社会の閉塞感
日本経済の不況、新型コロナウイルス感染症、戦争、、、などなど、社会の閉塞感が増強しています。
Twitter(現X)などのSNSでも、ネガティブな書き込み、それに対する非難、そして誹謗中傷、炎上などネガティブな面が目立つような気がします。
数年前のTwitterに関する研究を思い出しました。
SNSにネガティブな言葉を書き込む人たちが多いエリアの特徴は?
Twitterに書き込んだつぶやきと、その人がつぶやいた土地の疾病統計の関係を調べた論文。
Psychological language on Twitter predicts county-level heart disease mortality.
Psychol Sci. 2015 Feb;26(2):159-69.
アメリカ各地のTwitterのつぶやきを8億ほど収集し、そのうちつぶやいている場所(郡)を同定できた1億5000万ほどのつぶやきを解析。
怒り、ネガティブ感情、ネガティブ関係、不安、退屈などのネガティブな言葉たち、あるいは、ポジティブ感情やポジティブな関係、エンゲージメントなどのポジティブな言葉たちなどに分類しました。
一方で、CDC(米国疾病予防管理センター)や米国国勢調査局から、その郡の同時期の心疾患のデータや、人口統計、健康リスク因子を収集。双方を比較しました。
その分析結果は、、、、
Twitterの言葉と、つぶやいたエリアの死亡リスクとの関連
Twitterの言葉が、そこのコミュニティレベルの心理的特徴を示し、心臓病による死亡リスクと関連していました。
ネガティブな感情(特に怒り)や否定的な言葉は、そこの郡の心臓病による死亡リスクの増加と関連し、ポジティブな感情はリスクの低下と関連していました。
Twitterより予測される心臓病による死亡リスクは、タバコや糖尿病など代表的な危険因子よりも精度の高いものでした。
上記論文リンクでFig.3の地図を参照してもらいたいのですが(無料で全文読めます)、CDCによる郡別の心臓病による死亡率の分布と、Twitterより解析した郡別の心臓病による死亡率の分布の2つの図が大変似ているのです。
CDCのデータはコストも手間も大変かかるものです。一方、Twitterのデータ解析という、比較的安価で簡便な方法で、精度高く心臓病の死亡リスクを予測できうるということです。
ネガティブなつぶやきが健康を害する?
この論文の解釈の注意点は、ネガティブなつぶやきをした人が心臓病で亡くなるということではありません。ネガティブなつぶやきをしている人がたくさんいるエリアの人たちが心臓病で亡くなるリスクが相対的に高いということです。
ネガティブなつぶやきをしたくなるような社会、環境が、そこで生活する人々の健康を害するということなのでしょう。
また、過去の多くの研究から推測すると、ネガティブなつぶやきが、そのエリアの人の心臓を直接害する可能性もあると思います。
一方で、心臓病の素因のあるひとが、その病気のためにネガティブなつぶやきをしているという可能性も一部はあると思います。
最後に
Twitter(X)をはじめとするSNSではネガティブな書き込みがとても多い印象を受けます。少なくともそのような書き込みが大きいインパクトを有しています。
日本で、ネガティブな書き込みが多いとすると、それは日本社会の不健全さの反映です。現在の様々な社会背景で仕方がない面はありますが、一人一人が日本社会の立て直しのためにできることをやること、そして、ポジティブなことを自然と書き込み合えるような文化にしたいものです。ポジティブな書き込みは心臓病リスクの低下と関連しています。
SNSにおける議論はとても良いことです。感情に任せた非論理的な意見や誹謗中傷ではなく、お互いを尊重しつつ建設的な意見を冷静に交換したいです。
また、リアルなコミュニティすなわち、学校や、会社や、その他様々なコミュニティでも、ネガティブな発言や態度が多い環境は、そのコミュニティの不健全さ、ストレスを反映し、そこに属する人たちの健康状態の悪化につながるのかもしれません。各々が各コミュニティで、ポジティブな環境づくりを意識していければと思います。
【参考文献】
Eichstaedt JC, Schwartz HA, Kern ML, Park G, Labarthe DR, Merchant RM, Jha S, Agrawal M, Dziurzynski LA, Sap M, Weeg C, Larson EE, Ungar LH, Seligman ME. Psychological language on Twitter predicts county-level heart disease mortality. Psychol Sci. 2015 Feb;26(2):159-69. doi: 10.1177/0956797614557867. Epub 2015 Jan 20. PMID: 25605707; PMCID: PMC4433545.