心室頻拍に対する心外膜アクセス:冠静脈穿刺とCO₂注入


はじめに

心室頻拍(VT)に対するアブレーション治療は、電気生理学の進歩とともに確実な治療選択肢として位置付けられてきました。しかし、心筋瘢痕を基盤とするVTでは、しばしば心内膜アプローチのみでは不十分であり、心外膜(エピカルジアル)からのアプローチが必要とされることがあります。本稿では、Juliáらが多施設共同レジストリに基づいて報告した、冠静脈(coronary vein)からの意図的穿孔とCO₂注入によって心膜腔を展開する新しいエピカルジアルアクセス技術の有効性と安全性について、臨床的意義とともに詳述します。


背景と問題意識

従来の心外膜アクセスは、剣状突起下からの「dry puncture」による方法が主流でしたが、その手技には6〜25%の合併症リスクが報告されており、特に右室穿刺が最も頻度の高い合併症とされています。これは、穿刺対象があくまで「仮想的な空間(virtual space)」である心膜腔であるため、針先の可視化が困難であることに起因します。

これに対し、Juliáらは冠静脈の側枝を意図的に穿孔し、CO₂を注入して心膜腔を一時的に拡張することで、可視化された空間へと変換し、安全な穿刺を可能にする技術を開発しました。本研究は、この技術を用いた102例の多施設共同レジストリによって、その臨床的妥当性を検証したものです。


技術的アプローチ

本技術では、まず右房経由で冠静脈洞(coronary sinus)をカニュレーションし、側枝にアクセスします。JR4カテーテルを用いて適切な枝を選択し、その遠位部を高先端荷重のガイドワイヤー(例:Asahi Confianza Pro 12)で穿孔します。この穿孔を通じて、マイクロカテーテルを心膜腔内に進め、そこから1気圧下で50〜150 mlのCO₂を注入します。

この手順により、心膜層が分離して透視下で明瞭に描出され、安全な穿刺が可能になります。穿刺には18GのChiba針を使用し、CO₂の逸脱を防ぐ工夫として、ワイヤーを予め針に装着する方法や、Y型コネクタによる閉鎖回路化が採用されました。


結果の概要

本技術は、以下のような極めて高い成功率と良好な安全性プロファイルを示しました。

  • CV exit成功率:99%(101/102例)
  • CO₂注入による心膜層分離成功率:97%(99/102例)
  • 右室穿刺:0例
  • 重大な心膜出血(>80 ml):5例(4.9%)
  • 手術介入例:0例

興味深いことに、心膜癒着の存在はCO₂の拡散不良として透視下で即時に診断可能であり、不要な穿刺を回避するためのスクリーニング的意義もあります。これにより、心膜癒着のある患者における外科的アクセスへの早期切り替え判断が可能となるのです。

また、合併症として心膜炎は5例(4.9%)に発生し、うち1例はDressler症候群としてステロイド治療を要しました。CO₂による除細動閾値の上昇が懸念されるものの、本研究では臨床的な問題は報告されていません。


実践における工夫と注意点

本研究から得られる実践的知見は多岐にわたります。

  • 穿孔部位は静脈の遠位部が望ましい:近位部での穿孔は出血量が増える傾向にあります。
  • 抗凝固薬の影響を考慮:穿孔前のヘパリン投与は出血リスクを高めるため、穿孔後に抗凝固を行うことが推奨されます。
  • 癒着の診断はカテーテル操作時の抵抗感で予測可能:マイクロカテーテルやガイドワイヤーの進行時に抵抗を感じた場合、局所癒着を疑い、造影で確認することが有用です。

従来法との比較と意義

Sosa法など従来のdry puncture技術では、RV穿刺の頻度は3〜17%と報告されていますが、本技術では完全にゼロであった点は極めて注目に値します。また、手技時間(平均248分)や透視時間(平均45分)は従来法と比較して遜色なく、安全性を損なわずに手技的負担を増やさないことが示されています。

さらに、この手法は学習曲線が短く、初学者でも高い成功率を実現できた点から、今後エピカルジアルアブレーションの普及における重要なツールとなる可能性があります。


明日からの実践

本手技は、以下のような臨床的判断や実践に役立ちます:

  • 高リスク症例(非虚血性心筋症、Brugada症候群など)では、初回からのエンド・エピカルジアル同時アプローチの選択肢となる
  • 心膜癒着が疑われる症例では、CO₂拡散不良で早期に診断し、外科的介入を検討できる
  • 術者が新たにエピカルジアルアブレーションプログラムを開始する際にも、安全な導入技術として選択肢に入りうる

おわりに

冠静脈穿孔とCO₂注入を組み合わせたエピカルジアルアクセス技術は、従来の手技における最大のリスクであるRV穿刺を事実上排除し、安全性と再現性を両立した革新的手法です。

参考文献

Juliá J, Bokhari F, Uuetoa H, et al. A New Era in Epicardial Access for the Ablation of Ventricular Arrhythmias: The Epi-Co2 Registry. JACC Clin Electrophysiol. 2021;7(1):85–96. doi:10.1016/j.jacep.2020.07.027

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