はじめに:胎児プログラミングのパラダイムシフトと父親の責任
妊娠中の母親の食生活や健康状態が生まれてくる子どもの将来の健康を左右するという概念は、生活習慣病胎児期発症起源説(DOHaD((Developmental Origins of Health and Disease))仮説)として広く知られてきました。妊婦がバランスの良い食事を摂り、過度な体重増加を避け、禁煙や禁酒を徹底することは、今や社会的な共通認識となっています。しかし、生命の誕生において半分を担っている父親の生活習慣については、これまで見過ごされがちでした。
近年、父親の受胎前の健康状態や食生活が次世代の発育や代謝機能に影響を与えるという、父親由来の健康と疾患の発生起源説(POHaD(Paternal Origins of Health and Disease))が大きな注目を集めています。動物実験の知見からは、父親の高脂肪食や肥満が精子のエピジェネティックな変化を介して、子の代謝異常や体組成の変化を引き起こすことが示されてきました。しかし、ヒトを対象とした研究、とりわけ世界的に消費が拡大している超加工食品(UPF)の父親の摂取が、新生児の身体計測値や体脂肪にどのような影響を与えるかについての臨床研究はこれまで存在しませんでした。
今回ご紹介する研究は、父親の超加工食品摂取比率と生まれてきた新生児の体格パラメータとの関連を前向きに追跡した先駆的な論文です。これから子どもを授かることを考えている方や、プレコンセプションケアに関わるすべての方にとって、生活を見直す確かな契機となる知見が提示されています。
研究プロトコール概要とデザイン
本研究は、ブラジルの自治体におけるプライマリヘルスケアで実施された無作為化比較試験の対照群を活用した前向きコホート研究です。
研究デザイン:過体重妊婦を対象とした無作為化比較試験の対照群にネストされた前向きコホート研究
PECOのフレームワークに基づく研究概要は以下の通りです。
P(対象患者・集団):妊娠初期(15週6日以下)の過体重(BMI 25.0〜29.9 kg/m2)の妊婦、そのパートナーである成人男性、および出生した新生児
E(曝露要因):2回の24時間食事思い出し法によって評価された、父親の総エネルギー摂取量に占める超加工食品(NOVA分類グループ4)のエネルギー比率(UPF E%)
C(比較対照):父親における超加工食品のエネルギー比率が低い状態(連続変数としての線形比較)
O(主要評価項目):出生時の身体計測値(出生体重、身長、頭囲、ポンデラル指数)および生後早期の新生児身体計測値(各種皮脂厚、周囲長、予測式による体脂肪量)
超加工食品の定義と本研究の新規性
本研究で評価対象となった超加工食品は、食品加工の程度によって4段階に分類するNOVA分類において、最も加工度の高いカテゴリーに属する食品群を指します。丸ごとの食品から抽出・精製された物質(硬化油、分離大豆タンパク、異性化液糖など)を主原料とし、着色料、乳化剤、香料、増粘剤といった工業用添加物が加えられた製品群です。具体的には、清涼飲料水、菓子パン、スナック菓子、カップ麺、加工肉(ソーセージやベーコン)、冷凍食品などが該当します。
これまでの母子保健分野の研究では、母親の超加工食品摂取が妊娠糖尿病や妊娠高血圧腎症のリスクを高めることなどが報告されていましたが、新生児のアウトカムに対する父親の超加工食品摂取の影響を検証したヒト研究はありませんでした。父親の食事調査をNOVA分類と照らし合わせ、出生直後の新生児の複数部位の皮脂厚や体脂肪量まで測定して関連を検証した点が、本研究の際立った新規性です。
補足:NOVA分類
NOVA分類は、食品を栄養素ではなく「工業的な加工の目的と程度」によって4つのグループに分ける分類法です。
グループ1:未加工または最小限の加工食品
野菜、果物、肉、魚、卵、米、牛乳など、自然のまま、あるいは乾燥・粉砕・殺菌・冷凍など最小限の処理のみを行った食品です。
グループ2:加工された調理用素材
植物油、バター、砂糖、塩など、グループ1の食品を調理・味付けするために自然素材から圧搾・精製して作られた素材です。
グループ3:加工食品
野菜の缶詰、塩漬けの魚、シンプルなパン、チーズなど、グループ1の食品に塩や油、砂糖などを加えて保存性や風味を高めた食品です。
グループ4:超加工食品(ultra-processed food;UPF)
清涼飲料水、スナック菓子、カップ麺、菓子パン、加工肉(ソーセージやベーコン)など、複数の原材料を工業的に分解・再合成し、乳化剤、香料、着色料などの添加物を加えて作られた食品です。
研究の方法とデータ収集プロセス
本研究は、ブラジルのサンパウロ州リベイラン・プレト市にある7つの保健施設で、2018年から2021年にかけて実施されました。
