体脂肪率はBMIより優れた指標:若年成人における身体組成と死亡率 

医療全般

はじめに

日常診療で最もよく使われる身体指標の一つが、体格指数(BMI: Body Mass Index)です。簡便で費用がかからず、各種ガイドラインや健康診断にも広く組み込まれていることから、医療者や一般の人々にとっては馴染み深い指標といえます。しかし、BMIは単に体重と身長から算出される値であり、体脂肪と筋肉の比率、脂肪分布、さらには内臓脂肪と皮下脂肪の違いを捉えることができません。そのため、筋肉質な人を「肥満」と誤分類する可能性や、逆に「正常体重」でも高い体脂肪率を持つ「隠れ肥満(normal weight obesity)」を見逃す可能性が指摘されてきました。

今回紹介する研究は、米国の全国代表サンプルを用いて、BMIと体脂肪率(BF%)、およびウエスト周囲径(WC)が15年間の死亡リスクとどのように関連しているかを比較検証したものです。対象は20〜49歳の若年成人であり、予防医療やリスク評価のあり方を根本から見直すべきことを示唆しています。


研究デザインと方法

本研究は、米国のNational Health and Nutrition Examination Survey(NHANES)1999〜2004年のデータを基に、15年間の追跡データ(National Death Index)を用いて実施されました。対象者は4,252人(男性2,821人、女性1,431人)で、年齢は20〜49歳です。

主要評価項目は15年間の全死亡率、心疾患死、がん死であり、年齢・人種・貧困状態を調整したCox比例ハザードモデルを用いて解析が行われました。

BMI

体格指数(BMI)は、体重(キログラム)を身長(メートル)の二乗で割って算出されます(kg/m²)。

BMIの分類は以下の通りです。

  • 健康的なBMI:18.5〜24.9 kg/m²
  • 過体重・肥満:25 kg/m²以上

体脂肪率

体脂肪率(BF%)は、当時のBIA(bioelectrical impedance analysis 生体電気インピーダンス分析)技術によって測定されました。BIAは、体内に微弱な電流を流し、そのインピーダンスをもとに脂肪量を推定する方法であり、RJL Systems社のQuantum IIを使用し、四肢に電極を装着して全身のインピーダンスを測定しました。

体脂肪率の閾値は、2022年の系統的レビューに基づいて設定され、

  • 不健康なBF%:男性で27%以上、女性で44%以上

と定義されました。

ウエスト周囲径

ウエスト周囲径は、男性で40インチ(102cm)、女性で35インチ(89cm)を超えると不健康とされました。

(参考)ウエスト周囲径の測定手順
(1) 測定部位の定義
  • 基準点:
    • 腸骨稜(ちょうこつりょう、上前腸骨棘)の最上部と肋骨弓(第12肋骨)の最下縁の中間点。
    • 被験者が直立した状態で、自然な呼吸時に測定します(呼気時や吸気時ではない)。
(2) 測定テクニック
  1. 体位: 直立姿勢で両腕を軽く体側に下ろし、足を肩幅に開く。
  2. テープの位置:
    • 非伸縮性のメジャーを皮膚に直接当て、水平を保ちます。
    • 皮膚を圧迫せず、また緩みがないように調整。
  3. 呼吸タイミング: 安静呼吸の呼気終了時に測定(腹部の動きによる誤差を最小化)。
(3) 記録:
  • 1mm単位まで記録し、2回測定して平均値を採用(差異が1cm以上の場合、3回目を実施)。

結果:体脂肪率と死亡リスクの明確な関連

分析の結果、体脂肪率(BF%)とウエスト周囲径(WC)は、BMIよりもはるかに強く死亡リスクと関連していることが明らかとなりました。

  • 全死亡率に対する調整後ハザード比(HR)は、
    • BF%:1.78(95% CI: 1.28–2.47, P < 0.001)
    • WC:1.59(95% CI: 1.12–2.26, P = 0.009)
    • BMI:1.25(95% CI: 0.85–1.84, P = 0.268)→統計的有意性なし
  • 心疾患死亡率に対しては、
    • BF%:3.62(95% CI: 1.55–8.45, P = 0.003)
    • WC:4.01(95% CI: 1.94–8.27, P < 0.001)
    • BMI:2.23(95% CI: 0.83–5.95, P = 0.110)→統計的有意性なし

