揚げ物が身体に悪いメカニズム;腸内細菌叢、肥満・心代謝疾患の関連

消化器科

はじめに

日常的に食卓に並ぶ「揚げ物」は、その手軽さと嗜好性の高さから多くの人々に親しまれています。しかしその一方で、心血管疾患や糖尿病などの生活習慣病との関連が繰り返し指摘されてきました。これまでの疫学研究は、揚げ物摂取と肥満やメタボリックシンドロームとの関連を示唆してきましたが、そのメカニズムは必ずしも十分に解明されていません。

これまで示唆されている、揚げ物の摂取が健康アウトカムを悪化させるメカニズムの代表的なものを挙げます。これらは複合的に作用し、肥満、糖尿病、心血管疾患、脂肪肝、慢性炎症などのリスクを高めると考えられています。

カロリー密度の上昇によるエネルギー過剰摂取

  • 揚げ物は調理過程で多量の油を吸収し、同じ食材であっても茹でや蒸しに比べてはるかに高カロリーになります。
  • 例:生のじゃがいも100gは約80kcalですが、フライドポテトにすると300kcalを超えます。
  • 高カロリー食の継続は正味のエネルギー摂取を増加させ、正のエネルギーバランス → 脂肪蓄積 → 肥満へとつながります。

酸化脂質やトランス脂肪酸の摂取

  • 揚げ物に使用される油は高温加熱により酸化・分解され、過酸化脂質やアクリルアミド、ポリマー化合物を生成します。
  • 酸化脂質やトランス脂肪酸は血管内皮機能を障害し、炎症を促進することが報告されており、動脈硬化や心血管リスクを高めます。
  • トランス脂肪酸はLDLを上昇させ、HDLを低下させるという典型的なアテローム性脂質プロファイルを形成します。

終末糖化産物(AGEs:Advanced Glycation End Products)の生成

  • 高温調理によりタンパク質や糖が反応しAGEsが産生されます。特に油脂と糖が反応しやすい揚げ物では大量に含まれます。
  • AGEsはRAGE(受容体)と結合することで、慢性炎症、酸化ストレス、インスリン抵抗性を促進します。
  • AGEsはまた、血管壁や腎臓、網膜などの組織にも蓄積しやすく、糖尿病合併症や心血管疾患の促進因子になります。

腸内細菌叢の変化と腸管バリア障害

  • 揚げ物に含まれる酸化脂質やAGEsは腸内細菌叢の構成を変化させることが報告されています。
  • 今回ご紹介する論文でも、Veillonella, Lachnospiraceae などの属レベルで揚げ物摂取と関連した細菌の変化が見られました。
  • 結果として腸管透過性が上昇し、腸管由来のエンドトキシン(LPS)が全身に流出→慢性低度炎症を引き起こす可能性があります(メタ炎症)。

中枢満腹・報酬機構の破綻

  • 揚げ物は「高脂肪・高塩分・高エネルギー」という報酬性の高い食性を持ち、ドーパミン系やオピオイド系の活性化を通じて摂取を促進します。
  • このような食品は満腹中枢の制御を回避して過食を招きやすく、食行動の自己制御低下や依存的摂取につながる可能性があります。

インスリン抵抗性の誘導

  • 高脂肪食(特に飽和脂肪酸やトランス脂肪酸を含む食事)はインスリンシグナルの阻害や脂肪酸の毒性(lipotoxicity)を介してインスリン抵抗性を誘導します。
  • 結果として、高インスリン血症、耐糖能異常、2型糖尿病の発症へと進展するリスクが増加します。

肝臓への影響:非アルコール性脂肪肝(MASLD)との関連

  • 高カロリーかつ高脂質の食事は、肝臓における中性脂肪の蓄積を促進し、MASLD(旧NAFLD)を引き起こします。
  • 本論文でもFMIとMASLDのオッズ比は1.21と有意であり、腸内環境変化を介して肝疾患への影響が示唆されました。

今回ご紹介する研究では、上記の腸内細菌叢の変化に関するものです。
「揚げ物摂取が腸内細菌叢に与える影響」と「その変化が肥満や心代謝疾患の発症リスクにどう関与するか」に焦点を当て、2つの中国大規模コホートを対象に詳細な解析が行われました。

研究デザインと手法

本研究は、WELL-Chinaコホート(6,637名)とLanxiコホート(3,466名)の合計10,103名から得られた横断および縦断データを用いて構成されています。いずれも18歳以上の成人を対象としており、平均5〜6年の追跡が行われました。

腸内細菌叢の解析には糞便から抽出したDNAを用いて16S rRNAのV3–V4領域をシーケンスし、属レベルでの分類を行っています。

また、25種の腸内細菌属をもとに、揚げ物摂取頻度(月1回未満、月1-3回、月4回以上)との関連が強い細菌群を指標化した「Fried-food-related Microbiota Index(FMI)」が開発されました。

肥満の指標にはBMIに加え、DEXAスキャン(二重エネルギーX線吸収測定法)によるandroid-gynoid脂肪比(AOI)などの詳細な体脂肪分布も用いられました。

※ アンドロイド脂肪(腹部脂肪),ギノイド脂肪(臀部・大腿部脂肪),その比率(A/G比)

