脈」として分類されています。

1. 心房性不整脈(Atrial Arrhythmias)

  • 上室性頻拍(SVT): 発作性上室性頻拍を含みます 。
  • 心房細動・心房粗動: 発作的または持続的なものを含みます 。

2. 心室性不整脈(Ventricular Arrhythmias)

  • 心室性二連発(Couplets): 心室期外収縮が2回連続したもの 。
  • 心室性三連発(Triplets): 心室期外収縮が3回連続したもの 。
  • 非持続性心室頻拍(NSVT): 3拍以上続く心室性の頻拍で、自然に停止するもの 。

3. 期外収縮の過度な負担(High Burden)

心房期外収縮(PAC)および心室期外収縮(PVC)の負担: 全心拍サイクル(1日あたり)の10パーセントを超えた場合、高負担(High burden)として異常とみなされました 。

既存研究に対する新規性「9日間連続モニタリング」

これまでの研究の多くは、マラソン大会の直後や、24時間程度の断続的なモニタリングに基づいた「スナップショット」に過ぎませんでした。不整脈は極めて一過性であり、消散しやすい性質を持つため、これでは運動の前後に起きる真の変化を捉えきれません。本研究の最大の新規性は、運動の4日前から4日後までを完全にカバーする「9日間連続モニタリング」を完遂した点にあります。これにより、不整脈が運動によって誘発される一時的なものなのか、それとも日常的に潜在しているものなのかを初めて明確に区別することが可能になりました。

参加者の68%に異常不整脈

研究結果は、私たちの予想を遥かに上回るものでした。9日間のモニタリング期間全体を通じて、参加者の68%(34名中23名)に、国際基準で「異常」と定義される不整脈が確認されたのです。この数値は、過去のマラソンランナーやスキーヤーを対象とした研究(0%から27%程度)と比較して極めて高いものです。この差を生んだのは、おそらく対象者のレベルの違いではなく、モニタリングの「長さ」です。短時間の記録では見逃されていた不整脈が、長時間監視によって浮き彫りになったことを示唆しています。全期間で記録された心拍サイクル数は合計28,196,142回に及び、そのうち278,632回(0.99%)が不整脈として分類されました。

9日間のうちいつ異常不整脈が出ていたのか?

異常不整脈全体の発生割合について、1日ごとの統計的な有意差は認められませんでしたが(P=0.232)、数値としては運動当日にピークを迎えています。

  • 運動当日(Day 0): 38パーセント
    • 34名中13名に異常が認められました 。
    • この13名のうち、4名は運動前、6名は運動中、9名は運動後の時間帯に異常を経験しました(一部重複あり) 。
  • 運動前(Day -4 〜 -1): 約18パーセント 〜 24パーセント
    • 日別の発生人数は6名(17.6%)から8名(23.5%)の間で推移しました 。
  • 運動後(Day +1 〜 +4): 約21パーセント 〜 32パーセント
    • 日別の発生人数は7名(20.6%)から11名(32.4%)の間で推移しました 。

運動の催不整脈作用:運動当日の心室性不整脈の増加

上室性不整脈は増加しない

不整脈の種類によって、その挙動は大きく異なりました。心房性不整脈(上室性頻拍や心房細動など)については、運動当日と前後で有意な発生率の変化は見られませんでした。しかし、注目すべきは心室性不整脈です。

心室性不整脈が増加する

異常な心室性不整脈(心室性二段脈、三段脈、非持続性心室頻拍など)を経験した参加者の割合は、運動当日に有意に上昇しました。具体的には、運動当日の心室性不整脈の発生率は、運動前のベースライン期間や、運動の翌日(回復1日目)と比較して統計的に有意な高値を示しました。つまり、高強度の長時間運動は、心室に対して直接的かつ急性的な催不整脈作用(不整脈を引き起こす作用)を及ぼしていることがデータで証明されたのです。

運動当日のいつ異常不整脈が出ていたのか?

運動当日に異常なリズム(二連発やNSVTなど)が確認された13名の参加者のうち、発生したタイミング(重複あり)は以下の通りでした 。

  • 運動前:4名
  • 運動中:6名
  • 運動後:9名

データが示す通り、運動中よりも運動後の時間帯に初めて、あるいは改めて不整脈が出現した人の方が多かったのです 。これは、心臓への負荷の影響が運動をやめた瞬間に終わるのではなく、その後のリカバリー期(夜間を含む)まで尾を引いていることを意味しています。