過体重の妊婦を対象とした栄養カウンセリング介入試験に登録された350名のうち、対照群に割り付けられた妊婦のパートナーに参加を呼びかけました。最終的に、父親の食事データ、母親のデータ、および新生児の身体計測データのすべてが揃った43組の三者(triad)が主解析の対象となりました。
父親の食事摂取状況は、訓練を受けた栄養士が多段階法を用いて実施した2回の24時間食事思い出し法(1回目は対面、2回目は非連続日に電話で実施)によって評価されました。父親の調査が行われた時期の平均母体妊娠週数は15±6週(範囲:8〜36週)であり、受胎前後の生活習慣を反映する代理指標として位置づけられました。得られた食事データから、欧州対がん前向き調査(EPIC)で開発された統計ソフトウェアを用いて、日常的な総摂取エネルギーに占める超加工食品のエネルギー比率(UPF E%)を算出しました。
新生児の評価は、生後早期(主に生後3〜5日目、最大28日目まで)の初回小児科受診時または踵穿刺テストの際に実施されました。デジタル体重計や水平型乳児身長計、非伸縮性メジャーを用いて、体重、身長、頭囲、胸囲、上腕周囲長、腹囲を測定しました。さらに、高精度キャリパー(Harpenden)を用いて、上腕二頭筋、上腕三頭筋、腸骨稜上部、肩甲骨下部、大腿部の5箇所の皮脂厚を2回測定し、その平均値を採用しました。新生児の全身の体脂肪量(FM)は、空気置換型プレチスモグラフィ(PEA POD)との妥当性が確認されているvan Beijsterveldtらの身体計測予測式を用いて算出されました。
統計解析では、有向非巡回グラフ(Directed acyclic graph,;DAG)を用いて交絡因子を理論的に選定し、過剰調整やバイアスを排除した重回帰分析モデルを構築しました。調整因子には、父親の年齢、教育年数、社会経済クラス、身体活動時間、現在の喫煙状況、過去30日間のアルコール摂取、母体の妊娠中体重増加率、および計測時の新生児日齢が含まれました。
統計データが示す父親の食事の影響
解析対象となった父親の年齢中央値は30歳(25パーセンタイル:25歳、75パーセンタイル:34歳)で、体重中央値は80 kg、BMI中央値は26 kg/m2でした。父親の39.5%が過体重、20.9%が肥満に分類されました。母親の年齢中央値は26歳であり、試験のデザイン上、全員が過体重でした。
父親の食事における超加工食品由来のエネルギー比率(UPF E%)の平均は30±15%であり、母親の平均である26±9%よりも高い値を示しました。興味深いことに、同一世帯で生活しているにもかかわらず、父親と母親の超加工食品摂取割合の間に統計的に有意な相関は見られませんでした(相関係数 r = −0.24、p = 0.11)。父親がよく口にしていた主な超加工食品は、ソーセージ、ベーコン、加糖飲料、クッキーであったのに対し、母親ではハンバーガー、調理済み食品、袋入りスナック、冷凍フライドポテトが主でした。
父親の超加工食品摂取比率と新生児の身体計測パラメータが有意な正の関連
交絡因子を調整した多変量線形回帰モデルにおいて、父親の超加工食品摂取比率の高さは、新生児の複数の身体計測パラメータと正の有意な関連を示しました。
出生体重:父親のUPF E%が1%高くなるごとに、出生体重が12.81 g増加しました(偏回帰係数 β = 12.81、95%信頼区間:2.55〜23.10、p = 0.02、決定係数 R2 = 0.28)。
出生時ポンデラル指数:体重と身長の3乗比から算出される体格指数であるポンデラル指数に対しても、有意な正の関連が認められました(β = 0.051、95%信頼区間:0.004〜0.098、p = 0.04、決定係数 R2 = 0.24)。
腸骨稜上部皮脂厚:体幹部の皮下脂肪の指標である腸骨稜上部皮脂厚も、父親のUPF E%と有意に正相関しました(β = 0.02、95%信頼区間:0.02〜0.04、p = 0.03、決定係数 R2 = 0.54)。
大腿部皮脂厚:四肢の皮下脂肪の指標である大腿部皮脂厚についても、有意な正の関連が確認されました(β = 0.03、95%信頼区間:0.01〜0.06、p = 0.01、決定係数 R2 = 0.67)。
新生児の全身の体脂肪量は有意な関連なし
一方で、予測式を用いて推定された新生児の全身の体脂肪量(FM)に対しては、統計的に有意な関連は認められませんでした(β = 0.005、95%信頼区間:−0.001〜0.012、p = 0.11、決定係数 R2 = 0.27)。また、出生時の身長や頭囲、出生体重のZスコアとの間にも有意な関連は見出せませんでした。
母親の超加工食品摂取比率と新生児の出生体重は逆相関
