脈が乱れて速くなる「心房細動」
脈が飛んだり、抜けたり、一瞬強くなったりする「期外収縮」
よくわからないけれど、ドキドキする、、、
不整脈か、不整脈を疑うような症状を自覚されている方。
あるいは、健康診断で何らかの心電図異常を指摘された方。
まずは循環器内科を受診されることをお勧めします。
しかし、ご自身でできることはないのでしょうか?
もちろんあります。
不整脈を有する人に対するヨガの効果
不整脈を有する人に対するヨガの効果に関するレビュー論文をご紹介します。
A Review on Role of Yoga in the Management of Patients with Cardiac Arrhythmias.
Int J Yoga. 2021;14(1):26-35.
関連する合計240件の論文のうち、基準を満たした6つの論文を対象にレビューしています。
● 心房細動の発作に対する効果を評価した論文
2つの論文では、一過性心房細動患者の心房細動発作に対するヨガの効果が評価しています。2つの論文といっても同じ著者が同じ母集団を対象にしている研究です。(J Am Coll Cardiol. 2013;61:1177–82.)(J Am Coll Cardiol. 2011;57:e129.)
約50人の一過性心房細動患者を対象に、初めの3ヶ月は「対照期間」として通常治療で観察し、次の3ヶ月を「ヨガ介入期間」として通常治療に加えてヨガを週2回以上、60分 /回を行いました。
結果、対照期間と比較して、ヨガ介入期間では、心房細動発作が有意に減少したことが示されました(P < 0.001)。また、対照期間に心房細動を発症していた患者の22%(n=11)が、ヨガ介入期間でには心房細動を発症していませんでした。
● 期外収縮に対する効果を評価した論文
2つの研究では、2つの異なる不整脈を持つ患者の心電図所見を評価しています。
1つの研究(Explore (NY) 2012;8:12–5. )は、心室性期外収縮を有する患者にヨガを1日45分、週3日、3ヶ月間行うことでQT dispersionやJT dispersionという指標が改善されました。
ちょっと難しいのですが、これらの指標は、心筋の電気的不安定マーカーや心筋梗塞の突然死予測因子として知られているものです。つまりヨガが心臓リスクの軽減に寄与する可能性が示唆されたわけです。
この効果は、副交感神経活動の増加と交感神経活動の減少といった自律神経機能の改善によるものであると考察されています。
もう1つの研究(Int J Cardiol. 2006;108:124–5. )では、動悸症状、心室性期外収縮を有する患者2人にヨガを週6日、2ヶ月間実践することで、動悸エピソードが減り、傾斜負荷時の心室性期外収縮が減少、5分間の心電図で心室性期外収縮が見られなかったと報告されています。まあ、n=2の報告なのですが。。。
● 血行動態に対する効果を評価した論文
3つの研究で、発作性心房細動を有する患者の心拍数、収縮期血圧、拡張期血圧などの血行動態パラメータに対するヨガの効果が評価しています。
(J Am Coll Cardiol. 2013;61:1177–82.)
(Eur J Cardiovasc Nurs. 2013;12:S7. )
(Eur J Cardiovasc Nurs. 2017;16:57–63.)
3つの研究全てにおいて、ヨガを行うことで心拍数、収縮期血圧、拡張期血圧が対照に比べて有意に低下しました。
● その他の効果
その他、発作性心房細動や不整脈のある患者に対しヨガを行うことで抑うつや不安が軽減したり、QOLが改善するなどの報告が複数あります。
具体的なヨガのメニューは?
