デジタルスクリーンタイムと近視の関連性

Digital Health

はじめに

近視(近視性屈折異常)は、世界的に急増しており、2050年までに世界人口の約50%が近視になると予測されています。この急増は、環境要因の影響が強く、特に都市部での生活習慣の変化と関連していると考えられています。近年、デジタルデバイスの普及が加速し、子供から成人まで、スマートフォン、タブレット、パソコン、テレビ、ゲーム機などの画面に触れる時間が増加しています。しかし、これらのデバイス使用が近視のリスクをどの程度増加させるのか、その安全な閾値はどこにあるのかについては、未だ不明な点が多く残されていました。

このたび発表されたAhnul Haらのシステマティックレビューおよび用量反応メタアナリシス(dose-response meta-analysis: DRMA)は、この疑問に明確な回答を示しました。本研究は、デジタルスクリーンの使用時間と近視の発症・進行との関連性を精緻に解析し、1日のスクリーン時間が近視リスクをどのように変化させるのかを定量的に示しました。

研究の概要と方法論

本研究は、PubMed、EMBASE、Cochrane Library、CINAHL、ClinicalTrials.govなどの主要な医学データベースから、デジタルスクリーン使用と近視の関連を調査した研究を系統的に検索し、45件の研究(対象者総数335,524人)を統合しました。メタアナリシスでは、MOOSE(Meta-analysis of Observational Studies in Epidemiology)およびPRISMA(Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses)ガイドラインに準拠し、特に用量反応メタアナリシスを適用することで、スクリーン時間と近視リスクの非線形な関係を明らかにしました。

主要な結果と考察

1時間のスクリーンタイム増加で21%リスク上昇

本研究の線形メタアナリシスでは、スクリーン時間が1日1時間増加するごとに、近視の発症リスクが21%上昇することが示されました(オッズ比 [OR] 1.21、95% CI: 1.13-1.30)。この結果は、統計学的に極めて有意であり、デジタルスクリーンの使用が近視の発症と進行に寄与している可能性を強く示唆しています。

非線形なリスク増加と安全閾値の可能性

非線形メタアナリシスの結果、スクリーン時間が1〜4時間の間で急激にリスクが増加し、4時間以上ではリスク上昇が緩やかになるS字型(sigmoidal)の用量反応曲線が示されました。具体的には、1時間の使用でORが1.05(95% CI: 1.01-1.09)、4時間の使用でORが1.97(95% CI: 1.56-2.40)に達していました。つまり、1日4時間までは近視リスクが急激に上昇し、それを超えると上昇率が鈍化する傾向がありました。

年齢による影響の違い

対象者を年齢別に解析したところ、2〜7歳(OR 1.42、95% CI: 1.12-1.78)、8〜18歳(OR 1.12、95% CI: 1.07-1.18)、19歳以上(OR 1.16、95% CI: 1.02-1.32)と、全年齢層でスクリーン時間と近視リスクの正の相関が確認されました。特に幼児期のスクリーン時間の増加は、より顕著なリスク増加につながることが示唆されます。

対象年齢に関する詳細

全体の平均年齢は9.3歳(標準偏差4.3歳)

この研究では、全体の平均年齢は9.3歳(標準偏差4.3歳)であり、主に子供や若年層を対象としていますが、一部の研究では成人も含まれています。具体的には、以下のような年齢層が含まれています。

  1. 子供と若年層: 多くの研究は2歳から18歳までの子供や若年層を対象としており、特に6歳から12歳の学童期の子供が多く含まれています。例えば、中国の研究では10.6歳(標準偏差1.2歳)の小学生を対象としたものや、ドイツの研究では3歳から17歳までの子供や若年層を対象としたものがあります。
  2. 成人: 一部の研究では、大学生や若年成人(18歳以上)も含まれています。例えば、中国の研究では19.6歳(標準偏差0.9歳)の大学生を対象としたものや、サウジアラビアの研究では21.3歳(標準偏差2.0歳)の大学生を対象としたものがあります。また、韓国の研究では15歳から59歳までの成人を対象としたものもあります。

具体的な研究例

  • Huang et al. (2019): 中国の大学生(平均年齢19.6歳)を対象とした研究で、スマートフォンとコンピュータの使用時間と近視の関連性を調査しました。
  • Makhdoum et al. (2023): サウジアラビアの大学生(平均年齢21.3歳)を対象とした研究で、デジタルデバイスの使用時間と近視の有病率を調査しました。
  • Han et al. (2024): 韓国の15歳から59歳までの成人を対象とした研究で、スマートフォン、タブレット、コンピュータの使用時間と近視の関連性を調査しました。