結果:揚げ物と腸内細菌叢の関係

注目すべきは、揚げ物摂取頻度が腸内細菌叢の構成(β-ダイバーシティ(多様性))と有意に関連していた点です。WELL-ChinaコホートではR²=0.00035、P<0.001、Lanxi都市部コホートではR²=0.00127、P=0.002という結果が示されました。これにより、揚げ物が腸内細菌のα多様性(微生物の豊富さ)というよりも「構成」;β多様性(微生物組成の違い)に影響する可能性が明確となりました。

さらに、25属の細菌(例:Lachnospiraceae, Veillonellaなど)が揚げ物摂取頻度と関連し、これらをまとめたFMIは、摂取頻度が月1回未満の群と比べ、月4回以上の群で有意に高くなっていました(β=0.21, 95% CI: 0.14–0.29)。

FMIと肥満・脂肪分布

FMIは、全体的な肥満(BMI)と中央部脂肪蓄積(AOI)の双方と有意に関連していました。メタ解析により以下のような関係が示されています:

  • BMI:β=0.26(95% CI: 0.19–0.32)
  • 腰囲:β=0.79
  • ウエスト・ヒップ比:β=0.43
  • AOI:β=1.48
  • Gynoid脂肪率:β=–0.23(負の相関)

この結果は、FMIの高い腸内細菌叢が腹部脂肪の蓄積に強く関与している可能性を示唆します。実際、FMIとAOIの関連はBMIを調整した後も有意であり、単なる肥満よりも脂肪の分布の偏りが心代謝リスクに直結することが改めて強調されました。

FMIと心代謝疾患の関連

FMIの上昇は、横断的・縦断的の両面から心代謝疾患との関連が明確に確認されました。横断解析では、以下のようなオッズ比が報告されています:

  • 高血圧:OR=1.09
  • 脂質異常症:OR=1.12
  • メタボリックシンドローム:OR=1.21
  • 糖尿病:OR=1.28
  • MASLD(非アルコール性脂肪肝病):OR=1.21

縦断解析においても、FMIの1 SD増加ごとに糖尿病(HR=1.16)、MACE(心筋梗塞、脳卒中、心不全を含む主要有害心血管イベント)(HR=1.16)の発症リスクが有意に上昇しました。

さらに、FMIとこれら疾患との関連は、BMIやAOIを共変量として調整した際にやや減弱し、腸内細菌叢の影響が脂肪分布を介して疾患に波及していることが示唆されました。

兄弟比較解析から得られた新たなエビデンス

兄弟比較という手法を用いることで、家族共有の遺伝的背景や生活環境を調整した解析が可能となりました。Lanxiコホートの兄弟431名を対象とした解析でも、FMIと肥満・心代謝疾患の関連が再確認され、以下のような結果が得られました:

  • 糖尿病:OR=1.48(95% CI: 1.03–2.12)
  • メタボリックシンドローム:OR=1.27
  • 高血圧:OR=1.37

この設計により、関連性が単なる家族内の生活習慣の類似や遺伝によるものではなく、腸内細菌叢自体の影響である可能性がより強く支持されました。

新規性と臨床的意義

本研究の新規性は、揚げ物という単一の食品群に関連する腸内細菌叢を25属特定し、それらを集約したFMIという指標を開発し、肥満指標および心代謝疾患との関連性を詳細に示した点にあります。また、兄弟比較という解析手法を取り入れたことで、従来の観察研究では解明が難しかった遺伝要因の影響を一定程度除外した堅牢な知見が得られました。

臨床現場では、単に揚げ物を控えるという栄養指導にとどまらず、「腸内細菌叢を通じて脂肪分布や代謝疾患に影響を与える可能性がある」という生物学的裏付けを伴った説明が可能となり、患者の行動変容を促す説得力のある根拠となり得ます。

Limitation

本研究にはいくつかの限界があります。まず、揚げ物の調理法や使用油の種類(植物油か動物油か)、揚げ回数などの詳細な情報は収集されていませんでした。次に、16S rRNAによる属レベルの同定にとどまっており、メタゲノム解析のような機能的解釈には制限があります。また、MACEのサブタイプ(心不全、脳卒中など)ごとの検出力には限界がありました。加えて、観察研究の性質上、因果関係の確定はできません。そして、対象が中国人に限られているため、他の人種・文化圏への一般化には慎重を要します。


おわりに

本研究は、揚げ物摂取により変化する腸内細菌叢が、肥満や心代謝疾患と有意に関連することを、大規模な疫学的データと分子レベルの解析で明らかにしました。日々の食習慣が腸内環境を介して私たちの健康に長期的な影響を与えるという視点は、今後のパーソナライズド栄養指導や疾患予防戦略において極めて重要な意味を持ちます。まずは「週に何回揚げ物を食べているか」を見直すことから、個人の健康行動を変えていく第一歩が始まるかもしれません。

参考文献

Duan Y, Li Y, Xu C, et al. Fried food consumption-related gut microbiota is associated with obesity, fat distribution, and cardiometabolic diseases: results from 2 large longitudinal cohorts with sibling comparison analyses. Am J Clin Nutr. 2025. doi:10.1016/j.ajcnut.2025.06.025

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