一方、がん死亡率においてはいずれの指標も有意な関連を示しませんでした。

また、Kaplan-Meier曲線による15年間の生存分析でも、BF%とWCは明確な生存率の差を示したのに対し、BMIではその差が小さく、Log-rank検定のP値も0.05とぎりぎりの水準でした(BF%とWCはP < 0.01)。


なぜBF%は優れているのか

BMIは体脂肪の量や分布を反映できない単純な計算値であり、特に筋肉量の多い人では「過体重」と誤診されることが少なくありません。さらに、「隠れ肥満」状態ではBMIが正常範囲でもBF%が高く、糖尿病や心血管疾患リスクが顕著に増加することが知られています。

一方、BF%は直接的に脂肪量を評価する指標であり、特に心血管疾患の根幹にある内臓脂肪の蓄積とも関連が深いです。分子生物学的には、内臓脂肪は炎症性サイトカイン(IL-6、TNF-αなど)や遊離脂肪酸の産生源であり、これらが慢性炎症やインスリン抵抗性、アテローム性動脈硬化を促進し、心血管疾患リスクを高めます。したがって、BF%は代謝的・炎症的リスクの代理指標として、より本質的な疾患リスクを捉えていると考えられます。


臨床応用と今後の展望

今回の研究では、25年前のBIA機器であっても、BMIを上回る予測力を示しました。現在では、多周波・四肢電極型の高精度なBIA(例:InBody、TANITA MCシリーズ)が普及しています。
予防医療の視点からも、BMIだけに頼らずBF%を含めた多面的な体組成評価を行うことで、より的確な生活指導や介入が可能になります。

実践的な応用

  1. 臨床現場でのBF%測定の導入
    • 生体電気インピーダンス分析(BIA)は、安価(約数万円)で迅速(1分未満)にBF%を測定可能です。日常診療に取り入れることで、より精度の高いリスク評価が可能になります。
    • 具体的な閾値:男性27%、女性44%を超える場合、生活習慣改善を強く推奨します。
  2. 患者へのアドバイス
    • 「BMIが正常でもBF%が高い『隠れ肥満』はリスクが高い」ことを伝え、体組成の定期的な測定を促します。
    • ウエスト周囲径のセルフチェック(男性40インチ/102cm、女性35インチ/89cm以下を目標)も有用です。
  3. 公衆衛生への応用
    • 健診項目にBF%を追加し、特に若年層のメタボリックシンドローム予防に活用します。

Limitation(限界)

  1. BF%の閾値がWHOなどで標準化されておらず、研究者独自の定義に基づいているため、他研究との直接比較には注意が必要です。
  2. 対象年齢が20〜49歳に限定されており、高齢者では異なる傾向がある可能性があります。
  3. 主要アウトカムが死亡に限定されており、罹患(例:糖尿病発症や心筋梗塞など)の評価は行っていません。
  4. 喫煙歴などのライフスタイル要因を調整していないため、交絡の可能性は完全には排除できません。

おわりに

BMIはこれまで診療に不可欠な指標として使われてきましたが、時代とともにその限界が明らかになりつつあります。本研究は、体脂肪率(BF%;body fat percentage)というシンプルながら本質的な指標が、若年成人において15年間の死亡リスクと強く結びついていることを実証しました。日常診療において、BMIだけでは見逃されていた“真のリスク保持者”を明らかにし、生活習慣指導や疾病予防の精度を高めるために、BF%の導入は極めて有意義であるといえるでしょう。

参考文献

Mainous AG III, Yin L, Wu V, et al. Body Mass Index vs Body Fat Percentage as a Predictor of Mortality in Adults Aged 20–49 Years. Ann Fam Med. 2025;23(4):online. doi:10.1370/afm.240330

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