HDLの分類と組成(医療者向け)

脂質代謝

高密度リポタンパク(High density lipoprotein;HDL)は、長らく「善玉コレステロール」として知られ、動脈硬化抑制に関与する主要な血漿リポタンパクの一つです。その抗動脈硬化作用は、単なる血中HDLコレステロール(HDL-C)濃度だけでは語り尽くせず、構造的・機能的な多様性、すなわちheterogeneityに根ざしていることが近年の研究から明らかになってきました。本稿では、Xuらのレビューを基に、HDLの構造的分類と組成について解説いたします。

HDLの構造と形態的分類

HDLは、主に肝臓および小腸で産生されるリポタンパク粒子であり、血中では直径約7〜14 nmの範囲で観察されます。形態的には大きく2つに分類されます。

円板状HDL(Discoidal HDL、nascent HDL)

この型は、ATP-binding cassette transporter A1(ABCA1)によって細胞膜外層に輸送されたコレステロールやリン脂質と、肝臓・小腸由来の脱脂肪型ApoA-Iが結合することで形成されます。電子顕微鏡により初めて観察された円板状HDLは、直径70〜100Å、厚さ35〜50Åの円盤状構造を呈し、一般にpreβ-HDLと呼ばれます。

球状HDL(mature HDL)

円板状HDLは、lecithin-cholesterol acyltransferase (LCAT) によってコレステロールをエステル化することで、中心に疎水性のコアを形成し、球状構造に変換されます。この構造変化により、より成熟したHDL粒子へと移行します。球状HDLの粒子サイズは9〜20 nmで、直径によって小型・中型・大型サブクラスに分類されます。

分類法の多様性

HDLはその多様性ゆえに、さまざまな手法で分類されてきました。
未だ統一された分類が確立されていないのが現状のようです。

密度に基づく分類(HDL2/HDL3)

最も古典的な分類法では、超遠心法により密度1.063〜1.125 g/mLのHDL2(脂質に富む)と、1.125〜1.21 g/mLのHDL3(タンパク質に富む)に分けられます。さらに、非変性勾配ゲル電気泳動により、HDL2a、HDL2b、HDL3a、HDL3b、HDL3c(直径7.2〜12.0 nm)に細分類されます。

  • HDL2:1.063~1.125 g/mLで脂質に富んでいます
    HDL2a 直径8.8~9.7 nm
    HDL2b 直径9.7~12.0 nm
  • HDL3:1.125~1.21 g/mLでタンパク質含有量が多い
    HDL3a 直径8.2~8.8 nm
    HDL3b 直径7.8~8.2 nm
    HDL3c 直径7.2~7.8 nm

電荷に基づく分類(α-HDL, pre-β HDL)

アガロースゲル電気泳動では、HDLは電荷によってα-HDL(大部分)とpre-β HDL(ディスコイド型)に分かれます。2次元電気泳動を行うことで、さらにα1〜α4、preα1〜preβ2といった細分類も可能です。

α-HDL:循環HDLの大部分はα-HDL
 α1、α2、α3、α4、

・preβHDL:主に円盤状
  preα1、preα2、preα3、preβ1、preβ2

タンパク組成に基づく分類

HDL粒子中のアポリポタンパクの構成により、「ApoA-I単独型」と「ApoA-I + ApoA-II共存型」に分類されます。ApoA-II含有HDLは、より凝集性が高く、サイズもやや小型である傾向があります。

・ApoA-I単独型
・ApoA-I + ApoA-II共存型

核磁気共鳴(NMR)による分類

NMRでは、HDL粒子のサイズに応じた共鳴信号の違いをもとに、「大型HDL」「中型HDL」「小型HDL」に分類されます。この手法は非破壊的かつ高精度であり、最近の研究で多用されています。

・HDLを大、中、小のサブクラスに分類 

HDLのタンパク質構成

HDLは他のリポタンパクに比べ、タンパク質の比率が高く、その組成が機能に密接に関与しています。

主要アポリポタンパク質(Apo: apolipoprotein)

  • ApoA-I:HDLタンパク質の約70%を占める主要構成要素で、8つの22残基αヘリックス構造を持ち、脂質との親和性が高いです。LCAT活性化を通じてRCTを促進します。
  • ApoA-II:全体の20%を占め、HDLの安定性維持やApoA-Iの遊離抑制に寄与します。
  • ApoE:量的には少ないものの、二重ベルト構造を形成し細胞との相互作用を調整します。

補助酵素 Enzymes Lipid ,転移酵素transfer proteins

  • LCAT:lecithin-cholesterol acyltransferase
    コレステロールをエステル化し、HDLの成熟を促します。
  • CETP:cholesteryl ester transfer protein
    HDLからLDL/VLDLへコレステロールエステルを移動させる役割を担います。
  • PON1:paraoxonase 1
    HDLに結合し、酸化脂質を分解する抗酸化酵素で、動脈硬化予防に重要です。
  • PAF-AH、GSPx-3:platelet-activating factor-acetylhydrolase、glutathione peroxidase 3
    炎症や酸化ストレスを抑制する酵素群です。

HDLの脂質構成

近年の質量分析(MS)の進展により、HDL上に200種類以上の脂質分子が同定されています。

リン脂質 Phospholipids(全脂質の35〜50%)

  • PC:phosphatidylcholine
    主要構成脂質で、16:0/18:0、18:0/18:2などの分子種が含まれます。
  • LPC:lysophosphatidylcholine
    LCATによるPCの加水分解産物で、HDLリン脂質の約15%を占めます。
  • PE、PI:phosphatidylethanolamine, phosphatidylinositol
    抗酸化作用を持ち、HDL機能維持に重要です。

スフィンゴ脂質 Sphingolipids

  • SM:sphingomyelin
    HDL表面の膜圧や蛋白活性を制御します。
  • S1P:sphingosine-1-phosphate
    細胞増殖・遊走・アポトーシス調節に関与し、HDLの生物活性維持に不可欠です。

中性脂質 Neutral lipids(CE、TG)

  • CE:cholesterol esters
    構造安定化に寄与し、主にリノール酸エステル型が含まれます。
  • TG:triglycerides
    オレイン酸、パルミチン酸、リノール酸などが主成分で、HDL粒子の密度・機能に影響します。

まとめ

HDL-Cの単純な数値評価だけでなく、HDLの「質」を反映する指標、例えばHDLの粒子サイズ・組成・タンパク質や酵素の構成、サブクラスの分布に注目することが重要です。同じHDL-C値でも、抗動脈硬化作用に大きな差がある可能性があります。臨床医や研究者は、HDLサブクラス分析やPON1活性、LCAT活性評価といった詳細な指標を用いることで、より精緻な心血管リスク評価や個別化治療につなげることができます。


参考文献

Xu Z, Yang S, Cui L. Understanding the heterogeneity and dysfunction of HDL in chronic kidney disease: insights from recent reviews. BMC Nephrology. 2024;25:400. https://doi.org/10.1186/s12882-024-03808-3

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