100万人のデータから見るソーシャルメディア、SNSと睡眠の関係

Digital Health

はじめに

現代社会において、ソーシャルメディア、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)はもはや単なるコミュニケーションツールではなく、若年層のアイデンティティ形成や社会生活における不可欠なインフラとなっています。しかし、この利便性と引き換えに、私たちは人類が数百万年かけて培ってきた生体リズムを危機に晒しているのかもしれません。今回、2025年に発表された「若年層におけるソーシャルメディア利用と睡眠の質:レビューのスコーピング・レビュー」は、過去5年間に発表された膨大な系統的レビューとメタ分析を統合し、デジタル空間の活動がどのように睡眠という生命維持の根幹を蝕んでいるのかを冷徹に描き出しています。

研究プロトコール概要:約100万人のデータを俯瞰

本研究は、ArkseyとO’Malleyの5段階フレームワークに基づき実施されたスコーピング・レビューの形式を採っています。これは、個別の臨床研究を分析するのではなく、既存の「系統的レビュー」や「メタ分析」自体を網羅的に再検証することで、より高いエビデンス・レベルから現状を総括する手法です。

分析の対象となったのは、PubMed、Web of Science、Embase、Medline、Scopusといった主要な学術データベースから抽出された、2020年から2025年に公開された10件の主要レビューです。これらのレビューに含まれる研究の対象期間は1990年から2024年までと幅広く、参加者総数は少なくとも998,552人にのぼります。対象年齢は0歳から32歳までの小児、思春期、若年成人層であり、地域もアジア、ヨーロッパ、北米、オセアニア、アフリカ、南米と全地球規模を網羅しています。

本研究の新規性

これまでの研究の多くは、単一のSNS利用と睡眠時間の相関を調べるに留まっていました。しかし、本研究の新規性は、SNS利用を単なる「一般的な利用(General Use)」と、依存的で自己制御が効かない「問題のある利用(Problematic Social Media Use: PSMU)」の2層に峻別して分析した点にあります。さらに、プラットフォームごとのアルゴリズムやインタラクティブ性の違いが、睡眠の質(Sleep Quality)に与える影響の強弱を特定した点は、今後のデジタル・バイオロジーの研究における重要な足がかりとなります。

問題のある利用(PSMU)と一般的利用の境界線

本研究が明らかにした最も衝撃的な事実の一つは、SNSの利用時間が単に長いことよりも、その「質」が睡眠に与える影響が圧倒的に大きいという点です。

一般的な利用(General Use)

一般的利用、すなわち情報共有や社会的なネットワーキングを目的とした通常の利用では、睡眠障害との関連は小規模、あるいは有意ではないとする結果も散見されました。

問題のある利用(Problematic Social Media Use: PSMU)

しかし、中毒的要素を孕む「問題のある利用(PSMU)」においては、極めて一貫して強い負の相関が認められています。PSMUは、SNS中毒尺度などで測定される行動依存の側面を持ち、これがメンタルヘルス(うつ病や不安)を介して、あるいは直接的に睡眠の質を低下させることが示されました。つまり、単に「何時間見ているか」ではなく、「見ずにはいられない、コントロール不能な状態にあるか」が睡眠剥奪の主因となっているのです。

生体リズムと認知の不協和

スクリーンからの光曝露

論文内では、SNSが睡眠を阻害する経路として、いくつかの多角的なメカニズムが議論されています。まず、生体リズムの観点からは、スクリーンからの光曝露、特に短波長のブルーライトがサーカディアンリズム(概日リズム)を攪乱する可能性が指摘されています。ただし、興味深いことに、先行研究の一部(Heath et al. 2014)では、タブレット端末からの1時間の光曝露が睡眠潜時に与える直接的な影響は限定的であるとする反証も提示されています。

心理的な覚醒(Heightened Arousal)

これに対して、より有力視されているのが「心理的な覚醒(Heightened Arousal)」です。SNSのコンテンツは、ユーザーの感情を揺さぶり、脳を覚醒状態に置くように設計されています。ドーパミン報酬系を刺激する通知や、他者の反応を気にする心理状態が、入眠を妨げ、睡眠の深化を阻害します。

時間の置換(Time Displacement)

さらに「時間の置換(Time Displacement)」、つまり物理的にSNS利用が睡眠時間を侵食する現象が、若年層の脳発達に不可欠な睡眠を奪っている実態が浮き彫りになりました。

プラットフォーム別階層構造:FacebookとTwitter(現X)の突出したリスク

本研究のもう一つの特筆すべき知見は、プラットフォームごとに睡眠への影響力が異なることを定量的に示した点です。

分析の結果、FacebookとTwitter(現X)は、睡眠時間の短縮、就寝時間の遅れ、そして全体的な睡眠の質の低下に最も強い寄与を示しました。これに対し、SnapchatやInstagramの影響は中程度であり、WeChatやWhatsAppといったクローズドなメッセージングアプリの影響は最小限に留まりました。

