はじめに
受動喫煙は、他人の喫煙によって発生する煙(主に副流煙+呼出煙)を、本人が非喫煙者として吸い込む曝露です。重要なのは「自分が吸っていない」場合でも、煙に含まれる多数の有害化学物質(発がん物質、酸化ストレスを増やす物質、微小粒子など)への曝露が成立し、疾患リスクが統計学的に有意に上昇する点です。受動喫煙の健康影響を体系的に整理した近年の総説では、心血管、呼吸器、小児、妊娠関連など広範なアウトカムで関連が報告されています。
どの臓器・疾患に影響するか
がん:肺がん(非喫煙者でもリスク上昇が明瞭)
非喫煙者に限定した大規模な最新メタ解析(2024年、対象研究数が非常に多い)では、受動喫煙曝露がある非喫煙者は、肺がんリスクが 相対リスク 1.24(95%CI 1.16–1.32) と推定されています。曝露場所別でも自宅・職場などで上昇が示され、さらに曝露の期間・強度・累積量が増えるほどリスクが上がる(用量反応)ことが示されています。
→「受動喫煙は非喫煙者の肺がんに関して、関連の再現性と用量反応がそろっている」点が強いところです。
循環器:虚血性心疾患・心血管イベント
受動喫煙と循環器疾患についてのシステマティックレビュー/メタ解析では、受動喫煙曝露が虚血性心疾患などの循環器アウトカムの増加と関連することがまとめられています(例:複数研究を統合して、罹患・死亡いずれも相対リスク上昇が示される)。
さらに、日本の大規模前向きコホート(JPHC Study、非喫煙者)でも、受動喫煙(家庭・職場等)の曝露と心血管イベント(心筋梗塞・脳卒中など)の関連が検討されています。
※循環器のポイントは、「リスク増加の相対値が肺がんほど大きく見えないことが多い」一方で、母数が大きいため集団全体の疾病負担が大きくなり得る点です(受動喫煙対策の公衆衛生上の意義)。
不整脈:心房細動
近年、受動喫煙曝露と新規心房細動の関連を検討する研究も出ています。たとえば2025年の論文(HeartRhythm Open)では、受動喫煙曝露とincident AFの関連が検討されています。
→ただしこの領域は、肺がんや虚血性心疾患ほど「因果推論が固い」とは言い切れず、今後の追試やメカニズム研究の積み上げが重要です。
血圧・高血圧 (2026年メタ解析)
2026年のシステマティックレビュー/メタ解析(PeerJ)では、非喫煙成人で受動喫煙曝露が高血圧リスク増加と関連するとまとめています。
- 横断/症例対照:統合効果 1.20(95%CI 1.08–1.34)
- コホート:統合効果 1.17(95%CI 1.11–1.25)
さらにサブ解析では、週3回以上や10年以上など、頻回・長期曝露でリスクが目立つ可能性が示されています。
※著者ら自身が、非ランダム化研究であること・異質性・出版バイアスの懸念などから、全体の確実性を「低い」と評価している点も重要です(“関連”をどう解釈するかは慎重に)。
妊娠・胎児:早産リスク(2025年メタ解析)
妊娠中の受動喫煙(環境タバコ煙)曝露と早産の関連をまとめた2025年のシステマティックレビュー/メタ解析では、受動喫煙曝露が早産のオッズ上昇(OR 1.21、95%CI 1.14–1.29)と関連すると報告されています。
小児:喘息との関連(メタ解析)
小児では、受動喫煙曝露と喘息(あるいは喘鳴・気道症状)の関連を扱うメタ解析があり、家庭内のタバコ煙曝露が喘息リスクと関連する推定が示されています。
→小児は「体重当たりの換気量が大きい」「気道が細い」「家庭内曝露が長くなりやすい」などの理由で、同じ環境でも影響を受けやすい集団として位置づけられます。
なぜ病気が増えるのか
受動喫煙には微小粒子状物質や酸化ストレス関連物質などが含まれ、炎症・酸化ストレス・血管内皮機能障害・血栓傾向といった、心血管・呼吸器疾患に共通する病態基盤を刺激し得ます。近年の総説でも、こうした経路が健康影響の説明枠組みとして整理されています。
また、肺がんリスクに関しては、受動喫煙が“発がん物質を含む煙への曝露”であること、さらに用量反応が示されることが、因果性を支持する重要な要素です。
臨床・生活での実践ポイント(「避け方」の現実解)
- 分煙や換気では不十分になり得る:室内で喫煙がある限り、曝露ゼロは難しいため、基本は屋内全面禁煙が最も確実です。
- 家庭内対策が重要:職場が禁煙でも、家庭・車内での曝露が残ると、総曝露量は下がりません。
- 妊婦・小児のいる家庭は特に優先度が高い:早産や小児喘息など、影響を受けやすいアウトカムがあるためです。
限界(limitation)
受動喫煙研究の多くは観察研究で、曝露評価(自己申告・同居家族の喫煙など)や交絡(社会経済因子、住環境など)の影響を完全に除くのは難しい側面があります。特に高血圧のメタ解析では、著者らが確実性を低く評価している点が明記されています。
一方で、肺がんについては対象研究数が非常に多く、用量反応を含めて再現性が強い推定が示されています。
参考文献
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