「運動誘発性不整脈」のリスクの予見:運動前の日常的な不整脈

さらに本研究は、どのような個体が「運動誘発性不整脈」を起こしやすいのかという予測因子を特定しました。

運動前の日常的な不整脈

最も強力な指標となったのは、運動前の日常的な不整脈の有無です。
運動前のベースライン期間において、異常な不整脈が3日以上観察された人は、運動当日に異常な不整脈を経験する相対リスク(RR)が5.0(95%信頼区間2.1から12.0)という極めて高い値を示しました。一方で、事前の4日間で一度も不整脈がなかったグループとの比較では、事前不整脈が1日でもあればリスクは2.2倍2日以上なら3.2倍と、段階的に上昇していました。

・運動前の異常不整脈が1日:リスク2.2倍
・運動前の異常不整脈が2日:リスク3.2倍
・運動前の異常不整脈が3-4日:リスク5.0倍

運動前の心室性期外収縮(PVC)の数

事前の心室性期外収縮(PVC)の数も有意な相関を示しました。
運動当日に異常な不整脈が確認された群では、事前の24時間あたりのPVC発生数の中央値が11回(四分位範囲:4回から83回)であったのに対し、当日に異常がなかった群ではわずか1回(四分位範囲:1回から2回)でした 。この統計的有意差(P<0.05)は、日常的に発生しているごく少数のPVCであっても、それが将来の運動誘発性不整脈の「火種」となり得ることを示唆しています 。

加齢

また、加齢(P = 0.05)も有意な相関を示しました。これは、年齢を重ねた市民アスリートにとって、高強度運動が心臓の電気的安定性を揺さぶる大きな負荷になり得ることを示唆しています。

心筋ストレスの分子生物学的・生理学的洞察

本研究では、不整脈の発生メカニズムについても、バイオマーカーの動向から深い示唆を与えています。

高感度心筋トロポニン(hs-cTn)上昇

血液検査の結果、高感度心筋トロニン(hs-cTn)の濃度は、運動前の4.0 pg/mL(中央値)から運動直後には15.0 pg/mLへと有意に上昇しました。これは心筋細胞への微細なダメージや透過性の変化を反映しています。

高感度C反応性タンパク(hs-CRP)上昇

また、炎症マーカーである高感度C反応性タンパク(hs-CRP)は、24時間後にピーク(0.35 mg/Lから8.65 mg/Lへ上昇)に達し、48時間後も高値を維持しました。

イオンチャネルへの影響

分子生物学的な視点では、心室不整脈の発生は、細胞内のカルシウム・サイクリングの乱れや、ナトリウムチャネルの調節不全、あるいは細胞外カリウム濃度の変動など、イオンチャネル・レベルでのゆらぎが関与していると考えられます。本研究では電解質飲料の摂取により、カリウムやナトリウム、マグネシウムなどの血中濃度は安定して保たれていましたが、それにもかかわらず不整脈が増加した事実は、全身の電解質バランスよりも、心筋細胞レベルでの局所的な血行動態ストレス(特に右心室への過負荷)やカテコラミン分泌の増大が、電気的乱流を引き起こしている可能性を強く支持しています。

右心室への影響

右心室は、その壁の薄さとコンプライアンスの低さから、高強度の持久運動中の血行動態的ストレスに対して脆弱であり、これが心室性不整脈の源泉となる「アキレス腱」となっていることが、近年のスポーツ循環器学でも議論されています。

運動誘発性不整脈は危険なのか?

本研究において、運動中に心停止に至るような致死的なイベントは発生しませんでした。確認された不整脈の多くは、短時間で自然に消失する「自己完結型(Self-resolving)」のものでした 。
しかし、医学的な視点、そして本論文の著者らが提示している懸念は、「それらが今すぐに命を奪わなかったとしても、将来的な重大なリスクを予見する『静かな警告』ではないか」という点にあります。

予後に関する懸念:統計が示す相関性

「出たけれど、すぐに消えたから大丈夫」と言い切れない根拠が、過去の膨大なデータを分析したメタ解析にあります。

  • 心血管死との関連: 複数のメタ解析によれば、運動中、特に「運動直後の回復期」に発生する心室性不整脈は、将来的な心血管死のリスク増加と関連していることが報告されています 。
  • 突然死の背景: 予期せぬ心臓突然死の約半分は、心室性不整脈が原因であるとされており、運動による一時的な出現を軽視できない背景があります 。

エリートアスリートとレクリエーション層の決定的な違い

「プロの選手でも不整脈は出るし、それは心臓の適応(スポーツ心臓)だ」という意見もあります。しかし、本研究が対象としたレクリエーション・サイクリストには、より慎重な解釈が求められます。

  • 潜在的な疾患リスク: プロ選手に比べ、レクリエーション層は加齢や生活習慣に伴う「未診断の心血管疾患リスク」を抱えている可能性が高いことが指摘されています。
  • 適応か病変か: 高度に訓練されたアスリートで見られる不整脈は、良性の生理的適応である場合がありますが、一般の熱心な愛好家で見られる同様の不整脈が、同じように良性であるという確証はまだありません 。