成人の割合

全体の参加者数は335,524人であり、そのうち成人の割合は明確には記載されていませんが、いくつかの研究で成人が含まれていることが確認できます。例えば、中国の大学生を対象とした研究では968人、サウジアラビアの大学生を対象とした研究では433人、韓国の成人を対象とした研究では3,072人が含まれています。これらの数値から推測すると、成人の割合は全体の数パーセント程度と考えられます。

主な焦点は子供や若年層

この研究は主に子供や若年層を対象としていますが、一部の研究では成人も含まれており、特に大学生や若年成人を対象とした研究がいくつかあります。成人の割合は全体の数パーセント程度であり、主な焦点は子供や若年層におけるデジタルスクリーン時間と近視の関連性にあります。

既存研究との比較と新規性

これまでのメタ分析では、デジタルスクリーン時間と近視の関連性について一貫した結果が得られていませんでした。例えば、Lanca et al. (2020) は5つの観察研究を分析し、スクリーン時間と近視の間に有意な関連性を見出せませんでした(OR 1.02; 95% CI 0.96-1.08)。一方、Foreman et al. (2021) は11の観察研究を分析し、スマートデバイスの使用が近視と関連していることを示しました(スマートデバイスのみのOR 1.26; 95% CI 1.00-1.60)。それらは個々のデバイス(スマートフォンやパソコンなど)ごとに分けて解析したものが多く、統一的な結論には至っていませんでした。
また、従来の研究は主にカテゴリー解析(例:「2時間以上 vs 2時間未満」)に基づいていたため、具体的な用量反応関係が明確に示されていませんでした。
本研究は、線形および非線形の用量反応メタアナリシスを組み合わせることで、デジタルスクリーン使用と近視リスクの関係を定量的かつ連続的に評価し、安全閾値の可能性を示した点で新規性を有しています。

実践的アドバイス

この研究結果を踏まえ、読者が実際に日常生活で実践できる対策として、以下のような行動が推奨されます。

  • スクリーン時間を1日1時間未満に抑える努力をする
    1時間未満であれば、近視リスクは比較的抑えられる可能性があります。
  • 長時間のスクリーン使用を避ける(特に4時間を超えない)
    4時間以上の使用ではリスク上昇は緩やかになりますが、それでも視力への影響は無視できません。
  •  定期的に休憩をとる
    20-20-20ルール(20分ごとに20秒間、20フィート先を見る)を実践し、目の疲労を軽減する。
  • 定期的に屋外で過ごす時間を設ける
    屋外活動が近視リスクを低減することは、多くの研究で示唆されています。
  • 子供や若年層におけるスクリーン時間の管理を徹底する
    幼少期のスクリーン時間の増加は、より顕著な近視リスク増加につながります。
  • 適切な照明と姿勢
    スクリーン使用時の照明を適切に調整し、正しい姿勢を保つことで目の負担を軽減します。

まとめ

本研究は、デジタルスクリーン使用時間と近視リスクの定量的な関係を明確に示し、安全閾値の可能性を示唆する重要な知見を提供しました。今後、臨床医や公衆衛生専門家がこの結果を基に、より適切なガイドラインを策定し、近視の増加を抑えるための対策を講じることが求められます。

参考文献

Ha A, Lee YJ, Lee M, Shim SR, Kim YK. Digital Screen Time and Myopia: A Systematic Review and Dose-Response Meta-Analysis. JAMA Network Open. 2025;8(2):e2460026. doi:10.1001/jamanetworkopen.2024.60026

追記:デジタルスクリーンタイムが長くなると近視が進行するメカニズム

デジタルスクリーンタイムが長くなると近視(近視性屈折異常)が進行するメカニズムについては、いくつかの仮説が提唱されています。以下に、その主要なメカニズムを解説します。


近業活動による眼球の形状変化

近業活動(近くを見る作業)が長時間続くと、眼球の形状が変化し、眼軸長が延長することが知られています。眼軸長が長くなると、光が網膜の手前で焦点を結ぶため、近視が進行します。

