健康的な食事:2025-2030年アメリカ食事ガイドラインの進歩と課題

食事 栄養

はじめに

米国政府が5年ごとに更新する「Dietary Guidelines for Americans(DGA)」は、単なる栄養の指針ではありません。学校給食、WIC(女性・乳児・子ども向け特別補助栄養プログラム)、軍の給食、そして連邦栄養プログラムや臨床ガイドラインの基盤となるほか、食品産業や外食産業の製品開発にまで影響を与えています。これほど広範な影響力を持つDGAですが、その科学的根拠と政策的実行力には依然として大きなギャップがあると、本論文では鋭く指摘されています。

2025–2030年版DGAの基礎となるのが、独立した専門家委員会(DGAC)による報告書です。Mozaffarian博士は、この報告書の画期的な点と、それでもなお残る課題について詳細に解説しています。


アメリカ人の栄養摂取の現状:深刻な乖離

DGAC報告書は、アメリカ人の食事が健康推奨から大きく逸脱している現状を明確に示しています。特に注目すべきは以下のデータです。

  • 全粒穀物の摂取不足:アメリカ人のわずか2%が「穀物の少なくとも半分を全粒穀物で摂取する」という現行の推奨を達成しています。一方、93%が精製穀物を過剰に摂取しています。これらの精製穀物(小麦粉、白米、トウモロコシスターチなど)は、血糖を急上昇させる一方で、腸内マイクロバイオームを育む食物繊維やポリフェノール、ビタミン・ミネラルをほとんど含まないことが問題です。
  • 栄養豊富な食品の不足:果物、野菜、豆類、ナッツ、全粒穀物、乳製品、魚介類の摂取が全体的に不足しています。
  • 過剰摂取の問題:加工肉、赤身肉、糖質入り飲料の消費量が依然として高い水準にあります。

これらのデータは、栄養政策が「何を減らすか」というメッセージを強化する必要性を示唆しています。


植物性 vs. 動物性タンパク質:科学的根拠の再考

DGACは、心血管健康の観点から「植物性タンパク質を動物性タンパク質よりも優先すべき」と結論付けました。この推奨は、加工されていない赤身肉や加工肉を豆類、レンズ豆、ナッツ、種子、大豆に置き換えることで心血管リスクが低下するというエビデンスに基づいています。

しかし、この結論には重要なニュアンスがあります。

  • 乳製品、鶏肉、卵、魚を植物性タンパク質で置き換えた場合の健康効果は確認されていません。
  • アメリカ人の90%以上はすでに十分なタンパク質を摂取しており、タンパク質の「量」よりも「質」が焦点となるべきです。

分子生物学的には、植物性タンパク源には食物繊維やポリフェノールが豊富に含まれるため、腸内細菌叢の多様性を促進し、炎症マーカーを低下させる可能性があります。一方、動物性タンパク源には必須アミノ酸やビタミンB12、ヘム鉄が含まれるため、完全な排除は推奨されません。

実践的なアドバイス

  • 加工肉(ベーコン、ソーセージなど)を週に1回以下に減らし、代わりに豆類やナッツを活用しましょう。
  • 魚や無糖ヨーグルトなどの健康的な動物性食品もバランスよく摂取することが重要です。

乳製品の脂肪含有量:長年の誤解の解明

従来の食事ガイドラインでは、飽和脂肪および全脂肪乳製品は心血管リスクの主要因とされてきました。しかし、DGACの新たな評価では、「高脂肪 vs 低脂肪乳製品」による体重、血圧、血中脂質、心血管疾患リスクの有意な差は認められませんでした。

特に、全脂肪乳製品を含む食事パターンが2型糖尿病リスクの低下と強く関連しているというエビデンスは注目に値します。にもかかわらず、DGACは「より強い証拠が必要」として、全脂肪乳製品の再評価を見送りました。この判断に対して筆者は、「無罪推定の原則」が守られていないと批判しています。

分子栄養学的に見ると、乳脂肪には短鎖および中鎖脂肪酸、CLA(共役リノール酸)、乳脂肪球膜(MFGM)といった、代謝・免疫・脳機能に好影響を与える成分が含まれており、単に脂肪量だけでリスクを語る時代は終わりを告げつつあります。

実践的なアドバイス

  • 無脂肪乳ではなく、無添加の全脂肪乳やギリシャヨーグルトを選びましょう。
  • 乳製品の脂肪含有量に過度にこだわる必要はありません。

超加工食品(UPFs):公衆衛生上の緊急課題

DGAC報告書で最も議論を呼んだテーマの一つが、超加工食品(Ultra-Processed Foods, UPFs)です。UPFsはアメリカ人の食事の60%(成人)から70%(子供)を占めています。Nova分類を用いた82の前向きコホート研究のレビューでは、UPFの高摂取が以下のような健康問題と関連していました:

  • 肥満、体脂肪増加
  • 心血管リスク上昇(高血圧・脂質異常症)
  • 炎症性腸疾患(IBD)
  • 抑うつや精神疾患
  • 妊娠中の体重増加や血糖上昇
  • 全死亡率の上昇

にもかかわらず、DGACは「定義の不統一性」や「限定的エビデンス」を理由に、明確な削減提言を避けました。著者は、そもそも定義の異なる研究をメタ解析に含めたこと自体が問題であり、Nova分類に基づく厳密な再評価が必要であると主張しています。

分子生物学的には、UPFには構造変化によって「食物マトリックス」が破壊され、消化吸収速度が異常に高くなっている点、腸内細菌叢に悪影響を及ぼす添加物や乳化剤、包装材からの化学汚染物質など、複数の健康リスクが指摘されています。

実践的なアドバイス

  • 食品ラベルを確認し、成分表が長く、理解できない添加物が多い食品は避けましょう。
  • 可能な限り、未加工または最小限の加工食品(例:新鮮な野菜、未加工の肉・魚)を選びましょう。

研究の限界と今後の課題

DGAC報告書には以下の限界があります。

  1. UPFsの定義の曖昧さ:Nova分類に基づく研究とそうでない研究が混在し、結論にばらつきが生じました。
  2. 産業界の影響:食品業界のロビイングが政策決定に影響を与える可能性があります。
  3. 社会経済的格差への配慮不足:健康的な食品のアクセスと経済的負担についての議論が不十分です。

結論:明日から始める行動指針

本論文から導き出せる実践的なポイントは以下のとおりです:

  1. 朝食や間食に「全粒穀物(オートミール、全粒パン)」や「ナッツ類(無塩)」を取り入れる。
  2. 精製穀物(白パン、白米)を全粒穀物に置き換える。
  3. 夕食では、赤身肉の代わりに豆類やレンズ豆をメインディッシュに使う。
  4. 加工肉の代わりに豆類やナッツを摂取する。
  5. 飲み物は、加糖飲料ではなく、水・お茶・炭酸水を選ぶ。
  6. ヨーグルトや牛乳は「全脂肪プレーン」を選び、低脂肪・加糖タイプを避ける。
  7. パッケージに「低脂肪」「ダイエット」「ファットフリー」と書かれた食品は、成分表示を確認し、UPFでないかを見極める。超加工食品の摂取を減らし、未加工食品を増やす。

参考文献

Mozaffarian D. The 2025-2030 Dietary Guidelines—Time for Real Progress. JAMA. 2025;333(13):111-112. doi:10.1001/jama.2025.0410

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