携帯型および装着型心電計は、心疾患の早期発見や不整脈の診断において重要な役割を果たしています。これらのデバイスは、患者の生活の質を向上させるだけでなく、医療従事者にとっても診断の精度を高めるための強力なツールとなっています。ここでは、「2024 年日本不整脈心電学会 / 日本循環器学会 携帯型 / 装着型心電計の適切使用に関する コンセンサスステートメント」をもとに、リード付き、貼付型、着衣型、手操作型、スマートフォン連携型、スマートウォッチ型の各心電計の特徴とその使い分けについて解説します。
リード付き携帯型心電計
リード付き携帯型心電計は、古典的なホルター心電図として知られ、通常は2誘導または3誘導で心電図を記録します。これらのデバイスは、24時間以上の長時間記録が可能であり、心房細動や虚血性心疾患の診断において高い精度を誇ります。特に、12誘導心電図を記録することができる機種では、QT時間やQT/RR比、QT分散の計測が可能であり、心室不整脈の起源を特定するための重要な情報を提供します。
特徴
・記録時間: 最大7日間の連続記録が可能。
・精度: 高サンプリング(1,000 Hz)による詳細な解析が可能。
・自動トリガー機能: 徐脈や頻脈、期外収縮を自動的に認識し、無症候性不整脈の検出を支援。
このように、リード付き携帯型心電計は、特に不整脈の頻度が高い患者や、心疾患のリスクがある患者に対して有用です。
貼付型心電計
貼付型心電計は、皮膚に直接貼り付けて使用するデバイスで、最大14日間の連続記録が可能です。これにより、日常生活における心電図波形を長期間にわたって記録することができ、発作性心房細動や無症候性不整脈の検出に特に効果的です。
特徴
・装着の容易さ: リード線を使用せず、患者の装着負担を軽減。
・防水性能: 多くの機種が防水設計であり、入浴時でも使用可能。
・イベントボタン: 患者が症状を感じた際にボタンを押すことで、エピソードをマークできる。
貼付型心電計は、特に心房細動のスクリーニングにおいて、心房細動の頻度が1日15%以下の場合に高い精度を示します。
着衣型心電計
着衣型心電計は、電極を組み込んだ専用のウェアを使用することで、通常の衣類と同様に着脱が可能です。このデバイスは、長期間の心電図記録が必要な症例において、特に有用です。
特徴
・長期間の記録: 最大14日間の連続記録が可能。
・患者の快適性: 着衣型であるため、日常生活に支障をきたさずに使用できる。
・リアルタイム分析: 記録した心電図のリアルタイム分析が可能で、迅速なデータ収集と診断を実現。
着衣型心電計は、特に発作性心房細動の検出や、無症候性不整脈の検出において高い効果を発揮します。
手操作型心電計
手操作型心電計は、患者が自分で心電図を記録するためのデバイスで、特に症状が出た際に迅速に心電図を取得することができます。これにより、発作時の心電図を記録することが可能です。
特徴
・簡便性: 患者自身が必要に応じて心電図を記録できる。
・短時間記録: 通常は30秒程度の記録が可能で、症状が出た際に迅速に対応できる。
・多誘導記録: 一部の機種では、疑似的に6誘導心電図を算出することができる。
手操作型心電計は、特に動悸や不整脈の症状を自覚している患者にとって有用です。
スマートフォン連携型心電計
スマートフォンを利用した心電計は、手軽に心電図を記録し、保存することができるデバイスです。これにより、患者は自宅で簡単に心電図を取得し、医療従事者と情報を共有することが可能です。
特徴
・アプリ連携: 専用アプリを使用して心電図を記録し、解析結果を表示。
・携帯性: 小型で持ち運びが容易で、いつでもどこでも心電図を記録できる。
・データ共有: 記録した心電図を医療従事者と簡単に共有できる。
スマートフォン連携型心電計は、特に心房細動のスクリーニングや、日常的な心電図のモニタリングに適しています。
スマートウォッチ型心電計
スマートウォッチ型心電計は、日常的に身に着けることができるデバイスで、心拍数を常時モニタリングし、異常があれば通知する機能を持っています。
特徴
・常時モニタリング: 着用しているだけで心拍数を測定し続ける。
・簡易な心電図記録: 特定の操作を行うことで心電図を記録できる。
・補助的な役割: 不整脈の診断には補助的に使用されるべきで、単独での診断には適さない。
スマートウォッチ型心電計は、特に不整脈の発見を補助する役割を果たしますが、医療機器としての使用には限界があります。
使い分けのポイント
これらの心電計は、それぞれ異なる特徴を持ち、使用目的に応じて使い分けることが重要です。以下に、各デバイスの使い分けのポイントを示します。
・リード付き携帯型心電計: 不整脈の頻度が高い患者や、心疾患のリスクがある患者に適している。
・貼付型心電計: 心房細動のスクリーニングや、長期間の心電図記録が必要な症例に有用。
・着衣型心電計: 日常生活に支障をきたさずに長期間の記録が必要な場合に適している。
・手操作型心電計: 発作時に迅速に心電図を取得したい患者に最適。
・スマートフォン連携型心電計: 自宅で簡単に心電図を記録し、医療従事者と情報を共有したい患者に適している。
・スマートウォッチ型心電計: 日常的な心拍数のモニタリングや、不整脈の早期発見を補助する役割を果たす。
結論
携帯型および装着型心電計は、心疾患の早期発見や不整脈の診断において重要な役割を果たしています。各デバイスの特徴を理解し、適切に使い分けることで、患者の健康管理をより効果的に行うことが可能です。今後も、これらの技術の進化により、心電図の取得がさらに容易になり、心疾患の早期発見が促進されることが期待されます。
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参考文献
池田隆徳, 芦原貴司, 岩﨑雄樹, 大野真紀, 鍵山暢之, 木村雄弘, 草野研吾, 河野律子, 朔啓太, 笹野哲郎, 妹尾恵太郎, 髙月誠司, 髙橋尚彦, 髙見充, 中野由紀子, 橋本賢一, 藤生克仁, 藤野紀之, 水野篤, 吉岡公一郎, 渡邉英一. (2024). 携帯型 /装着型心電計の適切使用に関するエキスパートコンセンサスステートメント. 心電図, 44(4), 275-304.