近年、スマートウォッチや携帯型デバイスが日常生活の一部となり、その中でも心臓のリズム異常、特に心房細動(Atrial Fibrillation, AF)の早期発見を目的とした機能が注目を集めています。この機能は、特に脳卒中のリスクを軽減する可能性があるため、多くの患者や医療従事者にとって魅力的な選択肢です。
しかし、これらのデバイスは本当に信頼できるのでしょうか?本記事では、2023年に発表されたMannhartらの研究をもとに、5つの市販デバイスの臨床的有用性について解説します。
なぜ心房細動の早期発見が重要か
心房細動は、不整脈の中で最も一般的な一つで、適切に管理されない場合、血栓形成による脳卒中や心不全のリスクを増加させます。そのため、心房細動を迅速かつ正確に検出することは、患者の予後を改善する鍵となります。スマートデバイスによる心房細動検出は、従来の医療機関で行う12誘導心電図(12-lead ECG)や24時間ホルター心電図に代わる簡便で非侵襲的な方法として期待されています。
スマートウォッチの性能比較
本研究では、バーゼル大学病院を受診し、カテーテルアブレーション手術、電気的除細動、ペースメーカー、または植込み型除細動器の植え込みが予定されている患者(心房細動出現の可能性が通常よりも高い患者たち)、約200人が対象となりました。
患者は 12 誘導 ECGを受け、その後 30 秒間 、下記5つのウェアラブル スマート デバイスで記録されました。
- Apple Watch 6
- Samsung Galaxy Watch 3
- Withings ScanWatch
- Fitbit Sense
- AliveCor KardiaMobile
各デバイスのAF検出精度は、感度(Sensitivity)、特異度(Specificity)、および不確定トレーシング率で評価されました。
不確定トレーシング率(Inconclusive Tracing Rate)とは、スマートウォッチが心拍リズムの解析を試みた際に、結果を「AF(心房細動)」や「SR(洞調律)」と確定できず、「不確定」と分類されたトレーシング(記録)の割合です。
デバイス | 感度 (%) | 特異度(%) | 不確定率 (%) |
---|---|---|---|
Apple Watch 6 | 85 | 75 | 18 |
Samsung Galaxy Watch 3 | 85 | 75 | 17 |
Withings ScanWatch | 58 | 75 | 24 |
Fitbit Sense | 66 | 79 | 21 |
AliveCor KardiaMobile | 79 | 69 | 26 |
Apple Watch 6とSamsung Galaxy Watch 3は感度が最も高く85%、特異度が75%でした。一方で、Withings ScanWatchは感度が58%と最も低く、不確定トレーシングも24%と高い結果を示しました。
医師による手動解釈の追加
自動解析アルゴリズムによる診断では、不確定とされたトレーシングが20%程度存在しましたが、医師による手動解釈では、これらの95%以上が正確に診断可能で、感度98%、特異度100%という結果を示しました。このことから、デバイスの自動解析は補助的な役割にとどまり、最終的な診断には医師の関与が必須であることが示唆されます。
患者視点からのデバイス選び
この研究で興味深いのは、患者の受容性についても評価されている点です。最も人気のあったデバイスはApple Watch 6で、患者の39%が選びました。その理由として、デザインの良さ(42%)やブランドへの信頼性(21%)が挙げられています。一方で、デバイスによる診断結果の正確性への過度な期待や、データプライバシーへの懸念も指摘されています。
スマートウォッチの限界
本研究は、スマートデバイスが臨床現場でどのように役立つかを示すと同時に、その限界も浮き彫りにしています。医療従事者はこれらのデバイスを「補助診断ツール」として活用し、過信せず、適切に患者教育を行う必要があります。デバイスの特性やアルゴリズムの限界を理解し、得られたデータを正確に解釈することで、診療の質を向上させることが可能です。
結論
スマートウォッチによるAF検出は、医療の質や患者アウトカム向上の可能性を秘めています。しかし、現時点では、デバイスの自動解析に依存するのではなく、専門家による確認と解釈を組み合わせるハイブリッドアプローチが最善の選択肢です。購入を検討している方は、デバイスの特性を理解した上で選択し、医師と連携することで最大限のメリットを享受できるでしょう。
参考文献
Mannhart D, Lischer M, Knecht S, du Fay de Lavallaz J, Strebel I, Serban T, Vögeli D, Schaer B, Osswald S, Mueller C, Kühne M, Sticherling C, Badertscher P. Clinical Validation of 5 Direct-to-Consumer Wearable Smart Devices to Detect Atrial Fibrillation: BASEL Wearable Study. JACC Clin Electrophysiol. 2023 Feb;9(2):232-242. doi: 10.1016/j.jacep.2022.09.011. Epub 2023 Jan 18. PMID: 36858690.