さらに注目すべき対比として、母親の食事における超加工食品摂取の影響が挙げられます。妊娠初期(16週未満)の母親のUPF E%は、父親とは正反対に、出生体重(β = −22.36、95%信頼区間:−37.96〜−6.77、p = 0.001)および出生時ポンデラル指数(β = −0.075、95%信頼区間:−0.145〜−0.006、p = 0.03)と有意な負の相関(逆相関)を示しました。
父親のジャンクフード摂取が増加すると出生体重が重くなり皮下脂肪が増加する傾向があるのに対し、母親の摂取は胎児発育を抑制する方向に働くという、父母間で全く異なる作用が浮き彫りになりました。
分子生物学的視点:エピジェネティクスとシグナル伝達の関与
父親が口にした食事が、なぜ母体を介さずに新生児の出生体重や皮下脂肪の厚みに影響を及ぼすのでしょうか。この現象を説明する機序として、精子を介したエピジェネティックな情報伝達が有力視されています。
インスリン様増殖因子2(IGF-II)遺伝子の発現調節
第一の機序は、インスリン様増殖因子2(IGF-II)遺伝子の発現調節です。胎児期の骨格形成や組織増殖において中心的な成長促進因子として機能するIGF-IIは、ゲノムインプリンティングにより父親由来のアレルのみから発現する特徴的な遺伝子です。
過去のコホート研究(NESTコホートなど)において、父親の肥満やファストフードなどの不健康な食事摂取が、精子や新生児の臍帯血白血球におけるIGF-IIのメチル化調節領域のパターン変化と関連することが示されています。
超加工食品(UPF)がIGF-II遺伝子の発現調節に影響を与える背景には、UPFに含まれる栄養素や工業的成分が引き起こす複数の分子生物学的・生化学的プロセスが存在します。
論文の考察および関連する先行研究で指摘されている主な要因は以下の通りです。
- 高飽和脂肪酸・高精製糖による代謝ストレスとエピゲノム修飾
UPFに過剰に含まれる飽和脂肪酸や果糖・異性化糖は、体内でインスリン抵抗性や高血糖を誘導します。先行研究(TIEGER研究など)では、ポテトチップスやピザといった高脂肪・高糖質のジャンクフード摂取頻度が高い男性の精子において、IGF-II調節領域(DMR:差次メチル化領域)のDNAメチル化パターンに変化が生じることが確認されています。 - 活性酸素種(ROS)と全身性・精巣内の慢性炎症
UPFに乏しい抗酸化物質(ビタミン類、ポリフェノール、食物繊維)と過剰な脂質・糖の組み合わせは、体内の酸化ストレスを増大させます。精巣微小環境で発生した活性酸素種(ROS)は、精子形成過程におけるDNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)の活性やヒストン修飾に異常をきたし、インプリンティング遺伝子であるIGF-IIのメチル化消去・再確立の正確なプログラミングを乱します。酸化ストレスによって、胎児の成長遺伝子(IGF-II)のスイッチが狂うのです。 - 1炭素代謝(メチル基供与体)のアンバランス
DNAメチル化にはS-アデノシルメチオニン(SAM)を介したメチル基の供給(葉酸、ビタミンB12、コリン、ベタインなどが関与する1炭素代謝)が必須です。UPF中心の食事はこれらの微量栄養素が不足しがちであり、ゲノムインプリンティング領域の正常なメチル化維持を阻害する要因となります。 - 食品添加物および包装材由来の内分泌撹乱物質
UPFに多用される乳化剤や人工添加物、プラスチック容器・包材から溶出する可塑剤(フタル酸エステルやビスフェノール類など)は内分泌撹乱作用を持ちます。これらが精巣内の受容体シグナルやDNAメチル化酵素に直接干渉し、IGF-IIを含む成長関連遺伝子のエピジェネティックな制御を狂わせることが知られています。
IGF-IIは父親由来のアレルのみが発現するゲノムインプリンティング遺伝子であるため、父親の受胎前の栄養状態や炎症環境によって精子DNAのメチル化状態が変化すると、受精後の胚や胎盤におけるIGF-IIの発現量が直接増減し、胎児の成長・体格プログラミングに影響を及ぼすと考えられています。
超加工食品による慢性炎症と酸化ストレス
第二の機序は、超加工食品が引き起こす全身性の慢性炎症と酸化ストレスです。超加工食品には飽和脂肪酸、精製糖、各種乳化剤や化学添加物が豊富に含まれており、これらは腸内環境を悪化させ、体内の活性酸素種(ROS)の産生を促進します。精巣内の過剰な酸化ストレスは、精子の運動率や生存率を低下させるだけでなく、精子DNAの過剰な断片化や、精子に含まれる低分子非コードRNA(microRNAなど)のプロファイルを劇的に変化させます。つまり、酸化ストレスによって、精子内のmicroRNAやDNA全体、細胞機能が広範に傷つくという網羅的なメカニズムが働きます。
これらのエピジェネティックなシグナルが受精卵に持ち込まれることで、初期胚の発生プログラムや代謝経路が再編成され、新生児期の体格や脂肪蓄積パターンに持続的な影響を与えていると考えられます。
父親の過体重そのもの(BMI)と出生体重との関連は?
