プロローグ:『お菓子の王国』へようこそ
あるところに、なんでも自由に食べられる『お菓子の王国』がありました。そこでは砂糖が「愛の結晶」、加糖飲料が「希望の雫」として崇められており、王国民はそれはもう幸せそうに、おやつとジュースを片手に日々を過ごしていました。大きな炭酸飲料の湖、フルーツキャンディの山脈、カラフルなチョコレートの森――。すべてが美しく甘く、そしてたちまち体に吸収されていく魔法の国です。
しかし、この王国の裏側では、深いところで不穏な動きが進行していました。静かに、しかし着実に――。
第一幕:王国内の『酸化ストレス陰謀団』
王国民がせっせと砂糖を摂取するたびに、体内の細胞たちは「エネルギー生成装置(ミトコンドリア)」をフル稼働していました。普通なら問題ないはず。しかし、毎日36gの砂糖(男性の推奨摂取限界)や、64gも入ったレモンソーダをゴクゴク飲んでいたらどうなるでしょう?
ある細胞がこう叫びます――「働け!働け!電子伝達系をフルスロットルだ!」
ところが、限界を超えた働き方改革を無視した結果、電子が漏れ始めました。この漏れた電子が酸素と反応して「スーパーオキシドアニオン(O₂⁻)」が生まれます。「やれやれ、酸素まで過労死かい?」と細胞たちが呟く間もなく、スーパーオキシドは『活性酸素種(ROS)』に変わり、細胞内を駆け巡り始めます。
ROS「俺たちは自由だ!DNAも脂質もタンパク質も、俺たちの酸化の力でメチャクチャにしてやる!」
細胞たちは大混乱。ROSが過酸化水素(H₂O₂)に変わり、さらにフェントン反応で最強の破壊者ヒドロキシルラジカル(·OH)まで登場する始末。「もう無理だ!SOS!」と叫ぶ細胞たち。
第二幕:動脈硬化の予言書
さて、この王国の騒動を見逃すわけにはいかない組織がありました。それが『血管委員会』。
ROS「LDL、ちょっとこっち来い。お前を酸化してやるよ」
酸化されたLDLはもはや通常業務に戻れず、泡沫細胞として血管壁に住みついてしまいます。血管内の掃除屋であるマクロファージも、この泡沫細胞に取り込まれ、ついに動脈硬化が発生!
細胞A「やめて!血流が詰まる!」
細胞B「静かに!今、AGEs(高度糖化最終生成物)がRAGE(その受容体)を活性化して、NF-κBを暴れさせてるんだ!」
NF-κB「サイトカイン、接着分子、みんな出動だ!」
血管壁は炎症でパンパン、そして硬くなり、ついには心筋梗塞や脳卒中を招く準備が整ってしまいました。
第三幕:王国の高血圧問題
お菓子の王国では、もう一つの危機――高血圧――が進行していました。ROSが一酸化窒素(NO)を破壊し、血管を緩める力が減少していたのです。
NO「もうダメだ……O₂⁻が俺を捕まえ、ペルオキシナイトライト(ONOO⁻)に変えちまった」
その結果、血管はキュッと収縮し、心臓は「もっと血液を送れ!」と過労死寸前の働きを強いられます。動脈が高圧で耐える構図が出来上がり、そこに砂糖が生んだ過剰インスリンがさらに拍車をかけました。
第四幕:心臓、ついに悲鳴を上げる
ある日、王国一のスイーツ好き、ジョーが病院で言われました。「心筋症です」
ジョー「え?ただ甘いものが好きなだけなのに?」
医師「あなたの心筋細胞は、ROSの暴走と高インスリン血症のせいで機能を低下させてしまったんです」
さらに医師は続けます。「過剰な糖は不整脈も引き起こします。ROSが心筋細胞のイオンチャネルに悪さをして、電気的興奮が乱れているんです」
ジョー「そんな……私の心臓が、甘さに負けるなんて」
第五幕:反省と希望のスイッチ
王国民たちはついに気づきました。甘さの裏に潜むリスクに。
・炭酸飲料1缶(355ml)=36gの砂糖→体内ではROSのパーティー会場に。
・AGEs、NF-κB、そしてNADPHオキシダーゼ→体内炎症と動脈硬化の黒幕。
・NOを破壊するROS→高血圧への一直線。
しかし、希望はあります。
医師「適量を守ればいいんです。水を飲み、加工食品を避け、無糖の選択を増やすことです。抗酸化物質(ビタミンCやE)を摂れば、ROSの暴走は抑えられます」
ジョーは言いました。「私、お菓子の王国を出ます。これからはバランスの取れた食事を楽しんで、血管と心臓を大切にします」
医師は笑いました。「それが正解です。あなたの細胞たちも、きっと喜びますよ」
エピローグ:未来への一歩
こうして、お菓子の王国は静かに姿を消し、人々は適切な糖の摂取と健康的な生活へと舵を切りました。甘さと酸化ストレスの攻防戦に終止符が打たれたのです。
あなたの心臓は甘い誘惑より、健やかな未来を求めています。今こそ一歩、踏み出してみませんか?
参考文献
Prasad K, Dhar I. Oxidative Stress as a Mechanism of Added Sugar-Induced Cardiovascular Disease. Int J Angiol. 2014;23(4):217-226. doi:10.1055/s-0034-1387169