Facebook・Twitter(現X):影響は「最大」

  • 睡眠への影響: 最も強い悪影響が認められています 。
  • 具体的な弊害: 睡眠時間の短縮、就寝時間の遅れ、そして睡眠の質の低下に最も寄与しています 。
  • 特徴: 不特定多数とのやり取りが多く情報の更新頻度が極めて高いため、心理的な覚醒(脳が興奮すること)を招きやすいと考えられています 。

Snapchat・Instagram:影響は「中程度」

  • 睡眠への影響: FacebookやTwitterほどではないものの、中程度の悪影響が認められています 。
  • 特徴: 視覚的なコンテンツ(画像や動画)を中心とした交流であり、これらも一定の心理的覚醒や、他人と自分を比較する心理を生じさせると指摘されています 。

WeChat・WhatsApp:影響は「最小」

  • 睡眠への影響: 睡眠への影響は最も小さく、ほとんど影響がない(little to no effect)とするデータもあります 。
  • 特徴: 特定の相手とやり取りする「クローズドなメッセージングアプリ」であるため、オープンなSNSに比べて不特定多数からの刺激が少なく、心理的な負担や過度な覚醒が抑えられていることが要因と考えられています 。

FOMO(Fear of Missing Out:取り残される恐怖)

プラットフォームの公開性とインタラクティブ性の程度により差異を産んでいると推測されます。FacebookやTwitterのような、不特定多数からの反応が常に流動し、情報の更新頻度が極めて高いプラットフォームほど、FOMO(Fear of Missing Out:取り残される恐怖)を増幅させ、夜間の覚醒度を高めてしまうのです。

パンデミックが浮き彫りにした社会環境的要因

COVID-19によるロックダウン期間中のデータ分析では、さらに複雑な動態が明らかになりました。外出制限下では、デジタル技術の利用が急増しましたが、強制的で長期的な孤独感がSNSへの依存(Compulsive Use)を加速させ、それがロックダウン中および解除後の深刻な睡眠障害に直結していました。特に制限の厳しかった国々ほど、SNS利用と睡眠障害の相関が強く現れており、外部環境のストレスがSNSを介して生体リズムに波及するプロセスが確認されています。

研究の限界(Limitations):因果のパラドックス

本研究は極めて質の高いメタ分析の統合ですが、いくつかの限界も存在します。まず、対象となった研究の多くが横断的研究(Cross-sectional study)であり、厳密な因果関係の特定が困難な点です。「SNSを過剰に利用するから眠れないのか」、あるいは「眠れないから孤独を紛らわすためにSNSを利用するのか」という双方向性の議論が残っています。

また、SNS利用時間の測定が自己申告(Self-report)に基づいている研究が多く、客観的なログデータとの乖離がある可能性も否定できません。地理的にもアジア、ヨーロッパ、北米に偏りがあり、アフリカや南米のデータが不足しているため、全地球的な普遍性を断定するにはさらなる蓄積が必要です。

明日からの実践:睡眠効率を19分改善する具体的介入

この広範なデータに基づき、私たちが明日から実践すべき知見は何でしょうか。論文内では、具体的な介入策の効果も引用されています。

モバイルデバイスを完全に遮断する「ライトアウト・ストラテジー」

最も効果的な介入の一つは、就寝の1時間前からスマートフォン等のモバイルデバイスを完全に遮断する「ライトアウト・ストラテジー」です。研究によれば、このシンプルな習慣を導入するだけで、思春期の若者は平均して就寝時間が17分早まり、総睡眠時間が毎晩19分増加することが示されています。

SNS=「デジタル薬理物質」として認識

私たちはSNSを単なる娯楽としてではなく、生体機能に干渉する「デジタル薬理物質」として認識すべきです。特に思春期の脳発達は睡眠に依存しており、この時期の睡眠剥奪は、意思決定能力の低下やリスク行動の増加(Agyapong-Opoku et al. 2025)に直結します。

3つの提案

具体的な行動指針として、以下の3点を提案します。

  1. 就寝1時間前の「完全デジタルデトックス」の徹底。
  2. 受動的なスクロールではなく、目的を持ったアクティブな利用への転換。
  3. SNSの利用を「依存」の段階(PSMU)へ移行させないための自己モニタリング。

私たちが手にするデバイスの向こう側には、世界最高の知能が結集して作り上げた、私たちの注目(Attention)を奪い去るためのアルゴリズムが存在しています。そのアルゴリズムから自らの眠りと健康を奪還すること。それこそが、情報過多の時代を生き抜くための防衛策なのです。

参考文献

Ndubisi, A., Agyapong-Opoku, F., & Agyapong, B. (2025). Social Media Use and Sleep Quality in Adolescents and Young Adults: A Scoping Review of Reviews. Children, 13, 51. https://doi.org/10.3390/children13010051

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