ホルモン避妊薬と静脈血栓塞栓症(VTE)リスク

女性医療

はじめに

ホルモン避妊薬は世界中の多くの女性が使用する避妊手段ですが、その使用が静脈血栓塞栓症(VTE)のリスクを増加させることは以前から指摘されてきました。しかし、新しい低用量エストロゲン製剤や新規プロゲスチン、バイオアイデンティカルエストロゲンを含む避妊薬のVTEリスクについては、これまで十分に検討されていませんでした。

本研究は、デンマークの全国規模のデータを用い、最新のホルモン避妊薬とVTEリスクの関連を詳細に検討したものです。これにより、避妊薬の選択においてより精密なリスク評価が可能になり、個々の女性に適した選択肢を提供するための科学的根拠が強化されると期待されます。

研究の方法

この研究は、デンマークの全国登録データを用いた大規模コホート研究です。対象者は、15~49歳の女性であり、以下の条件を満たす者が除外されました。

  • 過去に血栓症の既往がある
  • 癌、肝疾患、腎疾患、PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)、子宮摘出、卵巣摘出、ホルモン療法の既往がある
  • 妊娠中や手術を受けた期間は一時的に解析から除外

対象者は2011年1月1日から2021年7月1日まで追跡され、VTE(下肢深部静脈血栓症または肺塞栓症)の初回発症がアウトカムとして設定されました。

ホルモン避妊法の使用は、処方箋の償還記録によって決定されました。これには、エストロゲンとプロゲスチンを含む経口避妊薬(配合錠)、膣内リング、パッチ、プロゲスチン単独錠、子宮内避妊器具(IUD)、インプラント、注射剤が含まれます。Poisson回帰を用いてVTEリスクを年齢、教育水準、心血管疾患、慢性炎症性疾患などで調整した上で解析が行われました。

研究結果

1,397,235人の女性を8,455,601人年追跡した結果、2,691件のVTEが発生しました。標準化されたVTE発生率は、非使用者で10,000人年あたり2.0件(95% CI, 1.9-2.1)でした。一方、配合錠では10.0件(95% CI, 9.2-10.9)、膣内リングでは8.0件(95% CI, 4.6-12.8)、パッチでは8.1件(95% CI, 1.5-25.1)、プロゲスチン単独錠では3.6件(95% CI, 2.8-4.7)、IUDでは2.1件(95% CI, 1.7-2.6)、インプラントでは3.4件(95% CI, 1.7-6.3)、注射剤では11.9件(95% CI, 4.4-25.6)でした。

非使用者と比較したVTE発生率比は、配合錠で4.6(95% CI, 4.2-5.0)、膣内リングで4.5(95% CI, 3.1-6.5)、パッチで5.0(95% CI, 2.1-12.0)、プロゲスチン単独錠で1.8(95% CI, 1.4-2.3)、IUDで1.0(95% CI, 0.8-1.1)、インプラントで2.4(95% CI, 1.4-4.0)、注射剤で5.7(95% CI, 3.5-9.3)でした。

  • 対象者数:1,397,235人
  • 追跡期間:8,455,601人年
  • VTE発症数:2,691件

ホルモン避妊薬の種類ごとのVTE発症率(10,000人年あたり)は以下の通り。

※ COC(Combined Oral Contraceptive)経口複合ホルモン避妊薬
  EE(Ethinyl Estradiol, エチニルエストラジオール)COCに含まれる合成エストロゲン 

避妊方法標準化発生率(IR, 95% CI)VTEリスク比(未使用者基準)
ホルモン避妊薬未使用2.0(1.9–2.1)基準
経口避妊薬(COC, 30-40µg EE+ノルゲスチメート)13.2(8.4–19.7)5.4倍
経口避妊薬(COC, 30-40µg EE+デソゲストレル)16.2(11.6–22.2)7.9倍
経口避妊薬(COC, 30-40µg EE+ゲストデン)14.7(11.6–18.3)6.7倍
低用量エストロゲン(20µg EE+レボノルゲストレル)5.0(1.4–12.5)2.5倍
膣リング8.0(4.6–12.8)4.5倍
貼付剤8.1(1.5–25.1)5.0倍
プロゲスチン単独避妊薬3.6(2.8–4.7)1.8倍
レボノルゲストレルIUD(52mg)2.0(1.6–2.5)変化なし
注射型避妊薬11.9(4.4–25.6)5.7倍

この結果から、特に第3世代プロゲスチン(デソゲストレル、ゲストデン)を含む経口避妊薬はVTEリスクを高めることが明らかになりました。また、レボノルゲストレルIUDはVTEリスクを増加させないことも確認されました。

分子生物学的視点

VTEリスクの増加は、エストロゲンが肝臓での凝固因子の産生を促進することに関連しています。特に、第三世代プロゲスチンを含む配合錠では、VTEリスクが顕著に高いことが示されました。これは、第三世代プロゲスチンがエストロゲンによる凝固促進作用を増強するためと考えられます。一方、バイオアイデンティカルエストロゲンを含む製剤でもVTEリスクの増加が観察されましたが、そのメカニズムについてはさらなる研究が必要です。

この研究の新規性と意義

これまでの研究では、主に高用量エストロゲンや特定のプロゲスチンを含む経口避妊薬のVTEリスクが焦点となっていました。本論文は、低用量エストロゲンや新しいプロゲスチン、バイオアイデンティカルエストロゲンを含む最新の製剤におけるVTEリスクを詳細に調査した点で新規性があります。また、IUDやインプラント、注射剤など、経口避妊薬以外のホルモン避妊法についても包括的に分析しています。

限界と今後の課題

本研究にはいくつかの限界があります。まず、残存する交絡因子が存在する可能性があります。例えば、BMIや喫煙状況、家族歴などの情報が全ての対象者に対して完全には得られていないため、これらの因子による影響が完全には調整されていない可能性があります。また、デンマークの人口に基づく研究であるため、他の国や地域への一般化には限界があります。この研究は観察研究であり、因果関係の確定にはさらなるランダム化比較試験が求められます。

まとめと実践への応用

この研究から得られる実践的なポイントは以下の通りです。

  1. 経口避妊薬の選択は慎重に行う。特に第3世代プロゲスチン含有製剤はVTEリスクが高いため、既往歴がある人は注意が必要。
  2. レボノルゲストレルIUDはVTEリスクを増加させないため、安全な選択肢の一つとなる。
  3. 低用量エストロゲン(20µg)の方がリスクが低い傾向がある。
  4. BMIや喫煙、家族歴などの因子を考慮し、避妊薬の種類を選ぶ。
  5. 血栓リスクのある女性は、非ホルモン避妊法の検討も視野に入れる。

参考文献

Yonis HG, Mørch LS, Løkkegaard E, et al. Contemporary Hormonal Contraception and Risk of Venous Thromboembolism. JAMA. Published online February 10, 2025. doi:10.1001/jama.2024.28778

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