どの程度ヨガを行うと効果が期待できるのでしょうか。上記レビュー論文でとりあえげている研究を要約すると概ねこんな感じです。
・実践時間:45分〜60分
・実施頻度:週に1日〜6日
・実施期間:2〜3ヶ月
メニューとしては、プラナヤマ(呼吸法)または深呼吸は、すべての研究で行われていました。プラナヤマに続いて、リラクゼーションと瞑想も、1つを除いたすべての研究で行われていました。それに引き続き、アーサナ(ポーズや体位)が行われました。
一例として、心房細動の発作に対する効果をみた研究(J Am Coll Cardiol. 2013;61:1177–82.)のメニューを提示しておきます。
約60分間、週2回、3ヶ月間行い、1回の構成は以下の通り。
・10分間のプラナヤマ(呼吸法)
・10分間のウォームアップエクササイズ
・30分間のアーサナ(ポーズや体位)
・10分間のリラクゼーションエクササイズ、瞑想
プラナヤマ(呼吸法)は3つ用いました。(具体的な方法はググって下さい)
i) ujjayi (“sounding” breath)
ii) dirghapranayama (“complete” or “three-part” breath)
iii) nadishodhana(a form of alternate nostril breathing)
アーサナ(ポーズや体位)は以下の姿勢を30~60秒で、何度か繰り返し行いました。(具体的な方法はググって下さい)
sukhasana (easy posture)
bitilasana (cow posture)
adhomukhavirasana (modified child posture)
dandasana (stiff posture)
janusirsana (modified head on knee posture)
paschimottanasana (intense back stretch posture modified) tadasana (mountain posture)
uttanasana (intense forward stretch posture)setubandhasarvangasana (full bridge posture),
sputa padangusthasana (reclining big toe posture)
pavanamuktasana (wind relieving posture)
shavasana (corpse posture).
ヨガはなぜ不整脈に効果的なのか?
心房細動をはじめとする不整脈にヨガの有効性が期待できる正確なメカニズムは不明です。
心房細動などの不整脈の発症前には、自律神経系のバランスが崩れる、特に交感神経系の変動がしばしば見られることが知られています(Int J Cardiol 1998;66:275–83.)。
また、全身および局所的な炎症、酸化ストレス、内皮機能障害が続くと、心房細動が出現、持続しやすくなります。
ヨガは、全身のストレスを軽減させ、視床下部-下垂体-副腎軸を調節することで、交感神経系の活動を抑制し、副交感神経系の活動を増加させます。そして血圧を低下させ、内皮機能を改善し、炎症を抑えることが示されています。
まとめると、以下のような多面的な効果により、心房細動や不整脈を予防すると推測されています。(J Am Coll Cardiol. 2013;61:1177–82.)
1) ベースラインの副交感神経緊張を高める。
2) 自律神経系の極端な変動を抑制する。
3) 心房リモデリング(心臓の組織の変性、変形のこと)を抑制する。
まとめ
ヨガは、一過性心房細動や心室性期外収縮といった不整脈、動悸のある患者の発作や動悸症状の頻度や程度を軽減し、心拍数、血圧などを落ち着かせ、不安や抑うつを軽減し、健康関連のQOLを改善、特にメンタルヘルスを改善する効果的な補助手段と考えられます。
不整脈やそれを疑う動悸症状がある方は、まずは循環器内科を受診し、医師の指示に従ってください(当クリニックにもどうぞ!)。それとともに補助的手段としてヨガを試してみることは有力は選択肢となります。
初めはインストラクターに指導を仰ぐことが良いと思います。
こちらも参考に。
https://www.zenplace.co.jp/yoga/
【参考文献】
・Sharma G, Mooventhan A, Naik G, Nivethitha L. A Review on Role of Yoga in the Management of Patients with Cardiac Arrhythmias. Int J Yoga. 2021;14(1):26-35. doi:10.4103/ijoy.IJOY_7_20
・Lakkireddy D, Atkins D, Pillarisetti J, Ryschon K, Bommana S, Drisko J, Vanga S, Dawn B. Effect of yoga on arrhythmia burden, anxiety, depression, and quality of life in paroxysmal atrial fibrillation: the YOGA My Heart Study. J Am Coll Cardiol. 2013 Mar 19;61(11):1177-82. doi: 10.1016/j.jacc.2012.11.060. Epub 2013 Jan 30. PMID: 23375926.