最新の専門家コンセンサス(2024年)

2024年に発表された「Heart Rhythm Society(心臓不整脈学会)」のエキスパート・コンセンサス・ステートメントは、この問題に明確な立場を取っています。

  • 精査の必要性: 運動中または運動後に現れる複雑な異所性心拍(連発など)や高い不整脈負担は、リスクの増大を示す可能性があり、たとえアスリートであってもさらなる評価(精査)が正当化されると強調しています。
  • 症状の誤認: レクリエーション層では、不整脈による症状が出ていても、それを「激しい運動による当然の疲れや動悸」と誤解して見逃してしまうリスクがあります。

「臨床的重要性の不確実性」という限界

一方で、論文内でも誠実に述べられている通り、これらの一過性の不整脈がどれほど臨床的に重要なのかについては、現時点では「不確実(Uncertain)」です 。

  • 過剰診断のリスク: 連続的なモニタリングで多くの不整脈が見つかるようになると、実際には無害なものまで「異常」とされ、不必要な心理的ストレスや、過剰な検査・治療を招く(偽陽性)リスクも存在します。
  • 今後の課題: これらの不整脈が本当の病気の前兆なのか、あるいは無害なものなのかを切り分けるには、今回の参加者を長期間にわたって追跡調査する(縦断的調査)必要があります。

潜在的リスクの可能性

今回の研究結果から得られる結論は、「運動誘発性不整脈は即座に死を招くものではないが、心臓が悲鳴を上げている、あるいは潜在的なリスクが顕在化したサインである可能性がある」ということです。

特に「加齢」「事前の不整脈の多さ」「6時間を超えるような極端な運動量」が重なった際にリスクが跳ね上がる事実は、明日からのトレーニングにおける「無理の境界線」を再考する十分な根拠となります。

本研究の限界(Limitation)

本研究の解釈には慎重さも必要です。

第一に、サンプルサイズが34名と小規模であることです。
第二に、参加者の70.6%が男性であり、女性におけるタイムコースが同様であるかは不明です。
第三に、対象者の多くがマスターズ世代(35歳以上が91%)であり、若い世代への一般化には注意を要します。また、運動中の心機能を直接評価する心エコーなどは実施されておらず、右心室の機能低下と不整脈の直接的な因果関係については、あくまで推論の域を出ません。
最後に、観察された不整脈は短時間で自律的に解消するものが大半であり、これらが長期的に予後(突然死や心不全のリスク)にどう影響するかについては、さらなる追跡調査が必要です。

明日からの行動指針

この論文から得られる知見は、決して「運動を控えるべきだ」という悲観的なものではありません。むしろ、情熱を持ってスポーツに取り組む私たちが、より賢明に自分の体と対話するための指針です。

  1. 自分の「ベースライン」を知る:運動当日の不整脈リスクを最も正確に予測するのは、日常の心臓の状態です。大きなイベントや過酷なトレーニングを控えている方は、スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスを活用し、安静時や日常生活の中での不整脈(動悸の自覚がない場合も含めて)の頻度を把握してください。
  2. 48時間のリカバリーを重視する:炎症マーカーであるhs-CRPが24時間から48時間後まで高値を示すという事実は、心臓が物理的なダメージから回復するには最低でも2日間を要することを示しています。高強度運動の翌日に再び高強度の負荷をかけることは、電気的に不安定な心臓をさらに追い込む行為となります。
  3. 年齢に応じた「質の高い」スクリーニング:40代後半から50代以降のサイクリストは、一般的な健康診断の心電図(わずか数秒の記録)だけで安心せず、長時間のモニタリングや負荷心電図など、持久系スポーツ特有のリスクを考慮したスクリーニングを専門医のもとで検討すべきです。
  4. 違和感に対する敏感さを養う:本研究で示された不整脈の多くは、自覚症状を伴わないものでした。しかし、運動中や運動後の異常な疲労感、わずかな胸の違和感、あるいは回復の遅れを感じた場合は、それを「単なる疲れ」と片付けず、心臓からの微細なサインとして受け止める知性を持ってください。

私たちは、心臓という精緻なポンプに支えられてペダルを回しています。そのポンプの限界を知り、適切にメンテナンスすることこそが、生涯にわたってスポーツを愉しむための、唯一無二の道なのです。

参考文献

Wundersitz, D. W. T., Collins, B. E. G., Gordon, B. A., Lavie, C. J., Orchard, J., Blair, N., Nadurata, V., & Kingsley, M. I. C. (2025). Time Course of Cardiac Arrhythmia Following High-Volume Exercise in Recreational Cyclists. Journal of the American Heart Association, 15, e044378. DOI: 10.1161/JAHA.125.044378

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