  • メカニズム: 近くを見る作業が続くと、毛様体筋が緊張し、水晶体が厚くなります。この状態が長期間続くと、眼球が前後に伸びるように適応し、眼軸長が延長します。この変化は、特に成長期の子供で顕著です。
  • 根拠となる研究:
    Morgan et al. (2018) は、近業活動が眼軸長の延長を引き起こし、近視の進行につながることを示しました。
    参考文献: Morgan, I. G., French, A. N., Ashby, R. S., et al. (2018). The epidemics of myopia: Aetiology and prevention. Progress in Retinal and Eye Research, 62, 134-149. doi:10.1016/j.preteyeres.2017.09.004

ドーパミン分泌の低下

屋外活動が少なく、デジタルスクリーンを使用する時間が長くなると、網膜のドーパミン分泌が低下します。ドーパミンは眼球の成長を抑制する役割を持っており、その分泌が減少すると眼軸長が延長し、近視が進行します。

  • メカニズム: 自然光(特に波長が短い青色光)は、網膜のアマクリン細胞を刺激し、ドーパミンの分泌を促進します。しかし、屋内でデジタルスクリーンを使用する時間が長くなると、自然光への曝露が減少し、ドーパミン分泌が低下します。
  • 根拠となる研究:
    Ashby et al. (2009) は、動物実験において、ドーパミンが眼球の過成長を抑制することを明らかにしました。
    参考文献: Ashby, R., Ohlendorf, A., & Schaeffel, F. (2009). The effect of ambient light on lens-induced myopia in chicks. Investigative Ophthalmology & Visual Science, 50(11), 5348-5354. doi:10.1167/iovs.09-3419

ブルーライトの影響

デジタルスクリーンから発せられるブルーライトは、網膜に直接的な影響を与える可能性があります。ブルーライトは波長が短く、エネルギーが高いため、網膜細胞にストレスをかけ、近視の進行を促進する可能性があります。

  • メカニズム: ブルーライトは、網膜の光受容体細胞に酸化ストレスを引き起こし、細胞の機能を低下させます。これが眼球の成長調節に影響を与え、眼軸長の延長を促進する可能性があります。
  • 根拠となる研究:
    Ouyang et al. (2020) は、ブルーライトが網膜細胞に与える酸化ストレスのメカニズムを詳細に調査しました。
    参考文献: Ouyang, X., Yang, J., Hong, Y., & Wu, Y. (2020). Mechanisms of blue light-induced eye hazard and protective measures: A review. International Journal of Ophthalmology, 13(5), 179-188. doi:10.18240/ijo.2020.05.01

調節機能の低下

デジタルスクリーンを長時間見続けると、目の調節機能(ピントを合わせる能力)が低下します。調節機能の低下は、近視の進行を促進する一因となります。

  • メカニズム: デジタルスクリーンを見る際には、近距離に焦点を合わせるために毛様体筋が緊張します。この状態が長時間続くと、調節機能が疲労し、眼球が近視化する方向に適応します。
  • 根拠となる研究:
    Lin et al. (2016) は、近業活動が調節機能の低下を引き起こし、近視の進行につながることを示しました。
    参考文献: Lin, Z., Vasudevan, B., Mao, G. Y., et al. (2016). The influence of near work on myopic refractive change in urban students in Beijing: A three-year follow-up report. Graefe’s Archive for Clinical and Experimental Ophthalmology, 254(11), 2247-2255. doi:10.1007/s00417-016-3440-9

屋外活動の減少

デジタルスクリーンタイムが長くなると、屋外活動の時間が減少します。屋外活動は近視の進行を抑制する保護因子として知られています。

  • メカニズム: 屋外活動により、自然光への曝露が増加し、ドーパミン分泌が促進されます。また、遠くを見る機会が増えることで、調節機能がリラックスし、眼球の過成長が抑制されます。
  • 根拠となる研究:
    He et al. (2015) は、屋外活動が近視の進行を抑制する効果をランダム化比較試験で明らかにしました。
    参考文献: He, M., Xiang, F., Zeng, Y., et al. (2015). Effect of time spent outdoors at school on the development of myopia among children in China: A randomized clinical trial. JAMA, 314(11), 1142-1148. doi:10.1001/jama.2015.10803

総括

デジタルスクリーンタイムが長くなると、近視が進行するメカニズムは多岐にわたります。主な要因として、近業活動による眼軸長の延長、ドーパミン分泌の低下、ブルーライトの影響、調節機能の低下、および屋外活動の減少が挙げられます。これらのメカニズムは相互に関連しており、特に成長期の子供において近視の進行を促進します。

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