父親の過体重そのもの(BMI)と出生体重との関連については、過去の解析で独立した正の相関が消失していたことから、単なる父親の肥満という表現型以上に、超加工食品そのものが持つ栄養の質の低下や炎症誘導能が、直接的にエピゲノムを書き換えている可能性が示唆されます。
研究の限界点(Limitation)
本研究の解釈にあたっては、いくつかの限界点を考慮する必要があります。
サンプルサイズの小ささ:COVID-19パンデミックに伴う7か月間の調査中断や、父親側の参加同意率の低さにより、最終的な解析対象が43組にとどまりました。これにより統計的検出力が制限され、信頼区間が広くなり、中等度以下の効果を検出できなかった可能性があります(第2種の過誤)。
食事調査のタイミング:受胎前の食事を直接測定することは倫理的・実務的に困難であったため、妊娠中に聴取した食事データをプレコンセプション期の代理指標として使用しています。2回の24時間思い出し法では、長期的な食習慣を完全に反映できていない可能性があります。
体組成測定の手法:新生児の体脂肪量の評価において、ゴールドスタンダードである空気置換型プレチスモグラフィ(PEA POD)による直接測定ではなく、皮脂厚を用いた予測式による間接的推定を行っています。
対象集団の限定性:本研究の母体はすべて過体重の女性であり、社会経済クラスや教育水準も特定の分布を示しています。標準体重の女性のパートナーなど、一般的な母集団全体への外挿には慎重である必要があります。
多重検定に伴う偶然の可能性:多くの身体計測パラメータを同時に検証しているため、統計的な偽陽性が含まれている可能性を排除できません。
明日から実践できるプレコンセプション・アクション
本研究の知見は、妊娠や出産を控えている男性、そしてそれをサポートする医療従事者にとって、日々の行動を具体的に見直す強力な根拠となります。
加工肉やスナック菓子を控え、未加工の自然食品を選ぶ
父親の超加工食品の主要な摂取源となっていたソーセージ、ベーコン、加糖飲料、クッキーなどの頻度を減らし、肉や魚、野菜、果物、豆類といった未加工または最小限の加工にとどまる食品(NOVA分類グループ1)を中心とした食生活へシフトします。
夫婦二人三脚でのプレコンセプションケア
妊娠に向けた生活習慣の改善は女性だけの課題ではありません。男性側の精子形成サイクルは約74日を要するため、受胎を希望する少なくとも2〜3か月前から夫婦で同時に食生活の改善に取り組むことが、次世代の健やかな発育を支える確実な土台となります。
超加工食品の栄養表示に目を向ける
食品を購入する際、原材料表示を確認し、家庭の台所には存在しないような化学添加物、異性化糖、加工油脂が多用されている食品を意識して避ける習慣を身につけます。日々の総摂取エネルギーに占める超加工食品の割合を減らすことが、精子の質の維持と将来の子どもの体格プログラミングの適正化につながります。
おわりに
父親が何を食べているかという情報は、精子のDNA配列そのものを変えることはなくとも、エピゲノムという遺伝子のスイッチの入り方を介して、確実に次世代へと受け継がれています。母親の胎内環境と同じように、父親の受胎前の栄養環境もまた、子どもの健康な人生のスタートを形作る決定的な要素です。まずは今日の食事から、超加工食品を減らし、質の高い栄養を身体に取り入れる一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
参考文献
Carvalho MR, Miranda DEGA, Baroni NF, Santos IS, Carreira NP, de Lima MC, da Roza DL, Crivellenti LC, Sartorelli DS. A higher paternal ultra-processed food consumption is directly associated with parameters of neonatal anthropometry. Nutrition Research 2026;151:16-25. doi:10.1016/j.nutres.2026.04.015.

